道路トンネルは、インフラの景観への影響や騒音公害のなど環境影響項目のいくつかを低減することが可能であるため、道路設計者は代替案としてトンネルをますます選択する。だが、解決できない環境影響やトンネルを選択することにより環境影響が増加する項目もある。政策努力により、交通を制御し、さらに削減を試みているものの、先の10年間の交通量は増加すると予想される。したがって、道路交通に関係する環境問題を考慮する必要がある。
PIARCのトンネル委員会は、下記を踏まえて、徹底的にかつ明確に大気汚染現象を調べた。
実際には、大気汚染を考える際、換気システムのタイプに関する選択は、排気場所と排気風量を設計するための基礎を決定する。つまり、換気制御用の運用体制や空気の品質の閾値は、所用の現地の対象汚染物質を排気することにおいて、複雑な換気システムを選定するよりも、大抵の場合より効果的になり得る。
道路交通と(結果的に)車両の排出ガスは、特にトンネルのような狭い場所での深刻な環境問題を引き起こす。これらの排出ガスは、様々な汚染物質の存在により特徴付けられ、高濃度で、副作用および深刻な影響をもたらす可能性がある。PIARCのトンネル委員会は伝統的にトンネル内の車両誘発排出物と空気の品質を評価している。この目的のために、一般的なモデル化理論が見直され、関連する大気環境基準が定義され、既存の条件を特性化している。評価されモデル化された汚染物質濃度は、大気環境基準と比較される。最終的に、トンネル内部の適切な空気品質管理を保証するための緩和策が提案される(換気)。
車両から放出される熱が問題となる長大トンネルや,トンネル外の気温が高い熱帯地域においては,トンネル内の気温は重大な環境問題となる場合があり,二輪車やエアコンの付いていない車両にとって,トンネル内の温度は許容しがたいものとなる可能性がある。そのような場合の解決策としては,機械式の換気や,トンネル内での水噴霧(気化熱を利用したトンネル内の大気の冷却)が考えられる。
トンネルの排出物は、排出物が分散される地点から相対的に短い距離内の空気の品質に影響を与えるが、隣接する道路ネットワークは、より広範な領域で環境に影響を与える。それゆえにトンネルの空気の品質への影響は、そのトンネルを一部として含む外部の道路ネットワークとの関連で検討されるべきである(外気の品質に関するトンネルの影響)。
他の重要な環境問題は、騒音と振動である。環境災害の引き起こす騒音公害は、高ノイズレベルが頻繁に発生するため、工事段階で発生する可能性がある。さらに、通常交通運用における高い交通量は、許容レベルを超える可能性がある大規模なノイズレベルを、生成する可能性がある。ますます、騒音公害が高交通量道路に密接した問題になる傾向である。
騒音低減のための戦略は、計画と施工手順において、長年に渡って確立された標準手順に従う。大きな進歩としては発生源で騒音を減少させられる。つまり、特別な吸音舗装の使用は、複合機能の使用と同様に、遮音・防音バリアがますます効率的になり、騒音を減らすことができ、さらに、改良された建設機械の配備は、騒音と振動の生成を最小限に抑えることができる(騒音と振動)。
トンネルのようなインフラのライフサイクルの期間中の、水の影響は分析されなければいけないもう一つの側面である。表面や地下水理学の詳細な調査は、建設前と建設中に行われるべきである。水理学パターンや過程への最小限の遮断および変更となるように、最もダメージの少ないルートや構造要素が選択されるべきである。インフラを築き挙げる方法によって引き起こされる枯渇は、ますます重要になっているテーマである。トンネル周辺領域の水理学に関するインフラの影響についての洞察やこれらの影響の緩和方法に貢献するそれぞれの研究を実施することができる。工事現場中の建設資材の漏出物によって引き起こされる水質汚染は、漏出物を取り除くために設計された廃棄物容器を用いて低減することができる。(水への影響)
トンネル設計者と管理者の最終目的は、安全性の妥当なレベルを実現させることと環境へのあらゆる悪影響をできる限り減少させるために、機能的で環境的観点の両方から持続可能な運用を達成することである。トンネルの運用持続可能性を改善するためのさまざまな要因が考慮され分析されている。(持続可能なトンネルの運用)
この章は、C4委員会(2008〜2011)のワーキンググループ4ににより編集された。
日本語版は,味原和広(阪神高速道路(株))が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した.
