Manuel des tunnels routiers

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1.1 トンネルは複雑なシステムである

1.1.1 システムの複雑さ

トンネルは非常に多くのパラメータが相互に作用する結果として「複雑なシステム」を構成している.これらのパラメータはサブセットにより集約されている.そのうち主要なものを図1.1-1に示す.

これらのパラメータは全て,各サブセット内やサブセット間において,変動したり相互に作用したりしている.

パラメータや特性の相対的な重みは各トンネルの特徴によって異なる.例えば,

  • 決定基準とパラメータの重みは,都市トンネルと山岳トンネルでは同じではない.
  • パラメータはトンネルの延長や,危険物輸送車両が通行するのか旅客車両しか通行しないのかによって異なる.
  • トンネルを新設するのか,改築するのか,安全に関する新しい基準に適合させるために改良するのかによって判断基準が異なる.

図1.1-1:複雑なトンネルシステムを構成する主な要素

注1:関連性は複合的で,しばしば可逆的でもある.トンネルの一般的な概念と機能的内空断面は図の中心に配置されている.他の要因を図の中心に配置することで同様の図を描くことができる.

注2:最初の円は「技術分野」を表す.いくつかの分野は複合的な側面を示す.

  • 安全性:規制 - リスクアナリシス - 介入手段 - 供給能力の要件
  • 地質学地質学 - 地質工学 - 構造寸法
  • 土木業務:工法 - 工程 - リスクと災害
  • 運用:運用および維持管理(技術面)
  • コスト:建設 - 運用 - 日常の維持管理 - 大規模改修
  • 環境:規制 - 診断 - 影響評価 - 対策と軽減

注3:2番目の円は,プロジェクトが発展する「背景」を示す.一部の要素は複合的な面を持つ.

  • 人間環境:感度 - 都市化 - 建築物やインフラの存在
  • 自然環境:感度 - 水 - 動物 - 植物 - 大気環境 - 景観
  • 輸送特性:交通の特性や量 - 類型学 - 貨物の種類 - その他
  • 様々な外的制約:アクセスおよび特定の制約 - 気象条件 - 雪崩 - 地山の安定性 - 社会経済的状況 - その他
  • 収益レベル:経済的受容性 - 予算の上限 - 資金調達コストの制御 - コンセッション方式や官民パートナーシップ(PPP)の場合の一般的な経済的・政治的背景

新しいトンネル(または古いトンネルの改修および更新)の設計は,これら多数のパラメータを考慮する必要がある.これらのパラメータが関与する意志決定ツリーは複雑であり,経験豊富な多分野にわたる専門家の関与が必要である.これらの関与は以下の理由により出来るだけ早い段階から行われる必要がある.

  • プロジェクト開始から,関連する全てのパラメータを考慮することができる.また,進行中のプロジェクトや直近に完成したプロジェクトから明らかとなった陥りやすい多くの過失を避けることができる.過失は,運用と安全の確保に必要となる機器への配慮が遅れることや,リスクアナリシスの結果や緊急時の行動計画・運用手順を組み込むことなく監視体制を構築するといったことが挙げられる.結果的にトンネル自体の運用や監視のために設置したシステムや設備が,安全面や信頼性のある運用面から不適切になる可能性がある.
  • 早期の介入は,安全性の全体像や建設コストや運用コストの面からもプロジェクトのよりよい最適化に繋がる.最近の事例によると,プロジェクトの早い段階で行われた横断的な最適化(土木工学-換気-安全性評価)が約20%のコスト縮減に貢献したことを示している例もある.

各トンネルは他に同一のものが存在しない個別のものであるということができ,固有の条件を全て考慮した上で,個別に分析を行う必要がある.この分析は,以下のことを実施することが適切な解を導く上で重要である.

  • 技術的,資金的な面でのプロジェクトの最適化
  • 技術的,資金的,環境的なリスクの低減
  • トンネル利用者への必要な安全水準の保証

問題解決のための「魔法の鍵」は存在せず,単なる「コピー&ペースト」もほぼ不適切である.

 トンネルの設計とその最適化を行うには,以下が必要となる.

  • 全てのパラメータを網羅した詳細な一覧表,
  • パラメータ間の相互作用の分析
  • 各パラメータの柔軟性の評価や,必要に応じて要求される目的に関するそれらの敏感度の評価
  • 事業を成功させるための総合的なアプローチ,その理由として:
    •  「システム」が複雑すぎて解が唯一とはならないので,純粋な数学的なアプローチは不可能である
    • プロジェクトの早い段階では詳細が不明,または,確定できないパラメータの数が多すぎるにもかかわらず,本質的な選択が必要である
    • リスクとその重大性,発生確率の評価を考慮する必要がある
    • 多くのパラメータは相互に依存しており,多くの相互作用が循環している

以降では,事例の紹介を通じて,複雑さ,双方向性,相互作用的かつ「循環的」な分析特性を明らかにする.

ここで示す事例は,全てを網羅したものではなく,読者に問題点を理解してもらうとともに,例示したトンネルに議論を集中させることを目的としている.

