トンネル長が数百メートル以上となる場合、事故・平常時、どちらの状況においても、道路利用者の安全性を高めるための特定の設備が必要となる。
事故リスクを低減し、かつ、起こりうる結果を最小限に留めるだけでなく、道路利用者への快適性のレベルを十分に維持するため、多種多様な装置が整備されることとなる。 レポート05.06.B”トンネル運用コストの削減”の第7章 では道路トンネル設備について議論し、そして、 レポート2008R15"都市内道路トンネル"の 第3章 は機器の設計と改修の詳細について述べている。
トンネル内に設置された機器に供給するのに必要な電力は多大なものとなる。電力供給システム(電力供給参照)は、通常時および非常時の両方のケースにおいて、十分な電力を供給する必要がある。これは、例え停電になった場合でも、真に必要な設備に対しては最低限の電力を供給する必要があることを意味する。当然、このような設備については、状態監視をする必要がある。このような理由から、SCADAシステム(監視制御およびデータ収集システム(SCADA)参照)が実装されるのが望ましい。
通信および警報システムについて、最初に述べる(コミュニケーションと警報システム参照)。これは、トンネル内の状況を定期的にチェックし、潜在的な危険や事故に関してオペレーターに注意喚起を促すシステムも含まれる。交通の管制と監視システム(交通監視制御システム参照)に加えて、いくつかの検知システムが設置される。検知システムには、自動事象検出、煙/火災検知器が含まれる。また、事故や火災の情報は、押しボタンや非常電話などを通じて、現場の人々から直接届けられることもある。非常電話は、トンネル内の道路利用者と管制室員との間で、直接情報のやり取りをすることが可能である。非常電話設備は、管制室員にとって現場状況、人々の状態などの付加的な情報を得ることができるだけでなく、トンネル内の人々に注意情報を提供するためにも有効である。このような設備には、トンネル内の道路利用者に警告を促したり、介入を調整するためのシステムも含まれる。拡声放送や公共FM放送のラジオ再放送、管理用無線および緊急隊用の周波数帯は、これらの目的のために使用することができる。
道路利用者への快適性の確保と事故リスク低減のため、十分な視認性の確保および粉塵濃度の低減を図ることが重要である。適切な照明設備(照明参照)と換気システム(換気参照)が不可欠である。換気設備は、火災の延焼と煙の拡散に影響を与えるため、緊急事態発生時に必要不可欠である。交通量とトンネル延長に応じ、換気設備は、自然、機械、または、組み合わせ(通常状態では自然、非常時は機械など)がある。リスク管理の追加機能として、標識設備がある(標識参照)。これは障害物や危険性の周知のみならず、非常口、非常押しボタン、消火設備等を見つけるために重要である。
事故の場合、火災を消火するための設備が必要となる。これらは、トンネル内の道路利用者および緊急隊にとって必要な消火設備(道路利用者と緊急チームのための消火設備参照)や自動制御される固定消火システム(固定消火システム参照)が含まれる。このような状況の場合、遮断設備(遮断機参照)は、トンネル外の道路利用者がトンネル内に進入することを防ぐため重要な設備である。
本章はC4委員会(2008-2011)のワーキンググループ1およびグループ4により記述された。
日本語版は,古澤博文(首都高速道路(株)),市川敦史(東日本高速道路(株))が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した.