道路トンネルの分野では、空気品質はトンネル内の自動車排出ガスの濃度のレベルに関して従来から考えられている。しかしながら、トンネル外の汚染物質の濃度は人々へ有害または悩ませる可能性がある。そのような汚染物濃度は、速度や風向、近隣の地形のような複雑なメカニズムに従って坑口または排気立坑から周辺環境へ急速に減少する。それゆえに、交通密度が増加した場合や都市の環境下に建設される場合には、トンネル坑口近傍またはその他の排気ポイントの空気品質に関心を払うと認識されている。
トンネル上方において、空気品質は、同じ場所にオープンエアー道路区間(明かり部)が位置づけられた場合よりも、良くなると予想される。しかしながら坑口と立坑では、交通のピストン作用と換気システムの両方または一方によって縦流または横流の気流が送りだされる際、汚染空気が放出される。バックグランド濃度やトンネル坑口または立坑に近接して位置するその他の発生源によっては、汚染物の濃度レベルは機関によって設定された最大レベルを超える可能性がある。その場合、トンネル近傍の空気品質を改善するための対策を取らなければならない。対策は、土木工事または機械工事、トンネル周辺で使用される土地計画などが挙げられる。換気指針の変更のような運用方法に基づく汚染濃度の減少は多くの場合で可能と思われる。
PIARCは、トンネルに関連した外気の空気品質に着目した技術レポート2008 R04"道路トンネル:環境に影響を与える大気質の最適化へのガイド"を発行したが、乗用車からの排出物を変更することおよびトンネル周囲の空間内におけるそれらの空間的分布を変えることによって、都市環境へ拡張するためのガイドでもある。トンネルの最適なロケーションの選定から、勾配、換気方式、排気管理、交通管理、トンネル維持管理さらには汚染物質除去技術(もし、さらに有益であれば)まで、ガイドは外気へのトンネルの影響を緩和するための幅広い範囲の設計や運用上有利な条件を考慮している。
都市部でかなり影響する可能性がある騒音は、一般に、人間に知覚される主要な不快なもののひとつとして見なされている。したがって、特に坑口や立坑の直近の音響受信の高い集中がある都市トンネルに関して、トンネルの設計時に考慮されるべきである。
交通で発生する騒音はトンネルに特有のものではない。一般に、地下インフラは音響環境に関して良い影響を持っていると見なされるが、構造によっては坑口付近に特有の問題もある。ほとんどの先進国で、騒音影響研究が新規インフラプロジェクト(または大幅な改修)毎に実施され、もちろんトンネルの存在がその段階で考慮される。
トンネルの周囲環境に影響を与える騒音の主要な発生源は交通である。トンネル内を走行する車両からの騒音の一部が、トンネル覆工によって反響し、それ自身が騒音の発生源となり坑口に到達する。一定の条件下でトンネル坑口近傍の騒音レベルは、(トンネルに)つながる明り部の騒音レベルよりも高くなり得る。しかしながら、この種の影響はトンネル坑口直近にある音響受信のみに重大となる。つまり、トンネルに由来する騒音は明り部区間の車両によって発せられた騒音の支配的な効果によって減衰させられるため、坑口から離れると騒音レベルは急激に減少する。
トンネル設備に関連する騒音発生源もある。主要な騒音発生源の1つは換気システムである。横流換気の場合、または排気立坑を有する縦流換気では、流入や流出を通してファンや気流が大きな騒音を発生する可能性があり、騒音環境基準が低目標に設定される夜間でも機能しなければならない場合もある。1つの解決策がコントロールの最適化によって換気システムの使用を減らすことかもしれないが、これは限られた程度で達成するだけである。
最も効果的な解決策は設計段階でこれらの問題を考慮に入れることである。最も際立った騒音効果が地理的に制限されると見なされる場合、空気の流入/流出を隣接するビルからできるだけ遠ざける設置をすることかもしれないが、これは費用のかなりの増加となる可能性がある。騒音発生を減少させるために、開口部のサイズを十分に大きくすることで、気流の流入/流出速度を相対的に低い値に保つべきである。さらに、ファンによって発生した騒音の換気所からの「漏洩」を防ぐために、消音器がたいてい必要である。
縦流換気の場合では、一方ではジェットファンは最高効率のために坑口のあまり近くに設置すべきでなく(結果として、ファンの騒音は交通騒音の中で「希釈される」)、そして他方ではトンネル内の許容騒音レベルを維持するために、通常は消音器がジェットファンに取り付けられるため、環境に対するファンからの騒音影響は、大抵抑えられる。しかしながら、とりわけ精度が高い機器構成のためには、詳細設計または運用方法を選択する必要がある。
