道路トンネルのマニュアル - 世界道路協会
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横断的側面

マニュアルの第1部においては道路トンネルの一般的な側面を取り上げている.

戦略的課題の章では,意思決定者であれば誰でも,トンネルの選択あるいは設計に関する意思決定を行う前に考慮しなければならない主要な戦略的要素について記載している.この章は,特に,トンネルの建設あるいは大規模な更新にこれから取り組もうとしている意思決定者あるいは設計者に向けた記載内容となっている.

安全性の章では,トンネルの安全において極めて重要なテーマを扱っている.特に,リスクアナリシスの方法について解説している.

トンネル安全に係る人為的な要因の章では,道路トンネルの運用に影響を及ぼす人的側面を扱っている.1999年から2000年の間に発生した重大な火災事故では,設計段階から人間の行動を考慮することの重要性が確認された.

運用と維持管理の章では,安全性に加えて耐久性が重要な鍵となるトンネルのマネジメントと維持管理について分析を行っている.

運用に関連する環境問題の章では,大気汚染だけではなく,騒音と水質汚染も含めた道路トンネルの運用における環境的側面を扱っている.

1. 戦略的課題

トンネルは,そもそもは障害部(通常は山岳地域)を越えることを目的とするものであったが,近年では換気等の複雑な設備や運用方法も加わり,一層複雑なものになってきている.実際の運用においては,多岐にわたる項目を取り扱うとともに,高度な管理シナリオに対応できるよう,制御・監視することが求められている.

図1.0:ゴットハルドトンネルの火災

図1.0:ゴットハルドトンネルの火災

1999年と2001年に発生したモンブラントンネル,タウエルントンネル,ゴットハルドトンネルでの火災事故の後,総合的な安全性に関して多面的に評価するよう要求が高まっている.その結果,設計段階から規制条件に対してさらなる統合が行われており,該当する土木技術や特定のトンネル設備に重大な影響を及ぼしている.

トンネルは,一般に建設においても運用においてもコストが高額でリスクのある構造物と考えられている.このことは,いくつかの国にとって,初めて道路トンネルや鉄道トンネルを建設することに対して消極的となる原因となっている.このような問題を解決するため,建設および運用に要するコストの削減,(主として建設時)リスク管理,運用時の事故や火災を最小限に抑制すること,設計・施工・運用の各段階でのトンネル設備を最適化することが必要不可欠である.現在のトンネル建設に関して調達や融資を考えると,リスクとコストのコントロールについては改善されてきており,「コンセッション方式」,「デザインビルド」,「PPP」といったモデルで実践されるようになってきている.

本マニュアルの戦略的課題の章では,以下のことを目的とする.

  • トンネルが「複雑なシステム」で構成されていることについて読者に理解してもらう.
  • 設備の「機能」の定義が上流側(設計)と下流側(運用)の両面から重要であることを強調する.
  • 事業を成功させるには,トンネルの所有者の周囲に技術と豊富な経験をもつ多分野にわたる技能が必要であることについて,所有者に理解してもらう.
  • トンネルが基本的に快適で安全な状態で使用されるように設計され,継続的で信頼性の高い維持管理を行うことがオペレーターの主題であることを,読者に理解してもらう.トンネルという概念には,これらの安全性や運用の目的や制約事項が考慮されるべきである.
  • 最後に,設備自体は所有者が解決すべき問題の一部でしかないことと,所有者の権限が及ばないかもしれない規制,介入,安全サービス,手続き等といった外部的な要素についても同時に取り入れていく必要がある場合が非常に多いことを読者に理解してもらう.

この章は設計用のハンドブックとなることを目的として記載されているものではない.すなわち,トンネルの所有者が取るべきアクションに関して詳細なハンドブックとなることや,設計者が行う技術的な対策を詳述すること,また,オペレーターがトンネルの安全性や快適性を確保するために行うべきことを示すことを目的としていない.この章の唯一の目的は,この複雑な分野における読者の取り組みや理解の一助となり,可能であればトンネルの運用において起こり得る多くの誤ちを防ぎ,その最適化の可能性を理解するために,読者に特定の問題意識を持たせることである.

トンネルは複雑なシステムであるでは,トンネルが「複雑なシステム」であることを示すとともに,土木・換気・安全分野における様々な項目の主要な関連性を列挙する.

トンネル設計一般(新設トンネル)では,トンネルを設計するときに考慮すべき主要な項目を示す.

修復-既設トンネルの更新では,運用中の既設トンネルにおける補修や改築について述べる.

"トンネルの一生"における段階では,建設サイクルやライフサイクルにおける様々な段階を分析し,それぞれの段階で鍵となる取り組みを明示する.

建設,運用,改良に係るコスト – 資金的側面では,建設・運用・改修に係るコストに関する問題点と,資金の調達方法に特有な利害関係について説明する.

規制-推奨事項では,世界各国で発行されている主な法令や指針,勧告を列挙する.

複雑な地下道路ネットワーク では,複雑なトンネルの事例と,多くのノモグラフを示す.

貢献者

この文書は,フランスの道路トンネル運用委員会の代表者であり,ワーキンググループ5のメンバーでもあるBernard Falconnat(France)により編纂され,ワーキンググループ5によりフランス語から英語に翻訳されたものである.フランス語で書かれた原著は,Dider Lacroix(France)とWilly De Lathauwe(Belgium – ITA 委員会の代表者)により修正された. 英語版はLucy Rew (France)とFathi Tarada (UK)によって校閲されている.

日本語版は,砂金伸治((国研)土木研究所),日下敦((国研)土木研究所)淡路動太((国研)土木研究所),河田皓介((国研)土木研究所)が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した.

1.1 トンネルは複雑なシステムである

  • 1.1.1. システムの複雑さ
  • 1.1.2. サブセット「土木工学」
  • 1.1.3. サブセット「換気」
  • 1.1.4. サブセット「運用設備」
  • 1.1.5. サブセット「安全」
  • 1.1.6. 統合

1.1.1 システムの複雑さ

トンネルは非常に多くのパラメータが相互に作用する結果として「複雑なシステム」を構成している.これらのパラメータはサブセットにより集約されている.そのうち主要なものを図1.1-1に示す.

これらのパラメータは全て,各サブセット内やサブセット間において,変動したり相互に作用したりしている.

パラメータや特性の相対的な重みは各トンネルの特徴によって異なる.例えば,

  • 決定基準とパラメータの重みは,都市トンネルと山岳トンネルでは同じではない.
  • パラメータはトンネルの延長や,危険物輸送車両が通行するのか旅客車両しか通行しないのかによって異なる.
  • トンネルを新設するのか,改築するのか,安全に関する新しい基準に適合させるために改良するのかによって判断基準が異なる.

図1.1-1:複雑なトンネルシステムを構成する主な要素

図1.1-1:複雑なトンネルシステムを構成する主な要素

注1:関連性は複合的で,しばしば可逆的でもある.トンネルの一般的な概念と機能的内空断面は図の中心に配置されている.他の要因を図の中心に配置することで同様の図を描くことができる.

注2:最初の円は「技術分野」を表す.いくつかの分野は複合的な側面を示す.

  • 安全性:規制 - リスクアナリシス - 介入手段 - 供給能力の要件
  • 地質学:地質学 - 地質工学 - 構造寸法
  • 土木業務:工法 - 工程 - リスクと災害
  • 運用:運用および維持管理(技術面)
  • コスト:建設 - 運用 - 日常の維持管理 - 大規模改修
  • 環境:規制 - 診断 - 影響評価 - 対策と軽減

注3:2番目の円は,プロジェクトが発展する「背景」を示す.一部の要素は複合的な面を持つ.

  • 人間環境:感度 - 都市化 - 建築物やインフラの存在
  • 自然環境:感度 - 水 - 動物 - 植物 - 大気環境 - 景観
  • 輸送特性:交通の特性や量 - 類型学 - 貨物の種類 - その他
  • 様々な外的制約:アクセスおよび特定の制約 - 気象条件 - 雪崩 - 地山の安定性 - 社会経済的状況 - その他
  • 収益レベル:経済的受容性 - 予算の上限 - 資金調達コストの制御 - コンセッション方式や官民パートナーシップ(PPP)の場合の一般的な経済的・政治的背景

新しいトンネル(または古いトンネルの改修および更新)の設計は,これら多数のパラメータを考慮する必要がある.これらのパラメータが関与する意志決定ツリーは複雑であり,経験豊富な多分野にわたる専門家の関与が必要である.これらの関与は以下の理由により出来るだけ早い段階から行われる必要がある.