トンネル設備やシステムの稼動には電力が必要である。従って、トンネルに電力を供給するための装置が設置されている必要がある。この装置は以下の2つの項目が必須用件となる。
トンネルに供給するのに必要な電力は、トンネル内に設置されている機器の数量や機能と密接に関係している。必要とされる電力(kWh)の量に応じて、電源は低圧または高圧で供給されることとなる。
それぞれの国は、トンネルと電力配電網の構造により、独自の規制要件を満たす必要がある。従って、保持する基本概念は、類似した特徴を持つトンネルであっても、大幅に異なる可能性がある。しかしながら、一致する基本思想について以下に示す。
道路トンネルにおいて、道路利用者のための安全設備は非常に重要な役割を担っている。従って、オペレーターは設備の状態(正常、または、異常)、動作状態(自動、手動または停止)を決定するため継続してそれらの機器を監視する必要がある。
多くの機器は、センサーによりサーボ制御(自動制御)され、あらかじめ設定された閾値に応じて(照明、換気などが)自動的に動作する。その他については、運用条件により、動作もしくは非動作となる。このため、シグナル、可変情報、遮断機、換気、照明、ポンプなどが遠隔操作可能であれば、オペレーターにとって非常に便利である。
設備は装置ごとに異なって操作 (連続的、不定期、非常に稀な状況) されるため、オペレーターにとって、個々の装置の運転間隔(時間が使われる)の情報を持つことが必要である。
監視、制御コマンドおよびデータ保存の機能は、しばしばシングルシステムにより行われる:SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition system:管制制御およびデータ収集システム)。
いくつかのSCADAシステムは世界的に利用可能であり、継続して機能改善が行われている。道路トンネルに適用されているシステムの特徴としては、たとえ同じオペレーターが所掌しているトンネルであっても、トンネルにより完全に同一というものは稀である。例えそうであっても、下記に示す構成は、一定の標準として広く普及している。
オペレーターが道路利用者と通信できることは重要である。この通信は双方向(オペレーターから道路利用者、そして、道路利用者からオペレーター)で可能であることが望まれる。これらの情報のやり取りは、全ての運用状況下(通常、縮退、緊急)において可能であることが望ましい。
このような通信機能を確保している機器は多々ある(警報は通信の特定の形態として考えられる)。これらの機器は、全て同じ機能を提供している訳ではない:道路利用者からオペレーターへ伝達することを確保するもの(非常押しボタン、特定の避難システム使用中の自動警報)もあれば、一方、他の機器はオペレーターから道路利用者に対して伝達するもの(FM周波数帯を利用した放送、拡声放送)である。一部分の機器のみ(非常電話)は双方の情報伝達が可能である。
非常電話は、トンネル内で事故を起こした道路利用者がそのトンネルを所掌している管制室に連絡をすることができる。さらに、非常電話と連動させることで、非常電話を使用することにより道路利用者の場所を特定することが可能である。
これらの非常電話は、電話ボックスの中、若しくは、緊急ステーションに一定の間隔で設置されている。非常電話の設置間隔は基準により定められているため、国により様々である。
非常電話の構造は、非常にシンプルである。トンネル内の非常電話は、トンネルからの呼び出しを受信する受信センターへ接続されている。受信センターは通常、トンネル管制室に位置し、時にはトンネルを管轄する警察の構内に設置されている。
非常押しボタンは、トンネル内で事故が発生した場合、交通管制センターへアラームを通知することができるものである。価格がそれほど高いものではないため、短い間隔で設置することが可能である。
非常押しボタンは、一定の範囲において、非常電話と重複すること、そして、さらに、道路利用者と管制センター間での双方向通信ができないため、使用頻度はあまり多くない。
上記で述べたように、道路利用者はトンネル内で様々な装置(特に緊急時には、非常電話や、時には非常押しボタン)を利用することができる。また、トンネル内には、消火設備や、多くの場合、非常口などもある。
道路利用者がこれらの装置を操作したときは、オペレーターが適切な行動を実行するため、可能な限り早急に通知されることが必要である。非常電話や非常押しボタンが設置されている場合、通常、管制室にて電話や非常情報を受信するため、これは、難しいことではない。非常電話を管制室以外の場所で受信する場合は、即座に管制室へ非常電話を受信したことを知らせるための運用手順を予め決めておく必要がある。