1.1.2 サブセット「土木工学」

1.1.2.1 パラメータ

表1.1-2は,土木工学に関連する主要なパラメータを例示したものである.

表1.1-2:土木工学に関する主なパラメータ

  • 1番目の列は,パラメータの大分類を示したものである.
  • 2番目の列は,大分類に関連するサブセットを示したものである.
  • 3番目の列は,サブセットに関連する要素を,網羅的ではないが,いくつか示したものである.
  • 4番目の列は,大分類あるいはサブセットごとに,サブセットに関する主な結果を示したものである.

1.1.2.2 パラメータ間の相互作用

パラメータ間の相互作用は多数あり,重複しながら循環型にリンクされている場合が多い.

表1.1-3は,換気,断面,安全性の相互作用に関連する例を示したものである.

  • 1番目の列は,換気に関連したもので,ここで列挙されているパラメータは上記の表1.1-2のサブセット「換気」から得られた要素的なパラメータである.
  • 2番目の列は,断面に関連したもので,表1.1-2から得られたものである.
  • 3番目の 列は,安全性に関連したものである.

表1.1-3:パラメータの相互作用

この図は,いくつかの列で共通のパラメータを一定数示したものであり(接続された線を参照),サブセット間での循環した相互作用を形成している.

これらの相互作用は複雑な機能でリンクされており,純粋な数学解を求めるのはほぼ不可能である.この問題を解決するには,数多くのパラメータ間の階層を定義することが必要であり,その後,高位の階層を占めるパラメータに対しての仮定を設けることになる.この階層はプロジェクトごとに異なる.例えば,

  • 一方通行の短いトンネルや普通の延長のトンネルの場合,最も可能性の高い換気方式は「縦流換気方式」である.天端に固定されたジェットファンは,確かに通常は断面形状にはほとんど影響を与えないので,換気の設計をする前に,他の決定的なパラメータを考慮して当初は断面の図面が作成される.断面における換気の影響は,その後チェックされる.
  • 逆に,長大トンネルや,開削による矩形断面トンネルでは,換気システムとそれに付随するもの(可能なダクトの断面,数,性質,必要に応じてジェットファンの寸法等)が断面寸法に重大な影響を及ぼす.この換気システムは,初期段階では断面形状に仮定を設けながら,予備的に設計する必要がある.断面寸法はその後チェックされる.

従って解決のプロセスは,前例が示すように,相互作用的で,最初に行った仮定に基づくものになる.これは,要求されるサービスレベルや安全レベルに応じて,プロジェクトに関連する項目を考慮し,一連の繰り返し作業により優れた目標設定を行い,プロジェクトが最適化されていることを保証しながらのプロセスであるので,横断的で多分野的な技術者の豊富な経験を必要とする.

1.1.3 サブセット「換気」

表1.1-4は,換気に関する主要なパラメータを示したものである.ただしこの表は網羅的なものではない.

「土木工学」の場合はパラメータ間の相互作用は非常に多い.これらも循環型の関係を有する傾向にある.

問題解決のプロセスは「土木工学」で示したものに類似している.

表1.1-4:換気に影響を与える主なパラメータ

1.1.4. サブセット「運用設備」

運用設備は,以下のものを除き,内空断面の定義において基本的なパラメータとはならない.

  • 箱抜きやケーブル用スリーブ,消火システム用の給水管
  • 信号,情報や安全性,規制を表示する看板.信号は時に(開削で矩形断面とした場合に)断面形状(車道と信号下端の距離.縦断線形やトンネルの長さに影響を与える場合もある)に多大な影響を及ぼす可能性がある.結果的に,より全体的な最適化が必要となる場合があり,坑口に近いトンネル外のインターチェンジの位置や設計にも影響を及ぼす場合がある.

一方で,「運用設備」は,坑口部での技術的な建築物や,地下管理用のサブステーション,地下にある技術的に必要な空間,そして様々な備蓄,休憩場所といったものの寸法にとって重要なパラメータとなる.これらは多くの場合,温度や空調に関する特別の配慮を必要とする.

また,これらは,建設,運用,維持管理のコストの観点からも重要なパラメータである.

「運用設備」は,トンネルの安全性に関して重要なパラメータを構成しており,以下の意義に沿って設計,設置,維持管理しなければならない.

  • 供給能力と信頼性.特に給電と配電,通信ネットワーク
  • 全ての設備の火災に対する防護.特に主電源ケーブルと通信ネットワークケーブル
  • 設備と部品の耐久性.寿命や信頼性,運用コストや維持管理コストの最適化を保証する必要がある.
  • 維持管理作業を容易にすること.交通への影響を少なくするとともに維持管理チームや利用者の安全性に及ぼす影響を少なくする必要があり,設計やこれらの設備へのアクセスしやすさに関して特定の配慮が必要となる.
  • 運用方法の統合.監視・制御システムの設計における緊急時の対応計画,人と機械をつなぐ人間工学,オペレーターへの支援(特に緊急時)が必要である.