  • プロジェクト開始から,関連する全てのパラメータを考慮することができる.また,進行中のプロジェクトや直近に完成したプロジェクトから明らかとなった陥りやすい多くの過失を避けることができる.過失は,運用と安全の確保に必要となる機器への配慮が遅れることや,リスクアナリシスの結果や緊急時の行動計画・運用手順を組み込むことなく監視体制を構築するといったことが挙げられる.結果的にトンネル自体の運用や監視のために設置したシステムや設備が,安全面や信頼性のある運用面から不適切になる可能性がある.
  • 早期の介入は,安全性の全体像や建設コストや運用コストの面からもプロジェクトのよりよい最適化に繋がる.最近の事例によると,プロジェクトの早い段階で行われた横断的な最適化(土木工学-換気-安全性評価)が約20%のコスト縮減に貢献したことを示している例もある.

各トンネルは他に同一のものが存在しない個別のものであるということができ,固有の条件を全て考慮した上で,個別に分析を行う必要がある.この分析は,以下のことを実施することが適切な解を導く上で重要である.

  • 技術的,資金的な面でのプロジェクトの最適化
  • 技術的,資金的,環境的なリスクの低減
  • トンネル利用者への必要な安全水準の保証

問題解決のための「魔法の鍵」は存在せず,単なる「コピー&ペースト」もほぼ不適切である.

 トンネルの設計とその最適化を行うには,以下が必要となる.

  • 全てのパラメータを網羅した詳細な一覧表,
  • パラメータ間の相互作用の分析
  • 各パラメータの柔軟性の評価や,必要に応じて要求される目的に関するそれらの敏感度の評価
  • 事業を成功させるための総合的なアプローチ,その理由として:
    •  「システム」が複雑すぎて解が唯一とはならないので,純粋な数学的なアプローチは不可能である
    • プロジェクトの早い段階では詳細が不明,または,確定できないパラメータの数が多すぎるにもかかわらず,本質的な選択が必要である
    • リスクとその重大性,発生確率の評価を考慮する必要がある
    • 多くのパラメータは相互に依存しており,多くの相互作用が循環している

以降では,事例の紹介を通じて,複雑さ,双方向性,相互作用的かつ「循環的」な分析特性を明らかにする.

ここで示す事例は,全てを網羅したものではなく,読者に問題点を理解してもらうとともに,例示したトンネルに議論を集中させることを目的としている.

1.1.2 サブセット「土木工学」

1.1.2.1 パラメータ

表1.1-2は,土木工学に関連する主要なパラメータを例示したものである.

表1.1-2:土木工学に関する主なパラメータ

  • 1番目の列は,パラメータの大分類を示したものである.
  • 2番目の列は,大分類に関連するサブセットを示したものである.
  • 3番目の列は,サブセットに関連する要素を,網羅的ではないが,いくつか示したものである.
  • 4番目の列は,大分類あるいはサブセットごとに,サブセットに関する主な結果を示したものである.

1.1.2.2 パラメータ間の相互作用

パラメータ間の相互作用は多数あり,重複しながら循環型にリンクされている場合が多い.

表1.1-3は,換気,断面,安全性の相互作用に関連する例を示したものである.

  • 1番目の列は,換気に関連したもので,ここで列挙されているパラメータは上記の表1.1-2のサブセット「換気」から得られた要素的なパラメータである.
  • 2番目の列は,断面に関連したもので,表1.1-2から得られたものである.
  • 3番目の 列は,安全性に関連したものである.

表1.1-3:パラメータの相互作用

この図は,いくつかの列で共通のパラメータを一定数示したものであり(接続された線を参照),サブセット間での循環した相互作用を形成している.

これらの相互作用は複雑な機能でリンクされており,純粋な数学解を求めるのはほぼ不可能である.この問題を解決するには,数多くのパラメータ間の階層を定義することが必要であり,その後,高位の階層を占めるパラメータに対しての仮定を設けることになる.この階層はプロジェクトごとに異なる.例えば,

  • 一方通行の短いトンネルや普通の延長のトンネルの場合,最も可能性の高い換気方式は「縦流換気方式」である.天端に固定されたジェットファンは,確かに通常は断面形状にはほとんど影響を与えないので,換気の設計をする前に,他の決定的なパラメータを考慮して当初は断面の図面が作成される.断面における換気の影響は,その後チェックされる.
  • 逆に,長大トンネルや,開削による矩形断面トンネルでは,換気システムとそれに付随するもの(可能なダクトの断面,数,性質,必要に応じてジェットファンの寸法等)が断面寸法に重大な影響を及ぼす.この換気システムは,初期段階では断面形状に仮定を設けながら,予備的に設計する必要がある.断面寸法はその後チェックされる.

従って解決のプロセスは,前例が示すように,相互作用的で,最初に行った仮定に基づくものになる.これは,要求されるサービスレベルや安全レベルに応じて,プロジェクトに関連する項目を考慮し,一連の繰り返し作業により優れた目標設定を行い,プロジェクトが最適化されていることを保証しながらのプロセスであるので,横断的で多分野的な技術者の豊富な経験を必要とする.

1.1.3 サブセット「換気」

表1.1-4は,換気に関する主要なパラメータを示したものである.ただしこの表は網羅的なものではない.

「土木工学」の場合はパラメータ間の相互作用は非常に多い.これらも循環型の関係を有する傾向にある.

問題解決のプロセスは「土木工学」で示したものに類似している.

表1.1-4:換気に影響を与える主なパラメータ

1.1.4. サブセット「運用設備」

運用設備は,以下のものを除き,内空断面の定義において基本的なパラメータとはならない.

  • 箱抜きやケーブル用スリーブ,消火システム用の給水管
  • 信号,情報や安全性,規制を表示する看板.信号は時に(開削で矩形断面とした場合に)断面形状(車道と信号下端の距離.縦断線形やトンネルの長さに影響を与える場合もある)に多大な影響を及ぼす可能性がある.結果的に,より全体的な最適化が必要となる場合があり,坑口に近いトンネル外のインターチェンジの位置や設計にも影響を及ぼす場合がある.

一方で,「運用設備」は,坑口部での技術的な建築物や,地下管理用のサブステーション,地下にある技術的に必要な空間,そして様々な備蓄,休憩場所といったものの寸法にとって重要なパラメータとなる.これらは多くの場合,温度や空調に関する特別の配慮を必要とする.

また,これらは,建設,運用,維持管理のコストの観点からも重要なパラメータである.

「運用設備」は,トンネルの安全性に関して重要なパラメータを構成しており,以下の意義に沿って設計,設置,維持管理しなければならない.

  • 供給能力と信頼性.特に給電と配電,通信ネットワーク
  • 全ての設備の火災に対する防護.特に主電源ケーブルと通信ネットワークケーブル
  • 設備と部品の耐久性.寿命や信頼性,運用コストや維持管理コストの最適化を保証する必要がある.
  • 維持管理作業を容易にすること.交通への影響を少なくするとともに維持管理チームや利用者の安全性に及ぼす影響を少なくする必要があり,設計やこれらの設備へのアクセスしやすさに関して特定の配慮が必要となる.
  • 運用方法の統合.監視・制御システムの設計における緊急時の対応計画,人と機械をつなぐ人間工学,オペレーターへの支援(特に緊急時)が必要である.

1.1.5. サブセット「安全」

1.1.5.1. 「安全」の概念

 図1.1-5:安全性に影響を与える要因

図1.1-5:安全性に影響を与える要因

トンネルの安全性の状態は,第2章に示すように多くの要因に関連する.安全を確保するためには,運用,介入,車両や利用者と同様にインフラ自体が形成するシステムの全側面を考慮する必要がある(図1.1-5).