消火器や非常口の場合、センサーは状態変化の検出のため設置され、そして、SCADA(遠方監視制御)システムを利用することにより管制室との通信を図っている。これにより、オペレーターは、トンネル内の道路利用者が支援を求めていることが通知される。
消火器の場合、箱から消火器を取り出した、もしくは設置している緊急ステーションのドアを開けたことが通知される。非常口の場合、扉を開けたこと、または、非常口内に避難していることのどちらか若しくは両者が感知される。
トンネルが映像監視システム(交通監視制御システム参照)を装備している場合、トンネルとその周辺からの画像は管制室のモニタに表示される。オペレーターにとって、数時間の間、注意力を持続しながら複数のモニタを同時に監視することは困難である。
このような状況を是正するため、事象検出のための自動検出システムを使用するオペレーターが増えつつある。特定のトンネルに対して、システムの設置を義務付けている国もある。
自動事象検出(Automatic incident detection:AID)は、通常、トンネル内の交通流を表示するカメラから生成される映像ストリームのコンピュータによる解析に基づいている。多くのアルゴリズムは、以下に示すような事象の範囲を検出することができる。
深刻な車両火災は、通常、(事故などに伴い)車両が停止してから拡大する。車両停止に伴うAIDシステムからの警報は、温度や煙感知器のような、他のシステムに起因する警告よりも先行することが期待される。このAIDによる早期警報は、オペレーターが事象の位置や状態の確認、および、効果的な介入をする時間をもたらすことができる。この早期警報により、換気制御、二次災害の防止、事象の上流に存在する道路利用者への迅速な警報など、最適な運用方法の選択を可能とする。また、緊急隊の要請、通行規制、可変情報板やラジオによるメッセージ提供、レッカー車の呼び出し、トンネルからの避難誘導などを実施するための時間を確保することができる。
映像による煙感知システムは、 レポート05.16.B 2006の6.3.3節"現状使用される方法"に記載されている。
ビデオベースのAIDシステムは、交通流、交通量および速度のリアルタイム情報を提供することができる。このシステムは、事象を当初から録画することができ、監視制御およびデータ収集(SCADA)システムのような他のシステムと連動することが可能である。ビデオベースAIDシステムは通常、1台若しくは複数のカメラからの映像を処理するビデオイメージ処理部、インターネットプロトコル(IP)ビデオエンコーダおよびIPデコーダから構成され、モニタやコンピュータディスプレイに映像を表示する。さらに、ビデオおよび他の機能(ビデオ映像およびAID事象の録画、リアルタイム交通データを収集および蓄積、トンネルSCADAシステムのインターフェース)、ネットワーク装置および通信線路(光ファイバー、同軸およびシールドなしツィストペアケーブル)、一つ若しくは二つの冗長サーバ、映像管理システムにより構成される。
トンネル内のAIDシステムに関する設計では、以下の点に留意すべきである。
Route/Roads記事(2009) "道路トンネルにおける火災検知システム-国際研究プロジェクトから習得した知識" は、「多くのメーカーの見地として、障害物の対処に関し、検知器はトンネル内の両方向からのように異なった角度から同じ領域をカバーする2つの検知器を推奨する」と結論付けている。複数のカメラも、故障の場合を考慮し、冗長化の目的のために必要となる場合がある。典型的な映像分野の見地として、いずれかのカメラが故障した場合でも、隣接するカメラ映像により補完されるようオーバーラップするよう設計される。
レポート05.15.B 2004のIV節.2.1. “交通事故検出装置" は、自動事象検出にカメラを使用している場合、カメラ設置間隔は30~150メートル程度になると述べている。
AIDシステムのパフォーマンスの性能は、導入前の広範囲にわたる試験と調整の程度にかかっている。トンネルへの導入に関する過去の経験では、試運転と調整には数ヶ月を要することを示している。
火災/煙検知器は、通常、センサー、発報装置、伝送ケーブル、判定ユニット等により制御ループが構成され、それらを総括して一般的に火災警報システムと呼ばれる。
道路トンネルにおける火災および煙検知システムは、非常用設備の起動に遅延がないよう、可能な限り迅速に火災や煙成分を検知するように設計されている。主な目的は以下のとおりである。
火災検知の原理は、基本的に火災特有の現象を感知することに基づいている。例えば、熱、煙、輻射、そして典型的な化学物質の発生などである。従って、火災検知センサーは以下のように分類できる。
これらの検知器それぞれには、応答時間、堅牢性、信頼性などそれぞれの適用特性がある。