交通で発生する振動は、道路トンネルの運用段階で重要な問題となることはまれである(列車は道路車両よりもより振動が発生するため、鉄道トンネルとは異なる)。そのような問題が起こるなら、最大型車両のアクセスを禁止することは別として、一般に対策はほとんどない。振動の別の発生源はファンである。これらは、過度の振動を避けるために注意深くバランスを取る必要がある。しかしながら、一般にファン振動は、環境への知覚ではなく、主として機械自身に影響を与え、そして寿命を落とす可能性がある。例えば、ジェットファンが部品を失う可能性があり、また、過度の振動のためトンネル天井から落下することさえあるため、安全上の問題でもある。振動監視はジェットファンの信頼性と安全性に極めて重要である。
建設段階の間、特に爆薬が使用されている際に、振動ははるかに問題が多い。トンネル工事と関連する環境対策は道路トンネル運用のPIARC委員会の範囲外であり、具体的な提言は ITA によって発行されている。
水質への道路施設の影響は、通常運用(炭化水素生成物、タイヤの摩耗などの漏洩)と事故状態(汚染物質の大量の流出)の両方で非常に重要となりうる。
トンネルの存在が問題を大きく変えることはない。すべての道路でそうだが、環境にリリースする前に水処理(貯水槽へ収集、汚染物質の除去)が必要である。しかしながら、水管理システムを設計する際、いくつかのトンネル特有の事実が考慮されるべきである。第一に、重交通量の都市トンネルでは毎月の頻度でトンネルは定期的に清掃される必要がある。これは洗浄剤を含む大量の排水を発生させる。第二に、危険物輸送が許可されるトンネルは、一般に、舗道上に可燃性液体のまん延を制限するために特定の排水路が備え付けられる。もし事故による流出が起こるなら、これらの排水路における液体汚染物の流量は、通常の路面で直面する流量よりも多いかもしれなく、水管理システムはこれらの流量に耐えることができるようにすべきである。
水に関連する非常に困難な問題は、例えば建設現場排水の濁りに関してなど、建設段階の間に影響を受ける環境問題に直面するかもしれない。したがって適切な措置が取られるべきである。いくつかの場合、それらはかなりの制約や建設工事費を意味する。トンネル工事と関連する問題は、道路トンネル運用に専念するPIARC委員会の範囲外である。したがって、読者は、さらなる詳細に関して ITA 提言を参照することが推奨される。
図5.3.1:セグメントで構築されたトンネル内の水の浸入
水の影響は、インフラのライフサイクルの期間中に、トンネルとして分析されなければいけないもう一つの側面である。
水に関するトンネルの影響(そしてトンネルに関する水の影響)の大部分は建設期間に発生するが、影響のいくつかは長期間に残り、そしてトンネル運用や維持管理への障害物となり得る。不都合やコストがかかることへの影響を避けるために、計画や設計段階の間、これらの推移に細心の注意を払わなければならない。表面と地下水理学の詳細調査を事前と工事中に実施するべきである。最小の遮断と最小の水理学的パターンと過程の変更となるように、最もダメージが小さいルート(そして構造要素)が選択されるべきである。
理論的には、トンネルは、不浸水性(水の浸入を許容せず、ライニング上に全水圧を発生させる)と透水性または半透水性(水のある程度の侵入を許容し、ライニング上に全水圧の発生を避ける)である。実際には、ほとんどのトンネルが工事中に透水性であり、運用時には半透水性である。図5.3.1は、セグメントで建設され不透水性となるように設計されたトンネルの水の侵入を示す。
図5.3.2:透水性の玄武岩層を流れる水
裏打ちされていない(非ライニング)トンネル(または透水性のライニングを有する)では、水の侵入が重要になる。図5.3.2は、カナダの透水性玄武岩層を通して流れる水を示す。
インフラ整備の方法によって引き起こされる地下水位の枯渇は、ますます重要になっているテーマである。その影響はたいていトンネル運用時も続き、給水井戸へ不可逆の影響を与え、地下水の元の水位はほとんどの場合で下がる。
図5.3.3:流出する排水とコンクリートライニングトンネルに沈澱している水酸化カルシウム(左) 図5.3.4:施工継目における同様の影響(右)
トンネルに流入する水は、コンクリートライニングの遊離水酸化石灰を溶かすことができ、よりアルカリ性になって、排水システムに固体析出物を放出する。この影響は、旧式の排水システムを有する古いトンネルで頻度がより高い。図5.3.3は、流出する排水とコンクリートライニングトンネルに沈澱している水酸化カルシウムを示す。図5.3.4は、施工継目における同様の影響を示す。
現在の国際的な傾向は、エネルギーの効率的な使用を促進すべきことと、公道の建設と運用に関する持続可能な方法を導入することを、道路オペレータと道路当局から求めることである。
PIARCの歴史を通じて、トンネル運用の効率を改善すること、運用コストの低減、そして環境影響の緩和を目的としているいくつかのレポートが発行されている。
「持続可能なトンネル運用」全般は、次のサイクル(2012-2015)の間にPIARCによって扱われる基本テーマである。