インフラは建設コストにおける重要なパラメータである.しかし,以下に関して基本的な対策が同時に考慮されていなければ,インフラに多大な投資を行うこととなる場合がある.

  • 組織,人的・物的手段,運用と介入の手続き
  • 運用職員の訓練
  • 効率的な機材と職員の訓練をともなった緊急サービスの充実
  • 利用者とのコミュニケーション

1.1.5.2. パラメータがトンネルプロジェクトに及ぼす影響とは?

安全性に関連するこれらのパラメータは,多かれ少なかれトンネルプロジェクトに重要な影響を及ぼす.以下の表にいくつかの例を示す.

注:以下の4つの表は,図1.1-5に対応した4つの主要な分野に言及しているものである.

  • 1列目は,主なインフラや関係する行動を示したものである.
  • 2列目と3列目は,トンネルプロジェクトにおける影響の度合い(土木-換気-運用および安全設備)を示したものである.
    • 緑:重要または重大な影響
    • 黄:中程度の影響
    • 赤:影響なし
  • 4列目は,影響に関する主な理由や原因を示したものである.

図1.1-6:インフラに起因するプロジェクトへ主な影響
インフラ 重要度 コメント
避難ルート   トンネルの中 - 避難坑 - 避難口 - 避難連絡坑
緊急チームのアクセス   他のトンネル - 専用通路 - 避難通路と共用
避難できる人数   避難通路の大きさ - トンネルに通じる空間
換気   換気の考え方 - 特定の運用や交通状況における縦流換気方式の不備
図1.1-7:介入条件と運用組織に起因するプロジェクトへの主な影響
運用組織 重要度 コメント
対応計画   情報伝達 - 監視・制御 - 利用者との連絡
介入救助チーム   坑口施設の規模 - 可能な地下設備 - 特定の対策 - 貯水槽の規模
チームの訓練   特定の外部の設備 - 特殊なソフトウェア
図1.1-8:車両に起因するプロジェクトへの主な影響
車両 重要度 コメント
平均交通量とピーク時間   車線数 - 換気の考え方と規模
積載物   換気の影響 - 有害物質が漏出した場合の除去 - 消防隊が車列を誘導する場合の運用手順 --> 駐車施設/職員
車両の状態   特定の場合において,トンネル進入前に車両寸法やオーバーヒートの確認 --> 温度管理体制,駐車場,職員
特定の車種の排除   小型車両専用の都市トンネルの実例 - トンネルの寸法,換気,避難通路
図1.1-9:トンネル利用者に起因するプロジェクトへの主な影響
トンネル利用者 重要度 コメント
情報提供   進入前におけるリーフレットの配布 - テレビを使ったキャンペーン
「生の」情報伝達   情報伝達,可変情報表示装置,ラジオ放送,信号,断面への影響,管理・評価,制御,場合によっては遠隔操作による進入制限
教育   ヨーロッパの数カ国における自動車教習所
避難通路への誘導   誘導表示 - 手すり - フラッシュライト - 音 - 評価・管理・制御への影響
速度制限 - 車間距離   レーダーと距離検知機 - 管理・評価・制御への影響
 

1.1.6. 統合

トンネルは「複雑なシステム」である.特に,

  • 線形のみ,地質のみ,土木工学のみの観点からトンネルの設計を行うと致命的な設計上の欠陥をもたらす.それはトンネルの安全性を低下させる傾向(危険な場合すらある)があり,運用を困難にする(時として合理的な条件下での運用を不可能にする).
  • 同様に,リスクや安全性,介入,運用に関する上流の分析を取りまとめることなしに,運用設備のみの観点からトンネルの設計を行うことも,供用開始後すぐに露見するような欠陥をもたらす.
  • 運用や維持管理に関する全ての目的や制約事項を予備設計の段階から考慮しないと,必然的に運用コストが増加するとともに全体的な信頼性が低下する.

残念ながら,様々な設計関係者に十分な「トンネル文化」が欠如していることから,問題に対する場当たり的な対応が頻繁に行われている.

この複雑なシステムを制御するのは困難であるが,以下を行うためには不可欠なものである.

  • それぞれの問題に対して適切な解決策を見つける.
  • 利用者に基本的なレベルの安全性を確保し,高品質で快適なサービスを提供する.

と同時に,機能を早期に明確に定義したり,VE手続きを経たりしながら,この複雑なシステムをコントロールすることで,プロジェクトを技術的・経済的に最適化することに繋がることがほとんどである.

プロジェクトの開始時点から,以下に関する主要な問題を考慮することで,この複雑な方程式を解くための効果的なアプローチができるようになる.

  • 平面および縦断線形,地質,土木工事の手続き,工法
  • 換気
  • 安全性(リスクと危険に関する予備分析と緊急時の予備的な計画による)
  • 運用と維持管理の状態

1.2.  トンネル設計一般(新設トンネル)

  • 1.2.1 平面線形と縦断線形
  • 1.2.2 トンネル断面の諸元
  • 1.2.3 安全性と運用
  • 1.2.4 施設の運用について

1.2節では,新設トンネルの設計について説明する.供用中のトンネルの改修および安全性向上に関する設計は 修復-既設トンネルの更新 で述べられている.

1.2.1 平面線形と縦断線形

トンネルを含む道路や高速道路区間における平面および縦断線形の設計は,新設トンネル建設​における主要かつ基本となる第一段階に相当するが,これに必要な留意事項はほとんど示されていない.

トンネル建設における「複雑なシステム」は,一般の線形設計の早い段階から考慮する必要があるが,それはほとんど行われていない.しかし,この段階で技術的かつ経済的に最適な設計を行っておくことが最も重要となる.

そのためには設計の早い段階から,トンネルでは必然的である不完全な事前情報に対しても,プロジェクトのすべての潜在的な問題を認識することが可能な,非常に経験豊富な専門家と設計者で構成された学際的なチームを構成することが不可欠である.この種のチームが構成できれば,重要な選択肢に対して適切で信頼性のある意思決定を行うことができ,徐々に追加されてくる情報を考慮に入れながら,これらの不確定要素を関連づけていくことができる.

このセクションの目的は,トンネル線形の設計に関する基準を定めることではなく(いくつかの国の設計便覧については規制-推奨事項 で言及する),包括的で学際的なアプローチの必要性,およびプロジェクトの成功に最も重要である本質的な経験の重要性を所有者および設計者に示すことにある.

1.2.1.1 “トンネル文化”を持たない国々

これらの国の所有者および設計者は,トンネルに対してある種の不安を抱いている.そのため,活動的な地すべり地帯を通過するために,急勾配な線形や巨大な擁壁,非常に長い高架橋,時には様々なものが複合された工事(これらは非常に高価であり,長期間にわたる場合は効果的であるとは限らない)が計画された尾根沿いの“アクロバティックな道路線形”を好むことが頻繁に見られる.

大局的視野に立った系統的なアプローチにより設計された線形のバリエーションとトンネルを含む多くのプロジェクト事例においては,機械的にトンネルの建設を排除したアプローチと比較すると以下の特徴を有する.

  • 山岳地域では建設費の抑制効果は, 10%から25%の間に達することがある.
  • 主要な維持管理コストの節約が実現可能である.不安定または活動的な地すべりのゾーンや厳しい気象条件のような特定の条件下においても,ルートの信頼性を向上させることができる.
  • 環境負荷は大きく軽減される.
  • 特に冬季(降雪対象国の)において尾根沿いのルートで必要となる勾配が減少することによりユーザーに対するサービスレベルが向上し,管理環境の信頼性が向上する.

外部評価者による支援により,トンネル文化の不足や欠如を緩和し,大幅にプロジェクトを改善することが可能となる.

1.2.1.2 トンネルの建設と管理における伝統を持つ国々

「複雑なシステム」の概念は,上流側までほとんど統一されておらず,大局に立ったプロジェクトの最適化を実施する際の弊害となっている.制約条件全体の中でトンネルという要素を組み込むことをほとんど行うことがないため,配置計画の専門家による新しいインフラ構築における線形が固定化されてしまっていることがあまりにも多い.