最近のビデオAIDシステムは、火災の検出が非常に効率的かつ高速であることが証明されている。つまり、通常想定されている交通流に一致しない任意の物体や車両といった事象を検出する。カメラは、事象の映像へ自動的に切り替わる、これにより、オペレーターは火災発生を非常に初期の段階にて発見することができる。
火災/煙検知システムは、レポート2006 05.16.B の6.3節"火災検知" にて述べられている。
一般的な方法では、道路トンネル内での火災検知は、次に示すような環境条件下でも耐え得るように設計されるべきである:最大風速10m/s、ディーゼル車排気ガスおよびタイヤと路面から生じる磨耗(粉塵)に起因する視認性低下、汚染物質(一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物)の増加および濃度変動、変化するヘッドライトの強度、エンジンの熱および車両排気ガスの熱い蒸気、電磁干渉、トンネル断面の遮蔽に影響を与える混在車両交通(例:自家用車、小型貨物、大型貨物、バス、トレーラー)。
システムは「程度の高いフェールセーフ運用を持たなければならない」、また、「可能な限り火点位置を特定しなければならない」といったようなことは十分強調されていない。従って、 誤発報を避けるような一定レベルの学習能力を保有することが火災検知システムには望まれる。なぜならば、誤発報は、それを是正するために多大な労力を必要とし、更に悪いことには、オペレーターが警報に注意を払う気を失わせるかもしれない。
さらに、火災検知/アラームの設置が廉価であること、低い運用コスト、および、保守が容易であることが不可欠である: レポート2006 05.16.B の6.3節"火災検知"参照。
自動火災検知器のためのパラメータは、国内および国際的な法令および規格により規定され、以下のようなものである:火災を検出するための最大時間、火災発生位置の決定、検出される最小火炎荷重、認可された検出方法、火災警報の設置点、自動火災警報装置が設置されるべきトンネルの詳細(例:トンネル長、機械換気を有するトンネル、人員により恒常的に監視されていないトンネル、特に交通密度の高い距離が短いトンネル)。
火災検知器のパラメータに関する詳細な参照資料のリストは、レポート2006 05.16.Bの10節"参考文献"に記述されている。
火災検知器の効率は、デバイスの種類(温度、光ビーム減衰、イオン化、等)だけでなく、検出方法、センサーの数およびトンネル内での監視レベルに基づいている。
自動事象検出、AIDシステムを含むビデオ画像解析、CCTV監視、消火器の取外しにより警報が発報する設備は、非常電話と同様、一般的に警報を発するための良い手段である。
使用される多くの検知器は、熱および温度上昇率に基づいている。このタイプは、反応速度が遅い場合が多いが、校正が適切に行われている場合、誤報は殆どない。煙の遮蔽に基づく感知器は、早期に信号を上げることができるが、ディーゼル車からの排気のため、より多くの誤発報が発生する: レポート05.05.B 1999のVI節.3.1"火災検知" 参照 。
Route/Roads記事(2009) "道路トンネルにおける火災検知システム-国際研究プロジェクトから習得した知識" は、道路トンネルの火災/煙システムについて、熱の線形検出、火炎の光学的検出、ビデオ映像による検出、吸引空気サンプリング方式による周期的な熱および煙感知について述べている。吸引空気サンプリング方式は、誤発報、維持管理および火災検知を総合的に勘案した場合、応答時間と場所の正確さに関する能力、そして火災のモニターと道路環境の影響に対して良好な性能が得られると結論づけている。この研究から得られた情報は、トンネル火災検知のための最適な技術を決定するために使うことができる。
トンネルは閉鎖かつ制限のある空間であるため、トンネル外の放送局からの電波の伝播を行うことが難しい。この伝播を再確立するため、必要な周波数を再送信するための装置を設置する必要がある。下記に示すような数種類のサービスが再送信される。
再送信することが可能な周波数のサービス数は非常に多数あるが、コストおよび実現性の問題から、それらの全てがカバーされるものではない。原則として、救助隊、オペレーターにて使用される周波数、いくつかのFMおよび(または)DABの周波数、そして、携帯電話事業者の周波数が再送信されているのを見受けることができる。
1つまたは複数の無線周波数が再送信される場合、事前録音したメッセージを挿入できるよう装置が設置されている。必要に応じ、前述のラジオ放送は中断され、そして、トンネルに関するメッセージが道路利用者への注意のために放送される。これにより、道路利用者に対してオペレーターの指示に従うための手順に関する案内を提供することができる。
トンネル内ラジオ再放送設備は基本的に下記にて構成されている。
