道路トンネルのマニュアル
トンネルは非常に多くのパラメータが相互に作用する結果として「複雑なシステム」を構成している.これらのパラメータはサブセットにより集約されている.そのうち主要なものを図1.1-1に示す.
これらのパラメータは全て,各サブセット内やサブセット間において,変動したり相互に作用したりしている.
パラメータや特性の相対的な重みは各トンネルの特徴によって異なる.例えば,
注1:関連性は複合的で,しばしば可逆的でもある.トンネルの一般的な概念と機能的内空断面は図の中心に配置されている.他の要因を図の中心に配置することで同様の図を描くことができる.
注2:最初の円は「技術分野」を表す.いくつかの分野は複合的な側面を示す.
注3:2番目の円は,プロジェクトが発展する「背景」を示す.一部の要素は複合的な面を持つ.
新しいトンネル(または古いトンネルの改修および更新)の設計は,これら多数のパラメータを考慮する必要がある.これらのパラメータが関与する意志決定ツリーは複雑であり,経験豊富な多分野にわたる専門家の関与が必要である.これらの関与は以下の理由により出来るだけ早い段階から行われる必要がある.
各トンネルは他に同一のものが存在しない個別のものであるということができ,固有の条件を全て考慮した上で,個別に分析を行う必要がある.この分析は,以下のことを実施することが適切な解を導く上で重要である.
問題解決のための「魔法の鍵」は存在せず,単なる「コピー&ペースト」もほぼ不適切である.
トンネルの設計とその最適化を行うには,以下が必要となる.
以降では,事例の紹介を通じて,複雑さ,双方向性,相互作用的かつ「循環的」な分析特性を明らかにする.
ここで示す事例は,全てを網羅したものではなく,読者に問題点を理解してもらうとともに,例示したトンネルに議論を集中させることを目的としている.
表1.1-2は,土木工学に関連する主要なパラメータを例示したものである.
パラメータ間の相互作用は多数あり,重複しながら循環型にリンクされている場合が多い.
表1.1-3は,換気,断面,安全性の相互作用に関連する例を示したものである.
この図は,いくつかの列で共通のパラメータを一定数示したものであり(接続された線を参照),サブセット間での循環した相互作用を形成している.
これらの相互作用は複雑な機能でリンクされており,純粋な数学解を求めるのはほぼ不可能である.この問題を解決するには,数多くのパラメータ間の階層を定義することが必要であり,その後,高位の階層を占めるパラメータに対しての仮定を設けることになる.この階層はプロジェクトごとに異なる.例えば,
従って解決のプロセスは,前例が示すように,相互作用的で,最初に行った仮定に基づくものになる.これは,要求されるサービスレベルや安全レベルに応じて,プロジェクトに関連する項目を考慮し,一連の繰り返し作業により優れた目標設定を行い,プロジェクトが最適化されていることを保証しながらのプロセスであるので,横断的で多分野的な技術者の豊富な経験を必要とする.
表1.1-4は,換気に関する主要なパラメータを示したものである.ただしこの表は網羅的なものではない.
「土木工学」の場合はパラメータ間の相互作用は非常に多い.これらも循環型の関係を有する傾向にある.
問題解決のプロセスは「土木工学」で示したものに類似している.
運用設備は,以下のものを除き,内空断面の定義において基本的なパラメータとはならない.
一方で,「運用設備」は,坑口部での技術的な建築物や,地下管理用のサブステーション,地下にある技術的に必要な空間,そして様々な備蓄,休憩場所といったものの寸法にとって重要なパラメータとなる.これらは多くの場合,温度や空調に関する特別の配慮を必要とする.
また,これらは,建設,運用,維持管理のコストの観点からも重要なパラメータである.
「運用設備」は,トンネルの安全性に関して重要なパラメータを構成しており,以下の意義に沿って設計,設置,維持管理しなければならない.
トンネルの安全性の状態は,第2章に示すように多くの要因に関連する.安全を確保するためには,運用,介入,車両や利用者と同様にインフラ自体が形成するシステムの全側面を考慮する必要がある(図1.1-5).
インフラは建設コストにおける重要なパラメータである.しかし,以下に関して基本的な対策が同時に考慮されていなければ,インフラに多大な投資を行うこととなる場合がある.
安全性に関連するこれらのパラメータは,多かれ少なかれトンネルプロジェクトに重要な影響を及ぼす.以下の表にいくつかの例を示す.
注:以下の4つの表は,図1.1-5に対応した4つの主要な分野に言及しているものである.
4列目は,影響に関する主な理由や原因を示したものである.
インフラ | 重要度 | コメント |
---|---|---|
避難ルート | トンネルの中 - 避難坑 - 避難口 - 避難連絡坑 | |
緊急チームのアクセス | 他のトンネル - 専用通路 - 避難通路と共用 | |
避難できる人数 | 避難通路の大きさ - トンネルに通じる空間 | |
換気 | 換気の考え方 - 特定の運用や交通状況における縦流換気方式の不備 |
運用組織 | 重要度 | コメント |
---|---|---|
対応計画 | 情報伝達 - 監視・制御 - 利用者との連絡 | |
介入救助チーム | 坑口施設の規模 - 可能な地下設備 - 特定の対策 - 貯水槽の規模 | |
チームの訓練 | 特定の外部の設備 - 特殊なソフトウェア |
車両 | 重要度 | コメント |
---|---|---|
平均交通量とピーク時間 | 車線数 - 換気の考え方と規模 | |
積載物 | 換気の影響 - 有害物質が漏出した場合の除去 - 消防隊が車列を誘導する場合の運用手順 --> 駐車施設/職員 | |
車両の状態 | 特定の場合において,トンネル進入前に車両寸法やオーバーヒートの確認 --> 温度管理体制,駐車場,職員 | |
特定の車種の排除 | 小型車両専用の都市トンネルの実例 - トンネルの寸法,換気,避難通路 |
トンネル利用者 | 重要度 | コメント |
---|---|---|
情報提供 | 進入前におけるリーフレットの配布 - テレビを使ったキャンペーン | |
「生の」情報伝達 | 情報伝達,可変情報表示装置,ラジオ放送,信号,断面への影響,管理・評価,制御,場合によっては遠隔操作による進入制限 | |
教育 | ヨーロッパの数カ国における自動車教習所 | |
避難通路への誘導 | 誘導表示 - 手すり - フラッシュライト - 音 - 評価・管理・制御への影響 | |
速度制限 - 車間距離 | レーダーと距離検知機 - 管理・評価・制御への影響 |
トンネルは「複雑なシステム」である.特に,
残念ながら,様々な設計関係者に十分な「トンネル文化」が欠如していることから,問題に対する場当たり的な対応が頻繁に行われている.
この複雑なシステムを制御するのは困難であるが,以下を行うためには不可欠なものである.
と同時に,機能を早期に明確に定義したり,VE手続きを経たりしながら,この複雑なシステムをコントロールすることで,プロジェクトを技術的・経済的に最適化することに繋がることがほとんどである.
プロジェクトの開始時点から,以下に関する主要な問題を考慮することで,この複雑な方程式を解くための効果的なアプローチができるようになる.