しかしながら,この段階から上記1.1節で説明したすべてのパラメータとの相互作用を考慮することが不可欠である.特に,

  • その地域における地質一般や水文地質(利用可能なレベルの知見において)と同様に,工法やコスト,工期に関する地質学的な難易度および潜在リスクの事前評価
  • トンネル坑口とアクセス道路に沿った地域の潜在的な地質工学,水文地質学および水界地理学的な条件
  • 顕著な降雪を受ける国々における冬季条件下のリスクや危険性,特に,
    • 雪崩や吹き溜まりの形成,およびこれらのリスクに対するアクセス道路とトンネル坑口の防護性
    • 著しい降雪に対してルートの安全性を保証するためのアクセス道路の整備状況.この項目はトンネル坑口の標高,アクセス道路の最急勾配を条件としており,また,必要があればトンネル坑口周辺でチェーン着脱に利用できるスペース
  • トンネル坑口とアクセス道路の環境条件.その影響は都市環境に重要となる(特にノイズや汚染空気の排出),都市間のトンネルでも同様である.
  • アプローチランプの勾配:
    • 最も安価なトンネルは常に最短のトンネルになるとはかぎらない.
    • 遅い車のための特別レーンによる制限はトンネル坑口近辺では管理することが困難であり,トンネルの中でこのようなレーンを確保することは一般的には非常に高価になる.
    • アクセス道路の勾配は,交通量と冬季の信頼性に関する道路の通行能力に対して非常に強い影響を与える可能性がある.
  • トンネル側部からの(換気坑,避難通路,工程短縮用の作業坑としての)水平坑道,もしくは(換気用,避難通路としての)立坑,斜坑を設置する可能性
    • これら特殊なアクセス坑に関する設置場所,地表への影響(特に土地利用の可否,汚染排気に対する過敏さ等の都市環境において),および一年を通した利用の可否(例えば雪崩に対する露出度)が,平面及び縦断線形の設計における重要な制約条件となる.逆にそれらは非常に多くの場合,建設および運営コストの最適化に資することになる.
    • これら特殊なアクセス坑の設置場所は建設・運営費,および断面積の大きさ(換気および避難設備の最適化に関連)に対して大きな影響を及ぼす可能性がある.
  • 施工方法は平面および縦断線形の設計に大きな影響を与える.例えば:
    • トンネル掘削によって河川を横断する方法は沈埋トンネルによる方法とでは本質的に違うプロジェクトである.
    • トンネルと高架橋の接合部,
    • 過度に強制された工期設定はトンネルのレイアウトに対して特に両坑口からの掘削にとどまらず,作業坑によるトンネル中間部からの掘削を考慮しなければならないなど,直接的に影響を持つ可能性がある,
  • トンネルのレイアウトと縦断方向の幾何学的特性によって次の要素を統合することも必要となってくる:
    • 勾配の制限は換気施設の規模およびトンネルの交通容量の減少に対して大きな影響をもっている,
    • 建設および供用中の地下排水の水理条件は縦断線形に影響を与える,
    • 制限幅の縮小(トンネルの拡幅は非常に高額)は視認性に関する個別の分析と平面線形における曲率半径の選択時に特別な配慮を必要とさせる,
    • 車道からの集水および排水システムに対して重大な影響をあたえる横断勾配の変化,およびトンネル断面の寸法の増大につながるケーブル設置のためのスリーブや消火活動のための送水管の干渉を避けるように最適な曲率半径を選択する必要がある.
  • 特に都市環境における地下空間の占有に関するすべての通常の制約:地下鉄-駐車場-基礎-沈下に対して影響がある構造物
  • 建設および運営費:
    • 最も安価なトンネルが必ずしも最短のトンネルにならない.
    • トンネルの耐用年数全体でみた場合,土木工学的な追加投資は建設費,運用費,維持管理費,重大な修理費(特に換気設備)の削減,もしくは交通容量が飽和する時(トンネルとそのアクセス道の勾配の影響)を数年先延ばしすることが可能ならば,より経済的となる.
  • トンネルにおける平面線形と縦断線形の調整はユーザーの快適性と安全性レベルを確保するために慎重に検討しなければならない.縦断線形における勾配変化,特に高い位置における視覚的効果はトンネルの限られた視野および照明によって強調される.
  • 特に通行方向が一方か対面かの運用条件は,レイアウト設計の上で考慮される必要がある.
    • 可視性と視認性における通常の条件
    • トンネル側部への(水平坑による)水平アクセスもしくは(立坑による)鉛直アクセスの配置可能性,特に換気と断面の最適化,安全性の向上(本線と並行する高価なトンネルの建設を避けることによって利用者の避難通路と緊急隊のアクセス性を確保)のために検討が必要である.
  • トンネル坑口周辺のレイアウト:
    • トンネル坑口は交通の移行部分の中で特殊な場所であり,人間の行動や心理学的な条件を考慮する必要がある.利用者が本能的に自らの進行方向を維持できるように幾何学的な連続性を維持することが必要である.
    • 特にトンネル出口のアプローチでは長距離に渡る出口部照明の設置の必要性が高まる可能性があり直線的なトンネルは望ましくない.
  • トンネル坑口に非常に近い分岐・合流部:
    • トンネルの坑内・坑外にかかわらず,トンネル坑口近傍に分岐・合流部を設置することは避けるべきである.
    • 仮に避けられない場合は,あらゆる状況下における安全性の確保のために,考慮すべきすべての制約条件と特定事象(レイアウト,トンネル断面,出口もしくは合流レーン,後方の交通の流れへのリスク,避難通路,換気,照明,その他)を決定するための詳細な分析を行う必要がある.

1.2.2 トンネル断面の諸元

1.2.2.1 着目点

トンネル断面の諸元の検討はトンネル線形を選択した後の,第二段階として重要な設計段階に相当する.第一段階(トンネル線形)では経験豊富な学際的なチームによってできる限り上流段階から,非常に注意深い方法により「複雑なシステム」を考慮したアプローチを行う必要がある.この場合,トンネルは複雑なシステムであるで述べられているすべてのパラメータおよびインターフェイスを考慮する必要がある.

第二段階(トンネル断面諸元)は,第一段階(トンネル線形)と独立しているわけではなく,第一段階の検討結果を考慮する必要があるのは明らかである.二つの設計段階は相互依存し,非常に密接に関係がある.

また,上記の1.1.2.2項で述べたように,最初の二つの設計段階は反復して相互に影響を及ぼす過程となる.「複雑なシステム」の分析に対して,唯一の解を導く直接的な数学的アプローチは存在しない.また,解の一意性は存在せず,非常に限られた良い答えと,非常に多く見られる悪い答えがあるだけである.良い解であることを迅速に識別するためには学際的なチームの経験が不可欠である.

1.2.1項で引用された例はトンネル断面諸元の規定が平面および縦断線形に大きな影響を持つ可能性があることを示している.

これまでの経験からトンネル断面諸元の分析は,非常に多くの場合は不完全であり,土木工学における単独の仮定によって制限されてしまうことが示されている.これらは必然的に以下のことを導くことになる:

  • 最良のケースは,機能,運用,そして財務の観点において最適化がなされていないプロジェクトである.これまでの経験から,最適化の潜在余力が例外的な場合で建設コストの20%に達するものも示されている.
  • 最も頻繁にみられるケースは,機能や制約条件,そしてプロジェクトへの影響を不適切に考慮している場合である.これらの機能については次の設計段階において時間を要し,しばしば非常に高価な解法により実施されなければならなくなる.
  • 最悪のケースは建設費や運用費と同様にトンネルの運用および安全性において取り返しのつかない恒久的な影響を及ぼすような根本的な設計ミスである.