道路利用者へ直接的に情報を提供、若しくは、特定の手法で行動を要請することができる装置はあまり存在しない。この問題を解消するため、拡声放送設備を設置しているトンネルがある。実際には、使用方法に応じて、拡声放送は様々な機能を提供する。特に以下の点を挙げることができる。
しかしながら、現状のところ拡声放送装置は広く使用されていない。使用に当たっては、ケースごとに検討する必要があり、特定のトンネル(非常に高密度の交通量、トンネル長、等)に拡声放送装置は適する。
トンネルの大部分において、自然光により道路利用者が満足する視認性を確保することはできない。従って、道路利用者に視認性と快適性を充足する状態を提供する人工的な照明を設置することが必要である。
機能の面では、照明設備は以下を満足することが必要である。
照明の設置は、いくつかの基準を尊重して設計する必要があり、特に関連するものを以下に示す。
数種類の設置方法が可能であり、最も一般的な設置方法は、対称照明とカウンタービーム照明である。トンネルの特性と定義された目的に応じて、照明器具の設置は、1列若しくは複数列、道路上、トンネル側壁上部などがある。
トンネル内の換気には2つの機能がある。
歴史的に、トンネル換気システムを設置するための第一の理由は、汚染レベルの減少であった。 交通車両による汚染物質の排出量は過去数十年にわたって劇的に減少してきているが、この機能は依然として重要であり、設計段階で細心の注意を払わなければならない。 いくつかのケースでは、走行する車両のピストン効果による自然換気により、通常運用における空気の質の要件を満たすことがある。 機械による換気システムの必要性は、トンネルの長さと道路種別(対面通行または一方通行)と条件(渋滞の可能性)を考慮して評価される: 技術レポート2004 05.14.B:道路トンネル:車両の排出量と換気のための空気の要求 を参照のこと。 本レポートは、まもなく出版される新しいレポートに置き換えられる予定である。
同様の要因が、緊急時、特に火災時の換気要件を決定する。他の機器や設備の存在(例えば非常口)も考慮する必要がある。いくつかのケースでは自然換気で十分な場合があるかもしれないが、数百メートルを越えるような長さのトンネルでは、しばしば機械換気が必要とされる。
トンネルでは、異なった換気方式が使用されることがある。 その選択は、一般的に火災時の安全性を考慮することによって必然的に導かれ、通常運用時のシステムの使用は、それに合わせて調整される。 レポート05.05.B 1999の第Ⅴ章"火災と煙制御のための換気"を参照のこと。
縦流方式は、火災に伴い燃焼車両で発生した煙のすべてを片方向に押すために、トンネルの長手方向の空気の流れを生成することである。 もし道路利用者が、煙が流れてくる下流側に存在する場合、有毒ガスと視認性の低下といった影響を受ける可能性があるので、対面通行および(または)渋滞したトンネルでこの手法を使用するときは多大な注意が必要である。 適切な煙制御のための最低風速は、設計上の火災規模とトンネルの形状(勾配、断面積)に因る。
横流方式は、火災時に発生する煙の遡上を利用する。煙は、トンネル空間の上部に蓄積する傾向があることから、煙は上部から機械的に排出されることができる。トンネル断面の下の部分に新鮮な空気の層を維持する(視認性、低毒性)ことにより自主避難を可能とするよう、システムは設計されている。 従って、煙の非成層化と過度に長手方向への広がりを避けるため、火災範囲での可能な限り低い縦流風を維持することが重要である。 この戦略はどのトンネルにも適用可能であるが、システムの設計、施工、運用はより難易度が高く、また、高価である。
換気の設計プロセスは、推力及び(または)流量に関する最小許容容量の計算、換気のネットワーク、および、適切な換気装置の選択といったものを含んでいる。レポート2006 05.16.Bの第4章:換気 、並び、その付録 12.3"ジェットファンの計算手順" 、 12.4. "煙ダンパー" および 12.6."ジェットファンの音への影響" を参照のこと。 換気設備は、火災や騒音性能に対する耐性を含め、多数の仕様を満たす必要がある。
想定される火災状況の各々に適する換気制御シナリオの設計は、プロセスの非常に重要な部分である。技術レポート2011 R02:道路トンネル:換気のための運用戦略 参照のこと。これらのシナリオは、縦流換気方式の戦略が適用されている場合は特に、単純化できる。そうでない場合は、横流換気式トンネルのように、非常に多数の計測器と換気設備を複合して取り込むこととなる。通常運用時における換気制御の最適化を図るためには、エネルギー消費を縮減することが重要である。この消費量は、トンネルの運用コストのかなりの部分を占めているので、非常に重要な課題である。
