トンネル建設及びトンネル設備に使用する材料は不燃で、また有害な煙を大量に発生してはいけない。加えて、火災が起きた場合、トンネルは利用者や緊急隊員がトンネルに滞在している間は崩壊することなく、重要な安全装置は少なくとも避難と消火活動が終了するまで機能しなければならない。
これらが可能かどうかは、材料が火災にどのように反応するか、またトンネル構造と設備の耐火性によって決まる。
この章は、Robin HallとC4委員会(2008〜2011)のワーキンググループ4によって執筆された。
日本語版は,大津敏郎(東日本高速道路(株))が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した.
トンネル建設に使用する材料は十分な耐火性があり、避難、消火活動の間その形を保つことが必要である。
技術レポート05.05.BのVII節."火災に対する材料の反応" 「トンネル内の火と煙の制御」にトンネル材料の特性が説明されている。材料の特性を指定する場合、火災に対する反応を含めるよう記載している。望ましい特性は以下の通り。
火災によるガスを防ぐことはできないが使用材料の選択、火災に接する時間を短縮する避難路等の安全設計により、リスクを軽減することが出来る。タイル、塗料、防水加工材など壁面覆材や照明器具の材料の特性も考慮し、これら材料の仕様に火災特性の要件を含める必要がある。
材料が燃焼中に化学的腐食または有毒物質を生成し、それらの物質が覆工コンクリート表面を浸透し、その後腐食を起こす可能性があることも考慮しなくてはならない。このことは使用される全てのコ―ティングに適用される。コンクリートはく落の危険性低減のためにポリプロピレン繊維が使用されている場合、大規模な火災により繊維が溶解し、コンクリート内の気孔が増え、中性化や塩害に対して脆弱になることから、火災後はコンクリートの耐久性を考慮しなければならない。
道路面はコンクリート又はアスファルトで舗装することが多い。 Route/Roads 記事“道路トンネル火災での車道舗装の影響” ではこれら材料の特性を、火災に対する安全性の面で説明している。コンクリートは不燃性でトンネル内での使用に問題が無い唯一の材料である。実際の火災の検証結果、また経験から、人の安全性が問題になる段階では、アスファルト舗装でも道路トンネル火災の大きさ(発熱速度、総火災負荷)が大幅に増大しないことが分かっている。漏れた燃料を路面下に貯える排水性アスファルトはトンネルには勧められない。
構造の耐火性は火災の始まりから構造の変形や崩壊により,その機能を維持できなくなるまでの経過時間によって特徴付けることが出来る。
技術レポート2007 05.16.B道路トンネルにおける火災と制御の為のシステムと機器”の第7章"耐火構造の設計基準" に、トンネルを耐火性構造とする目的を以下のようにまとめている。
補足の目的として、火災後の修復のための交通制限期間を短くする。
このテ-マの概要は、技術レポート1999 05.05.Bの第VII章.4"構造の耐火性”“トンネル内の火災と煙の制御” に記載されている。
構造物の耐火性は、異なる時間-温度曲線との関係で説明される。ISO834曲線、オランダRWS曲線、ドイツZTV曲線、とEurocode 1 Part2-2 の基本的な炭化(HC)曲線の温度に1100 分の1300の係数を乗じたフランス増加 炭化水素曲線(HCinc)を図9.2-1に示す。
図9.2-1:ISO、HCinc 、ZTV、RWSの時間-温度曲線(Routes/Roads No. 324)
"PIARC道路トンネル構造耐火設計基準" (2004年)“のthe Routes/Roads の記事でも紹介しているように、トンネル内での耐火設計基準は世界道路協会(PIARC)及び国際トンネル協会(International Tunnelling Association) の間で合意されている。そして、技術レポート2007 05.16.Bの第7章"構造の耐火基準”(PIARC勧告)として発刊されている。
提案の概要は表9.2‐2に示している。
交通方式 | 主要構造物 | 二次構造物 (4) | ||||||