1.2.2.2 主要規定

"トンネル断面の諸元"における主なパラメータは次のとおりである:

  • 交通量-交通の性質-運用組織-都市部か非都市部のトンネルであるのかは次の項目の決定に必要なパラメータである:
    • 交通量とトンネルに進入する車両の種類に応じたレーン数と幅
    • (車両の種類に応じた)天端余裕高さ,
    • 例えば一方通行か対面通行か,もしくは故障発生率等の交通量や運用方法に応じた路側帯,緊急停止車線もしくは非常駐車帯
    • 対面通行の場合の中央分離帯とその幅の設置可能性
  • 換気は次に示す項目に対して大きな影響を持つ:
    • 選択された換気形式,また,それ自体が多くのパラメータに依存している(換気参照)
    • 軸流ファン,ジェットファン,二次ダクト,および他のすべての換気施設の設置に必要な空間
  • 利用者の避難通路と緊急救助チームのアクセス通路,これらは運用および安全性に関連する施設に詳述されているが,非常に多くの要素に依存している
  • トンネルの延長と勾配.これらのパラメータは換気や,アクセスと安全性に対する考え方に対して間接的に影響を及ぼしている
  • 運用のためのネットワークや設備は,その数や必要なスペース,トンネル運用上の安全性を保証するために根本な保護性能,そして,歩行者用通路や路側帯の下などの比較的限られたスペースなど,トンネル内空断面の寸法に対して決定的な要素となる場合がある.次に示すネットワークは特に寸法上の影響が大きいものである:
    • 分離もしくは結合された汚水設備(群),それらは道路および関連したサイフォンからの汚染水を収集している.線形条件(1.2.1.2を参照)に関連した横断勾配に変動が無い場合にはトンネル断面の諸元の最適化は単純化することができる.
    • 必要に応じて凍結対策が施された,消火活動や消火栓といった水供給ネットワーク
    • 高・中・低電圧幹線を含むすべてのケーブルネットワーク.それらはトンネルの開放のタイミングや火災時に対する防護が必要,併せてトンネル自体の一部もしくは全体の改修にも必要な項目である.また一方ではトンネル供用期間中に不可欠となる他のネットワークの追加に対しても必要な項目である.
    • 短~中期の間にトンネル内を通過させる可能性が高い外部ネットワークのような特定のニーズ
    • 一部に対して(技術的または法的に)必要な空間と各ネットワーク間の相互作用
    • 運用に必要なすべての信号機器:レーン信号,様々な情報を伝達するパネル,規制表示,安全表示,行き先表示などの信号と標識
  • 局所的に計画された機能的なインターフェース:地下変電所,地下換気所,安全帯,避難所等.この項目は運用や維持管理のための項目であり,特に維持管理作業や作業チームの安全のための待避所等の建設を考慮する必要がある.
  • 施工方法や地質条件はトンネル断面の諸元に(土木構造物の寸法とは独立して)影響を与える,例えば:
    • 水底下の横断については上記の1.2.1.2項で述べた.沈埋工法による解決方法では換気施設,避難通路や緊急隊のアクセス等の設計と配置について掘削によって建設されるトンネルの施設配置とは全く異なったものとなる.
    • TBM(トンネルボーリングマシン)により掘削されたトンネルでは道路下のスペースを例えば換気,利用者の避難通路,もしくは緊急隊のアクセス通路として使用することができる.この方法はトンネルが透水性の高い地質で地下水位下に位置する場合においては,(連絡通路や平行通路等が省略できるといった)最適化を実施することが可能となる.

1.2.3 安全性と運用

1.2.3.1 一般規定

運用における規定と同様に,安全性の研究,運用および非常時の組織などについてまとめた「安全性と運用」という分野におけるPIARCの勧告は多数存在している.読者にはこのテーマに関して以下の章を参照するものとして示しておく:(安全性 と トンネル安全に係る人為的な要因 )

ここでは主に「複雑なシステム」の中における安全性と運用の関連性について扱う.上記1.1.5.2項の表はプロジェクトにおける様々なサブセットを比較して各パラメータの相互依存の程度を示したものである.

ある特定の多くのパラメータがプロジェクトの上流段階から大きな影響を与えている.これらは設計の最初の段階から分析する必要があり,特に以下のパラメータに着目する必要がある:

  • 交通量 - 交通の性質(都市,非都市部) - 車の性質(一つの車種に特化したトンネルの可能性) - 危険物の輸送があるかどうか
  • 利用者の避難と緊急隊のアクセス
  • 換気
  • 利用者と管理者の通信手段

これらのトンネル設計における主要なパラメータは「危険性の分析」や「緊急隊の進入方法」の計画においても本質的な要素でもある.その理由として「緊急時対応計画」の事前分析に関連する「事前リスク分析」は予備設計の初期段階で実施することが不可欠であると考えられるためである.この分析により,満足される必要のあるトンネル固有の仕様,機能,そして安全性についてより良い形で記述することが可能となる.これによりバリューエンジニアリング的な分析や,より良い設計,さらに,技術的および財務的な改善と最適化に対して資することにもなる.

これらのパラメータとその影響度については,以下の段落で詳しく説明を行う.

1.2.3.2 交通とその特性に関するパラメータ

これらのパラメータは主にトンネル断面諸元(1.2.2を参照)に影響を与え,次に示すような一部のレイアウトに対しても影響を与える:

  • 交通量は車線数,換気および避難方法に影響を及ぼす.また,停車帯の有無や待避所そして修理のための特別組織の必要性など,停車時の故障車両とその管理方法に対しても影響を及ぼす.
  • 車両の種類やその分布形態などの交通特性は,避難する人々の量に応じて避難の考え方(連絡通路や避難通路,およびそれらの寸法と設置間隔)に影響を及ぼす.
  • 特定の種類の車両に特化したトンネルは,車線幅,内空高さおよび換気などに関係する.
  • 危険物輸送車両が通過するか否かは,換気施設,トンネル断面,貯水および排水対策,迂回ルート,トンネル坑口部の環境,もしくは排気用煙突,大規模火災発生時の構造物の保護に対して,避難時の緊急隊組織および特殊な手段と材料を保有する消防隊に関する基準に対して影響を及ぼす.

1.2.3.3 利用者の避難-緊急隊のアクセス

これは機能的な基準と一般的な設計に関する基本的なパラメータである.また,このパラメータはしばしば線形(直接外部へ通じる出口)と連絡通路‐地下通路‐平行通路‐通路に通じるシェルターや一次避難場所の建設基準にも影響を及ぼす.

その分析は換気設計(特に火災時の換気),交通量,リスク分析,緊急時対応計画の立案(特に換気と救助シナリオの調査),そして建設方法に関する統合的なアプローチが必要となる.

機能的な観点から,健常者と障がい者の移動を確保するためのルート,幾何学的特性および空間を決めることが必要となる.

これらの施設には均一性,視認性に加え,心地よく,かつ心落ち着かせる特徴を確保することが不可欠である.これらの施設は(事故や火災で)ストレスのかかる状況下にある人々によって,(緊急隊が到着する前の)1次的な自己避難の段階で使用されるものである.これらの使用はストレスによってパニックに陥ることを避けるために,自然かつ単純で,効率的な心を落ち着かせる特徴を持っていなければならない.

1.2.3.4 換気

純粋な“縦流換気”方式で設計された換気施設では “トンネル内空断面”もしくは“線形”にはほとんど影響を及ぼさない.

このことは,排煙ダクトを装備した“縦流換気”方式, “横流換気”方式, “半横流”もしくは“半縦流”換気方式,組合せ換気方式,もしくはトンネル坑口以外からの吸排気用の立坑もしくは中間横坑を含む換気方式に対しては当てはまらない.これらすべての設備は“内空断面”, “線形”およびすべての付加された地下構造物に対して重要な影響を及ぼす.

交通空間内の換気施設は基本的に以下に示す目的に応じて設計されている:

  • 国の規制勧告で要求されるよりも低いレベルで濃度を維持するために汚染空気を希釈し,トンネル内で健康上問題の無い環境を提供すること
  • トンネル内の火災発生時に効率的な排煙システムを提供することに,交通空間の外に避難するまで,利用者の安全を確保すること

換気設備には以下の追加的な機能が設けられることがある.