トンネルの他の要素と、換気システム設計の相互関係は多種多様である。 横流換気の場合、例えば、必要とされる換気量は掘削断面に影響を与えるかもしれないことから、建設コストに重要な影響を与える。換気システムはまた、トンネルの電力供給要件の大部分を占めている。換気システムは、火災検知、消火システムなどの他の安全設備と緊密に連携している: レポート2008 R07の第5章 "トンネル安全システムと関連する固定消火システム"参照のこと。
環境問題は換気に関連する事項である。加えて換気電力消費量と炭素の周囲への影響は、トンネル坑口や換気塔からの局所的な高濃度に汚染された空気の排出に関連している。トンネルの周囲に与える影響を減らすことは良い環境デザインの一部である:レポート2008 R04の4.3節"トンネルの空気の分散技術" 、4.6節"運用面" および 付録D."換気システム設計における分散モデルの概要"参照のこと。
最後に、トンネルの主要部分である交通空間のほかに、換気、特に非常口が必要になることがある: レポート05.16.B 2006の5.3節"避難通路設計"参照のこと。
道路トンネルにおける消火設備の主な目的は、道路利用者、緊急時対応者およびトンネルへの影響を最小限に抑えながらトンネル内の火災を消火するための手段を提供することである。
世界道路協会(PIARC)は、多数の出版物にて道路トンネルにおける火災の消火に必要なシステムを発表してきた。これは主に2つの出版物となっている: 技術レポート05.05.B 1999"道路トンネルにおける火災と煙の制御" と 技術レポート05.16.B 2007 "道路トンネルにおける火災と煙制御のためのシステム及び機器" 参照。 さらに、これらの問題は、ウィーン(1979)、シドニー(1983)、ブリュッセル(1987)、マラケシュ(2001)で開催された世界道路会議に向けた、いくつかの「委員会報告書」にて特にカバーされている。
道路トンネル内での消火活動に欠かすことができないシステムは、次のとおりである。検出装置、警報装置、無線通信、非常電話、テレビカメラ(CCTV)、拡声放送、水の供給と搬送、固定消火設備、ポータブル消火器や非常時換気。 これらのシステムは、システム間で真に互換性があること、トンネルの消火活動の安全が損なわれていないか、もしくは過剰に提供されていないかの確認を徹底的に注意深く、総合的に行った上で、計画、評価、設計および設置する必要がある。
トンネルの消火システムのこれらの要素の多くは、このマニュアルの他の章で扱われている。 他の章では、次のシステムについて述べている:検出( 火災/煙検知:火と煙の検出目的 )、固定消火設備( 固定消火システム) 、火災警報器( コミュニケーションと警報システム) 、非常電話( 非常電話 )、テレビカメラ( 監視制御およびデータ収集システム(SCADA) )、拡声放送( 拡声放送 )、無線通信( コミュニケーションと警報システム )、非常時換気( 換気 )。
本節で述べるシステムは、道路利用者(運転者)、運営機関および消防隊による道路トンネルの火災消火のために提供されるシステムに関連している。 これらは、給水管(配水管)と消火栓(ホースのバルブ)を介して水を供給するように設計されたシステムおよび道路のトンネル内での携帯用消火器の設置が含まれている。
給水本管、消火管または給水管を含む水供給システムは、(給水栓やホースのバルブを介して)トンネル内で消火用の水を提供するために必要であり、もしトンネル内に固定消火システム( 固定消火システム )が設置してある場合は、固定消火システム用の水を提供する。(参照 レポート05.05.B 1999のVI節.3.3"水の供給" )。 水は、配水システム、若しくは水槽から給水される。システムに必要とされる圧力は、消防隊が必要とする要件と一致しなければならない。
消火栓(ホースバルブ)は、消防隊が消防ホースを接続し、水供給へアクセスするための接続ポイントとして、道路トンネル内で必要とされる。 消火栓は、トンネル内に一定間隔で設置する必要がある。(参照 レポート05.05.B 1999のVI.節3.3"水の供給" )。消火栓の接続は、各自治体の消防隊(複数の場合あり)と互換性がなければならない。
ポータブル消火器は、運転者と運用管理者が消防隊の到着前に、トンネル内で発生した適度な大きさの火災を消火することができるよう、道路トンネル内に一定間隔で設置される(参照 レポート05.05.B 1999のVI.節3.2"消火器" )。
消防ホースのリールは、一部の国では道路のトンネル内に設置されているが、これは他の国々では一般的となっていない。というのは、このような国の消防隊は、各現場のトンネルに、自前のホースを持って来ることができるためである(参照 レポート05.05.B 1999のVI.節3.3"給水")