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沈埋トンネル上部構造の下部/内部 | 不安定地盤中のトンネル | 安定地盤中のトンネル | 開削トンネル | 換気口(5) | 避難通路出口(外気側) | 避難通路出口(他トンネル側) | 避難所(6) | |
乗用車 | ISO 60 分 |
ISO 60 分 |
ノート(2)参照 | ノート(2)参照 | ISO 60 分 |
ISO 30 分 |
ISO 60 分 |
ISO 60 分 |
貨物車両 | RWS/HCinc 120 分(1) |
RWS/HCinc 120 分(1) |
ノート(3)参照 | ノート(3)参照 | ISO 120 分 |
ISO 30 分 |
RWS/HCinc 120 分 |
RWS/HCinc 120 分(7) |
ノート
(1) 可燃物資を運ぶ大型トラックの交通密度が多い場合は180分必要となることがある。
(2) 安全性の基準値はない。また、崩壊を避けるため以外の耐火性を必要としていない。その他の目的を考慮すると以下の要件が必要になることがある。
(3) 安全基準値はない。また、進行性崩壊を避けるため以外の耐火性を必要としていない。その他の目的を考慮すると以下の要件が必要になることがある。
(4) その他二次構造物:プロジェクトごとに定義する必要がある。
(5) 横流換気の場合。
(6) 避難所は外気が入るようにする必要がある。
(7) 可燃物を輸送する大型トラックが多く、避難所から避難するのに120分以上かかる場合は時間の延長を考慮する必要がある。
崩壊がどのような影響を及ぼすかによっては耐火性の要件が異なる。影響はトンネルのタイプによって違う。沈埋トンネルの場合、一部の崩壊によりトンネル全体が浸水する恐れがあるが、開削トンネルは影響が限定的のことがある。基本的な必要条件は進行性崩壊を防止し、重要な縦断システム、つまり電力供給や通信ケーブルが切断されないことである。
トンネル構造に使用している材料は火から守るため、それぞれ違った注意が必要である。レポート1999 05.05.B “トンネル内の火災と煙の制御”のVII節.3”材料の火災反応“で岩トンネルのライン二ング 対 鉄筋コンクリートの特徴を説明している。大火災時に発生する強烈な熱により鉄筋コンクリートはその支持機能を失う可能性がある。断熱材などで保護することによって構造が早い段階で損傷することを防ぐことが出来る。工事全体(補強/プレストレスの種類や深さ、追加の保護など)としての耐火性は考える必要がある。
コンクリートの剥離は温度と膨張の違いによっておこる。補強材が容易に高温に接することになり悪影響が及ぶ可能性がある。避難するユーザーにとっては通常危険はないが、消防士などに危険が及ぶ可能性がある。さまざまな耐火性を取り入れることによってコンクリート剥離のリスクと影響を抑えることが出来る。しかし、火災では高温になるため完全に剥離を防ぐことはできない。
換気システムの耐火性は注意して設計し、故障などで設計性能が損なわれないよう考慮しなければならない。火災時にダクト付近でトンネルが崩壊する影響を検討する必要がある。
避難通路は閉じ込められた人々の脱出のため火災の第一段階でのみ使用する。避難通路が使用できる時間は最低でも30分必要である。避難経路を救助隊、消防士が使用する場合はより長い間使用できるようにすることが必要な場合もある。
火災が隣接するトンネルや避難路に広がらないよう、緊急扉、緊急避難凹部やその他二本のトンネル間にある設備はある一定時間火災に耐えられなくてはならない。枠組みも含めた緊急扉全体および緊急扉周りの構造は最低でも30分間火にさらされても耐えられる必要がある。二つのトンネルの間にある扉の場合はより長い時間、1時間から2時間は必要だ。
耐高温性に関して、トンネル内の機器やケーブルは大きく “耐火性能保有”と“保護されていない” の二つに分けられる。
耐火性のある機器やケーブルの耐火レベルは以下のとおり。
交通標識、カメラ、坑内放送用スピーカーなど保護されていない設備は通常50oCまでの運転温度があり、比較的低い温度で破損する可能性がある。
材料は次のとおり。
保護されていない設備に使用されている材料の限界温度は以下のとおりである。
機器を固定する取り付け具は火災特性を考慮する必要がある。