  • 改善された汚染空気の拡散,またはトンネル外への排出前に空気の洗浄を行うことにより,トンネル坑口での大気汚染の抑制
  • トンネル内で汚染空気を再利用するための空気洗浄用の地下施設.これらの施設は都市部のトンネルや非都市部の長大トンネル内に設置されている.これらは大きなスペースと多大なメンテナンスが必要となる複雑で高額な技術である
  • 火災時において熱の影響による構造物の劣化を低減するためにトンネル内の温度抑制に資する場合

換気施設は交通空間の換気のみを考慮しているわけではない.以下についても考慮されている:

  • トンネル間をつなぐ連絡坑
  • 避難坑や火災時に利用者によって使用される避難所
  • トンネル内もしくはトンネル坑口近傍の外部に位置する空気の更新もしくは温度レベルの管理や制御(地理的条件に応じた加熱または空調)に必要な技術室や設備群

換気設備の設計に必要な事項は以下の通りである:

  • 直面している多くの条件と性能に対して,ダイナミックかつ迅速な方法で適応できること:
    • 直面している多くの条件と性能に対して,ダイナミックかつ迅速な方法で適応できること:
    • 火災時の煙に対する変動可能な動作速度,特に火災の発達時と衰退時だけでなく,火災の全時間を通じて避難,消火,構造物保全等の各段階において消火活動戦略の展開に適合が可能
  • 交通条件の変化(量および性質),汚染物質の許容値の低下,そして様々な運用上の条件に対してトンネルのライフサイクル全体に適応できるようにするために現時点における施設の十分な余力

1.2.3.5 - 利用者とのコミュニケーション-監視

利用者とのコミュニケーションは情報伝達を行うことにより「トンネル断面諸元」に重要な影響を持つ.

他の主要な影響因子については,「複雑なシステム」の全体とは関連しない.それらは特に遠隔監視,検知,通信,交通管理,制御,監視に加えて避難組織などの運用設備に関するサブシステムに関連する.

1.2.3.6 - 運用における個別要求事項

トンネルの運用と維持管理チームの作業に対しては特別な準備が必要な場合がある.その理由は十分な安全性を確保した下での作業が可能となるように,また,交通の制限を減らす目的のためである.

特別な準備としては,例えば,定期点検作業,交換部品やメンテナンス部品(特に重量物や取扱いづらい材料)の運搬が容易になるように,地下施設群の前面に待避所を設置することなどが挙げられる.

1.2.4 施設の運用について

この項の目的は,運用する施設や設備の概要やその機能,設計に関する記述を行うものではない.これらの内容は最新の「道路トンネルマニュアル」もしくは1.6以降に記載されているハンドブックや国の提言にて示されている.

この項では,所有者と設計者に対して,トンネルを運用するうえで必要な特定の設備や施設固有の問題に対する注意事項を記載している.

1.2.4.1 戦略の選択

利用者のトンネル通行時に適切な快適性と安全性を提供するといった2つの使命が満足されるとともに,交通流を確保するために,運用している施設によってトンネルの機能が満足されるようにする必要がある.

その施設は地理的な位置や固有の特性,交通の性質,トンネル前後の道路構造,安全にかかわる重要な問題,緊急時の組織に加え,トンネルが存在する国の法律と文化的および社会経済的環境に適している必要がある.

過剰な施設の設置がトンネルの安全で快適なサービスレベルの向上に資することには必ずしもならない.過剰な施設の設置により,維持管理の増加と人為的な介入が必要となり,それらが実行されなければ,安全性レベルとトンネルの信頼性の低下につながる可能性がある.それらの施設は並列して,または,乱雑に設置しても効果がない.それらの施設は(安全性における重要な機能を)補完したり,時には冗長的なものとして整備される必要があり,全体として一貫して形成される必要がある.

運用施設は"生きて"いる:

  • 運用施設は再現性を保有し,技術レベルに適した厳密な修繕および維持管理体制を必要とする.維持管理にはコストを要し,トンネルが使用され続ける限り,熟練した人材と財政投資が必要となる.維持管理の不足(または不十分な維持管理)は施設の欠陥,機能不全につながり,その結果としてトンネルの機能と利用者への安全性に関して問題となる.供用中の施設の維持管理は限定されており困難な状況が多い.施設の設計段階からその配置について考慮する必要がある.その理由としてシステムの"建築"に対しては,トンネルの使用性と安全性に対する機能障害の影響,および維持管理の実施,もしくは施設の改修における影響を抑えるために設計と配置が入念に考慮される必要がある.
  • それら施設の"寿命"は一定ではなく,施設の特徴やその使用法,置かれている条件に加え,組織や維持管理の体制によっても10年から30年程度の範囲で変わりうる.したがって定期的な交換が必須であり,結果として十分な資金が必要となる,
  • 技術の進展により施設の更新,場合によっては先進的な技術を含むものとする必要がある.その理由として技術の陳腐化や交換部品が入手困難となることがある.
  • トンネル自体やその周辺環境が進化していることを考慮していくうえで,施設には適応力が備わっていることを示す必要がある.

戦略的な選択を行うために考慮されるべき主な事項は以下のとおりである.

  • 単に装置を設置することが望ましいという発想ではなく,トンネルに対して真に必要となる施設を定義すること.バリューエンジニアリングを組み合わせたリスクアナリシスは合理的に必要な施設を選択することが可能になる強力な手法である.この手法ではシステムの複雑さを組み込むことが可能であり,同時に,この複雑さが厳格で権限を持つ組織によって管理されなければ,遅延,機能障害,費用増大をもたらすことがある.
  • 交通供用下で維持管理を実施する困難さや必要となる維持管理とその頻度を削減するため,施設の品質や耐久性の向上を優先すること.これは,より高い投資コストが発生する可能性があるが,運用期間中にわたってほぼ補償される.
  • 設計,製造,工場受入れ時の試験,現地での設置時の試験運用といった各段階において,その施設の品質や性能を確認すること.これまでの経験によれば,厳格な組織体系と効果的な規制が行われていないため,多くの施設が不十分であり,その目的を満足していない.
  • 施設が直面するであろう気象や環境条件,社会文化的条件(一部の国における維持管理に関する考え方の欠如)や技術的条件に加え,同様に運用における組織体制などに適合した技術を選択すること
  • 施設の設計や設備の選択において,運用費用や特定のエネルギー費用を考慮すること.これらの費用は,トンネルが存在する限り発生する.換気施設と照明施設は,一般的にエネルギー消費が高い施設である.予備設計の段階からこの点について留意されるべきである.
  • 設計と資金調達の分析の準備段階から考慮すべき事項:
    • 設置の必要性や運用や介入を行うチームの組織,学習や訓練を行う一方で,清掃や維持管理への配慮
    • 交通状況下における維持管理上の制約,運用の成果,維持管理・補修費
  • 新設トンネルプロジェクトの一般的な組織化とスケジューリングを考慮する必要がある.すべての施設とシステムについて,それらを実行するためのチームの募集と訓練,および外部介入者(特に緊急隊-消防隊)とともに,トンネルの特殊性に慣れさせるための練習と予行演習を兼ねたリハーサルによって操作を行う時間の確保が(2~3ヵ月の期間)が義務づけられる.

1.2.4.2 -主要な施設に関する提言

1.2.4.2.a エネルギー - 動力源 - 配電

トンネルの設備が機能するためには電源が必要である.大規模なトンネルにおいては,常に現地で確保できるとは限らない数MW規模の電力が必要となることがありうる.既存のネットワークを強化し,信頼性を向上させる,もしくは新たなネットワークを想像するためには設計の初期の段階から必要な準備を行わなければならない.電力供給は,トンネルの運用や建設に不可欠である.

電気エネルギーの供給およびトンネル内における配電に関しては以下の規定が必要である.

  • 必要容量
  • 安定供給
  • 信頼性,冗長性を有し,保護されたエネルギーの流通システム:流通ネットワークの冗長性と相互接続性-平行に接続された変圧器-火災抵抗性を有する鞘やマンホール内にあるケーブル

すべてのトンネルは固有のものであり,緊急隊の介入等の条件と同様に,その地理的な位置特性,既存の電気ネットワーク,電源供給条件(優先されるまたは優先されない),増加または消滅の可能性のある電源,既存の公衆ネットワークの信頼性,そのトンネル特有のリスクに応じて,固有の分析を行う必要がある.