1.1.5. サブセット「安全」

1.1.5.1. 「安全」の概念

 図1.1-5:安全性に影響を与える要因トンネルの安全性の状態は,第2章に示すように多くの要因に関連する.安全を確保するためには,運用,介入,車両や利用者と同様にインフラ自体が形成するシステムの全側面を考慮する必要がある(図1.1-5).

インフラは建設コストにおける重要なパラメータである.しかし,以下に関して基本的な対策が同時に考慮されていなければ,インフラに多大な投資を行うこととなる場合がある.

  • 組織,人的・物的手段,運用と介入の手続き
  • 運用職員の訓練
  • 効率的な機材と職員の訓練をともなった緊急サービスの充実
  • 利用者とのコミュニケーション

1.1.5.2. パラメータがトンネルプロジェクトに及ぼす影響とは?

安全性に関連するこれらのパラメータは,多かれ少なかれトンネルプロジェクトに重要な影響を及ぼす.以下の表にいくつかの例を示す.

注:以下の4つの表は,図1.1-5に対応した4つの主要な分野に言及しているものである.

  • 1列目は,主なインフラや関係する行動を示したものである.
  • 2列目と3列目は,トンネルプロジェクトにおける影響の度合い(土木-換気-運用および安全設備)を示したものである.
    • 緑:重要または重大な影響
    • 黄:中程度の影響
    • 赤:影響なし
  • 4列目は,影響に関する主な理由や原因を示したものである.

図1.1-6:インフラに起因するプロジェクトへ主な影響
インフラ 重要度 コメント
避難ルート   トンネルの中 - 避難坑 - 避難口 - 避難連絡坑
緊急チームのアクセス   他のトンネル - 専用通路 - 避難通路と共用
避難できる人数   避難通路の大きさ - トンネルに通じる空間
換気   換気の考え方 - 特定の運用や交通状況における縦流換気方式の不備
図1.1-7:介入条件と運用組織に起因するプロジェクトへの主な影響
運用組織 重要度 コメント
対応計画   情報伝達 - 監視・制御 - 利用者との連絡
介入救助チーム   坑口施設の規模 - 可能な地下設備 - 特定の対策 - 貯水槽の規模
チームの訓練   特定の外部の設備 - 特殊なソフトウェア
図1.1-8:車両に起因するプロジェクトへの主な影響
車両 重要度 コメント
平均交通量とピーク時間   車線数 - 換気の考え方と規模
積載物   換気の影響 - 有害物質が漏出した場合の除去 - 消防隊が車列を誘導する場合の運用手順 --> 駐車施設/職員
車両の状態   特定の場合において,トンネル進入前に車両寸法やオーバーヒートの確認 --> 温度管理体制,駐車場,職員
特定の車種の排除   小型車両専用の都市トンネルの実例 - トンネルの寸法,換気,避難通路
図1.1-9:トンネル利用者に起因するプロジェクトへの主な影響
トンネル利用者 重要度 コメント
情報提供   進入前におけるリーフレットの配布 - テレビを使ったキャンペーン
「生の」情報伝達   情報伝達,可変情報表示装置,ラジオ放送,信号,断面への影響,管理・評価,制御,場合によっては遠隔操作による進入制限
教育   ヨーロッパの数カ国における自動車教習所
避難通路への誘導   誘導表示 - 手すり - フラッシュライト - 音 - 評価・管理・制御への影響
速度制限 - 車間距離   レーダーと距離検知機 - 管理・評価・制御への影響
 

1.1.6. 統合

トンネルは「複雑なシステム」である.特に,

  • 線形のみ,地質のみ,土木工学のみの観点からトンネルの設計を行うと致命的な設計上の欠陥をもたらす.それはトンネルの安全性を低下させる傾向(危険な場合すらある)があり,運用を困難にする(時として合理的な条件下での運用を不可能にする).
  • 同様に,リスクや安全性,介入,運用に関する上流の分析を取りまとめることなしに,運用設備のみの観点からトンネルの設計を行うことも,供用開始後すぐに露見するような欠陥をもたらす.
  • 運用や維持管理に関する全ての目的や制約事項を予備設計の段階から考慮しないと,必然的に運用コストが増加するとともに全体的な信頼性が低下する.

残念ながら,様々な設計関係者に十分な「トンネル文化」が欠如していることから,問題に対する場当たり的な対応が頻繁に行われている.

この複雑なシステムを制御するのは困難であるが,以下を行うためには不可欠なものである.

  • それぞれの問題に対して適切な解決策を見つける.
  • 利用者に基本的なレベルの安全性を確保し,高品質で快適なサービスを提供する.

と同時に,機能を早期に明確に定義したり,VE手続きを経たりしながら,この複雑なシステムをコントロールすることで,プロジェクトを技術的・経済的に最適化することに繋がることがほとんどである.

プロジェクトの開始時点から,以下に関する主要な問題を考慮することで,この複雑な方程式を解くための効果的なアプローチができるようになる.

  • 平面および縦断線形,地質,土木工事の手続き,工法
  • 換気
  • 安全性(リスクと危険に関する予備分析と緊急時の予備的な計画による)
  • 運用と維持管理の状態
Références

No reference sources found.