技術レポート2008 R07"道路トンネル:固定消火システムの評価" は、固定消火システム(Fixed Fire Fighting Systems:FFFS)に関する世界道路協会の見解と、その適用、選択および運用に関連する提言をまとめている。
急速に拡がる火と煙は、道路利用者の自己避難の能力を急速に損なう可能性がある。一方、急速に上昇する温度により、トンネルの維持が困難になり、かつ、安全システムを破壊する可能性がある。FFFSは火災の拡大および拡散する割合を減少させる潜在力があることから、結果として、火災時の自己避難および救助支援局面における道路利用者と緊急隊の安全を支援できる。FFFSが保有する他の潜在的な利点は、火災による損傷からトンネル構造を保護し、かつ、火災事故後のトンネル補修に伴う一時的な道路ネットワークの遮断を回避もしくは軽減できることである。
FFFSの設置に関し、国がトンネル設計ガイドラインで規定している場合を除き、設置可否の意思決定支援として、以下の手順を推奨する。
FFFSは、換気設備のような他の重要な安全システムとの関連性の中で考慮されなければならない。迅速かつ正確な事象検出とFFFSによる対応は、FFFSが保有する最大限の性能を発揮するために不可欠な要素である。 FFFSの運用性能は、維持管理、試験および訓練のための適切な体制を含め、システムエンジニアリングのアプローチを通じて評価することができる。本システムによる効果については、運用手順および維持費用も含めて慎重に検討する必要がある。
水噴霧システムは、トンネルに設置されているFFFSの中で、現状、群を抜いて最も一般的に設置されている装置である。低圧および高圧の両システムが利用されており、高圧システムは、より小さい径の水滴となる。泡消火システムを含む他の水関係システムもトンネル内に設置されている。適切なFFFSの選択は、費用便益分析に基づいていることが望ましい。
トンネルFFFSが一般的に使用されている国もあるが、世界的な道路トンネルの標準というよりは、むしろ、例外的である。このようなシステムは、火災の拡大および拡散する割合を減少させることができる一方、最適な方法でシステムが機能することを確実にするための、高い維持管理レベルおよび運用監視レベルが同様に要求される。
交通監視システムは、多くの場合、交通量が非常に多いトンネルに設置される。通常、映像監視システムが使われ、状況に応じ、車両感知器により補完されている。映像監視システムの設置により、リアルタイムでトンネル内の交通状況をオペレーターが制御することを可能にしている。障害発生時、当該事象範囲を表示するため、対応の必要性を迅速に判断できる。
映像監視はオペレーターにとって非常に有効なツールである。なぜならば、トンネル内の事象を継続的に監視できることで、必要に応じ、迅速な対応を可能とするからである。しかしながら、映像監視装置を最大限に活用するためには、管制司令室に、可能であれば常駐にて、人員の配置を維持することが必要不可欠である。
映像監視は、一般的に、その考え方としては非常にシンプルである。トンネル内に一定間隔で設置されたカメラは、トンネルとその周辺を完全にカバーする。 画像はグループ化され、トンネルの管制司令室へ専用(専用でない場合もあるが)ネットワークにより送信される。そして、その画像は受信され、ディスプレイ上に表示される。
標識は、オペレーターが道路利用者とコミュニケーションするための有効な手段の一つである。
ある道路では、トンネルの外と同じ標識をトンネル内で見ることができる。
トンネル内の道路利用者が利用可能な安全装置(非常電話、消火器、非常口…)には、さらに安全に特化した標識が必要である。
トンネルで標識が直面する根本的な問題は設置場所である。つまり、地下トンネルの幾何学的な特性として標識のために横断面を大きくすると、かなりのコスト増加につながる。現実面では、良好な視認性の必要性(従って、十分に大きいパネルが必要)と利用可能な設置スペースの間に妥協が見られる。
深刻な事象(事故、火災等)がトンネルで発生した場合、道路利用者がトンネル内に進入することを、早い段階で防止することが可能でなければならない。つまり、トンネル内への進入を効率的かつ迅速に防止する装置は、トンネルの外にいる道路利用者を、潜在的に危険な状況に曝すことを防止するものである。さらに、地下での更なる事故を防ぐことにも役立つ。
トンネルへの進入禁止が、単純に入口手前の外に配置された停止信号による手段で行われた場合、それはあまり効果的ではないという実経験が多くの国で示されている。 そのため、この停止信号は、遮断機および道路利用者へ閉鎖の理由を通知するための可変情報板と組み合わされている場合が多い。
トンネルを閉鎖する装置は監視司令室から、もしくは継続的に監視されていないトンネルでは自動で、作動させることができる。
閉鎖装置は緊急時に使用されることを意図しているが、他の状況、特に維持管理のための計画的閉鎖にも使うことができる。