すべてのトンネルは固有のものであり,緊急隊の介入等の条件と同様に,その地理的な位置特性,既存の電気ネットワーク,電源供給条件(優先されるまたは優先されない),増加または消滅の可能性のある電源,既存の公衆ネットワークの信頼性,そのトンネル特有のリスクに応じて,固有の分析を行う必要がある.

電源供給が停止した場合の安全に関する項目は以下のとおりである.

  • (トンネルや避難条件に応じて)概ね30分間,以下のすべての安全装置を停止させない非常用電源の供給:
    • 最小限の照明レベル-信号- CCTVによる監視-通信-データの伝送とリモート監視・制御システム-センサーと様々な検知器(汚染-火災-事故など)
    • 非常駐車帯や避難経路,避難所への電力供給
    • この機能はエネルギーをすぐに供給できるように,通常,UPSシステムやディーゼル発電機によって確保される.
  • たとえば都市部もしくは地方部にトンネルがあるか,リスクの発生はトンネルによってさまざまに異なっていることから,停電の全期間において特殊な手順が準備されている限りにおいて,MOC(最小運用条件)の付加的な対象は以下の設備の電力供給を確保するために決定されうる.たとえば,換気システムの(発電機または部分的な外部電源による)非常用電源は軽車両の火災時はその通行を許可するが,トラック火災では一時的にその通過を禁止する.

通常電力供給用に準備されているものは以下のとおりである:

  • 公共電源から非常電源供給がある場合:
    • 高または中程度の電圧をもつネットワークの独立セグメントへの接続可能な公共ネットワーク網から2から3程度の供給源を有する.機器の一部の電力供給の中断や外部非常電源の供給が不十分な場合など,トンネル内の変電所において必要に応じて,"通常電源"と"非常電源"の間で自動的に切り替えが可能
    • ディーゼル発電機ではない
    • UPS非常用電源の設置
  • 外部からの非常電源供給がない場合:
    • 公共ネットワークから単一の外部電源
    • ディーゼル発電機は主な外部電源が遮断された場合に電力の一部を供給することができ,最小運用条件と特定の運用手順が確立
    • UPS非常用電源の設置
  • 電源が完全独立の場合 ― 利用可能な外部電源が無い場合:
    • 公共ネットワークは必要な電力を供給することができない,もしくは必要な信頼性を確保していない.トンネルはその場合完全に独立している.エネルギーが同時に作動するディーゼル発電機により完全に供給される.発電機の1つに障害が発生した場合に備えて予備の発電機が"バックアップ"として設置されている,
    • もし発電機の信頼性レベルが不十分,または安全上の理由で問題であると考えられる場合は,UPS非常用電源の設置が可能.

1.2.4.2.b 換気

この分野におけるPIARCの推奨事項は多数あり,換気施設の概念と設計に対して本質的で国際的な言及を行っている.読者は上述の1.2.3.4に加えて,換気を参照するのがよい.

しかし,たとえ換気施設がトンネル利用者の健康と快適性,安全性を保証するために不可欠な施設の1つを構成するとしても,利用者やオペレーター,緊急救助隊がとる行動,専門知識,行動能力によって最も重要な要素を占めていることに留意すべきである.

換気施設が単独では,特に空気清浄と環境保護に関して,すべてのシナリオを取り扱うことはできず,また仮定されたすべての機能を満足することも不可能である.

換気システムの選択とその規模の関連性の把握にあたっては,長年の経験に加え,火災の連続的な進展や熱伝搬や熱交換,有毒ガスや煙の伝搬に関連した閉鎖環境内における流体力学の複雑な現象を理解する必要がある.

換気施設は一般にエネルギーを消費するものであり,それらの規模の最適化と例えばエキスパートシステムの使用による運用に対して留意されるべきものである.

換気施設は非常に複雑である場合がある.ストレス下にあるオペレーターよりも一層効率的に状況を把握し管理するための自動システムの導入が,火災時における適切なマネジメントとして必要となる場合がある.

上記の1.2.3.4に示されているように換気施設は常時の運用下で健康と衛生に対する必要条件および火災時の安全性における目標を満足できる必要がある.

エネルギー消費の耐久性,信頼性,適応性,長寿化および最適化は,換気施設が満足しなければならない主要な品質基準を構成している.

1.2.4.2.c 換気施設への追加機器

以下に示す換気施設のための2種類の追加機器は,利害関係者や住民関係者,ロビー活動において要求されがちな内容である.

  • 換気もしくは空気清浄施設
  • 固定された消火システム

A. 空気清浄施設

外気の品質に関するトンネルの影響でこの問題を扱っており,読者はそれを参照できる.

空気清浄施設の導入は都市部の居住者を保護する団体からたびたび要求されるものである.これらの施設は通常地下に設置され,建設に加え運用および維持に多額のコストを要する.加えてそれらは非常にエネルギー消費が高い.

車両からの重要な排出の削減と,トンネル内の大量の空気に含まれている非常に低い濃度の汚染物質を処理するシステムにおける難しさがあり,その結果は納得できるものとはなっていない.そのため過去10年間に設置された多くのシステムはほぼ稼働していない.

将来的には空気清浄設備は,発生源において汚染物質の一層の削減を課す強制的な規制があるような国では非常に不確定なものになる.

B. 固定消火システム(FFSS)

固定消火システムでこの問題を扱っており,読者はそれを参照できる.

その技術は膨大で多様な基準に応えている:消火活動-火災の抑制-火災現場近くにいる利用者のための熱放射および温度の低下-高温によるトンネル構造の損傷に対する保護等

これらのシステムがもし火災発生時から作動していた場合,肯定的な面もあるのかもしれないが,特に視認性の条件の悪化に関連して否定的な効果を示す.FFSSの使用は換気や避難の戦略と同様に利用者の安全性のあらゆる側面に対して一貫したアプローチが必要である.

このようなシステムの導入に関する決定は複雑で,重要な結果をもたらす.それは関連する作業の安全性に関する特定の条件と,システムの導入によって得られる付加的な価値に関する反応を受けうる.それはその時代の流行や圧力の影響を受けるべきではない.

FFSSはその信頼性が保証されている間に定期的で頻度のある点検といった重要な保全対策の実施を必要とする.

1.2.4.2.d 照明

CIE(国際照明委員会)の提言は彼らが提示する照明のレベルが高く,PIARCにおいて議論があるところである.読者はCIEの提言を含むいくつかの手法を示した欧州標準化委員会が発行する技術レポートを参照するように勧められている.

照明は,トンネル利用者の快適性と安全性を確保するための基本的なツールである.照明レベルの目標はトンネルの地理的な位置(都市またはそれ以外)やその特徴(短期または長期),交通量と交通の性質に適合させなければならない.

照明機器は多くの電力を消費し,その機能と性能を最適化するための開発が進行している.

1.2.4.2.e データの転送-管理- SCADA

SCADAはトンネルの"神経系"と"頭脳"であり,情報の編集,伝達,処理,その後機器の取扱説明の伝達を許可するものとなっている.

このシステムはトンネル内の特定の状況,施設,組織構成と運用方法,トンネルの設置によるリスクの背景に加え,介入開始のための準備と手順に対して明確な分析を必要とする.

監視とコントロールセンターの組織は,トンネル(またはトンネル群)の特定の背景,必要な人的物的手段,想定される課題,自動装置による基本的な補助,もしくは事故発生時のオペレーターへのエキスパートシステムに対して,オペレーター業務の削減と単純化,効率化が図れるように,慎重に分析される必要がある.

これらのシステムの詳細設計は長期で詳しいものであり,また,現場のすべてのシステムを統合した後に,全体の制御および試験を通じた一連の段階(特に工場出荷時のテスト中)において,開発および制御に関する正確な方法論が必要となる.経験によればこれらのシステムにおいて発生する多数のエラーは次の要因によるものである.

  • 定義された仕様の未熟さ,不十分な機能分析,または動作条件および手順に関する知識不足
  • 詳細分析のための必要時間,システムの横断的統合,またはトンネルの運用にあたって特有の条件を考慮できないほどのシステム開発の遅延
  • 全てのシステムの開発,試験,制御,統合に関する厳密さの不足
  • 人間の行動と一般的な人間工学を考慮することの欠如
  • 重大事故発生時の意思決定の論理的順序と集約された意思決定の階層構造という観点でのトンネルの運用に関する経験不足

マニュアルの監視制御およびデータ収集システム(SCADA)は,これらのさまざまな側面をまとめている.

1.2.4.2.f ラジオ - 通信 - 低電圧回路

これらには以下の施設がある.

  • 緊急時における電話ネットワーク
  • 管制室や緊急隊の無線ネットワーク.トンネル利用者に向けて安全に係る情報や指示を発信することができる無線チャンネル
  • 異常を検出および測定するための多数のセンサー
  • CCTVのネットワーク
  • AIDシステム(自動事故検出)は,通常CCTVシステムと関連づけられている.AIDシステムは検出の信頼性と効果を向上させるためにカメラ数を増加させる必要がある.

1.2.4.2.g 標識

標識に関しては標識を参考とする.

他の施設以上に,過剰な標識の設置はその関係性と目的に弊害をもたらす.

シグナリング(非常警報装置と利用者への案内に対する優先順位)の読みやすさ,一貫性,均質性と階層構造は,トンネル内とそのアプローチ上での標識の設計に関して優先されなれければならない.

固定された標識板,車線の案内板,可変メッセージ標識,交通信号や停止灯,非常口案内板,これらの出口を特定する標識,非常駐車帯の標識,車線を閉鎖するための物理的な装置(取り外し可能な障壁),車道部の視線誘導線とランブルストリップスは,すべての標識の装置の一部である.これらは利用者とのコミュニケーションの一部を確保するものである.

1.2.4.2.h 消火活動用の装置

火災検知器は局所的(地下変電所または機械室における火災検出)もしくは交通空間内において線上(熱感知ケーブル)に設置されている.

消火活動のための様々な装置は以下のとおりである.

  • 利用者が使用するための粉末消火器
  • 消防士のための設備:水道管や消火栓-一部の国における発泡パイプ.防火水槽の容積はさまざまである.それは,地域独自の規制やトンネル固有の条件に依存する.
  • いくつかのトンネルにはFFSSが設置されている.(上記 1.2.4.2.cを参照)

1.2.4.2.i その他の機器

その他の機器については,安全に関する目的や必要性,快適性と構造の保護に応じて設置される場合がある.以下に例を示す.

  • その他の機器については,安全に関する目的や必要性,快適性と構造の保護に応じて設置される場合がある.以下に例を示す.
  • 煙が充満するトンネル内における消防士の安全な活動を可能にするため,側壁部の手すりや固定された救難柵
  • 側壁に描かれたペイントまたは設置されている簡易なパネル
  • 火災によるダメージにから構造物の安全を確保するための装置.このような安全性の確保はプロジェクトの当初から考慮される必要がある.熱交換は(覆工もしくは地盤との)火災の間だけでなく空気の特性を考慮して変更される.それを基に換気施設の規模を決める設計がなされなければならない.
  • トンネル外の自然環境に排出する前にトンネル内の舗装で集められた水の管理と処理
  • トンネル坑口における環境条件を測定するための機器,規制値を超過した場合,特定の操作手順がとられる.

1.3. 修復-既設トンネルの更新

  • 1.3.1. 診断
  • 1.3.2. 補修と更新の計画
  • 1.3.3. 設計の実施と建設

運用中の既設トンネルの更新(特に安全性向上のための)と補修について,その分析と実施方法による特定の問題が生じる.既存の空間と制約を考慮する必要があるため,新設トンネルほどの自由度はない.それぞれの施設の種類とそれらの統合に関連した特有の技術は新設と既設で同一である.

供用中のトンネルの補修や更新は,作業中の安全条件の低下や交通量や交通条件によって受ける極めて高い影響によって,建設工期とコストの増加につながる場合が極めて多い.これらの短所は実際の既設トンネルの状況や条件やその施設と環境だけでなく,交通への影響を軽減するための考え方と手順が欠如した不完全な分析の結果である.

既存のトンネルの安全性の評価と改善では,既設トンネルの安全の診断と更新計画の開発のための方法論を提案する.さらに維持管理と改修作業中の運用では,既設トンネルで実施される作業に関連した特有の問題を示す.それらの処理は上記の問題を軽減するのに資する.

しかし,以下のセクションの要点にも,読者に対して注意すべき内容を示している.

1.3.1. 診断

トンネルの詳細で厳密な診断は更新や補修を実施するうえで不可欠な手順である.残念ながらこの手順はしばしば無視される.

トンネルの物理的な診断が必要である.

  • 詳細で,かつ正確な方法で機能および幾何構造を評価,把握すること
  • 構造の詳細な条件の記述を確立すること.特定の耐火性,不確実性および潜在的なリスクの評価と,詳細設計のための確実な基礎となる条件を提供するために必要となる試験を記載すること
  • すべての既存の機器とその機能,条件,技術,実際の特性(試験や計測が必要とされる)と使用できる可能性がある予備部品の在庫を記載すること
  • 機器を交換する前の残存寿命の評価と,市場での代替品が入手可能かどうか(特に技術陳腐化による留意が必要)の供給能力を確認すること
  • 維持管理と点検報告書,機器の故障や故障率を確認すること

この物理的な診断は,組織体系,維持管理と操作方法に関する診断によるだけでなく,安全と救助の介入の組織体系に関連するすべての書類に関する特別な診断によって補完する必要がある.この段階では最終的な補修の前の初期の状態でのトンネルの全体的な安全性の状況を改善するために,様々な関係者の訓練活動の確立につながる可能性がある.

診断においてはトンネルの現状に基づいてリスク分析が行われる必要がある.この分析には2つの目的がある:

  • トンネルが補修前の現状において運用し続けられるかどうか,もしくは一時的な移行措置をとる必要があるかどうか評価を行うこと - 一部の車両へのアクセスの制限 - 監視と介入のための規定の強化 - 追加装備 - など
  • 補修計画の定義を改善するために,安全性の観点からの既存の状態を考慮した構成とすること

診断では,もし既存の施設が特に作動条件によっては,修正されるか,追加されるか,またはアップデートされた施設(技術的な互換性,特にデータの収集と伝達のための性能,自動的に動作する装置およびSCADA)に将来的に統合されるのであれば,(工事期間中に新たなリスクの発見を行わずに)確認されなければならない.

1.3.2. 補修と更新の計画

2つの段階からの補修と更新の計画が進行する.

1.3.2.1. 第一段階:計画の作成

計画の作成から結果:

  • 上述した詳細な診断
  • トンネルの初期状態を考慮したリスク分析
  • 安全性に関する顕著な差異
  • トンネルの更新を可能にするため将来的な拡幅や既存の空間を確保することが可能であるかどうかの分析

トンネルの物理的な環境と使用可能な空間に依存するため,社会インフラや施設の最適な更新計画は,許容される条件下においては実現可能性がない場合もありうる.また,より制約がある更新計画を立案する必要がある.この制約がある計画では,完了後に感覚的なものとして,必要とされる安全性レベルが達成されるように緩和措置の実施を必要とする場合がある.

1.3.2.2. 第二段階:計画の検証

計画の検証が必要であり,

  • その計画によって導入された新たな手順を判断するために更新後のトンネルの最終状態を元にしたリスク分析を開発.この分析は初期状態に基づき,事前の分析に使用したものと同一の方法で確立されなければならない.これにより最適化の検討が可能になる.
  • 運用の必要条件の下での改修や補修を実施するための作業の実現可能性に関する詳細な検証:例えばトンネルの閉鎖または一時的な交通規制の禁止.その計画の目的と必要な作業が両立しない場合には,繰り返しの検討が必要である.この繰り返しの検討にあたっては以下の内容が懸念される.
    • 計画自体,計画の適応性と一つには安全の目標,また一方では必要とされる運用条件での開始が両立するか
    • 更新計画による作業を物理的に実施するために修正される必要があるかもしれない運用の必要条件

更新または補修計画は必ずしも物理的な作業を必要としない.トンネルの機能,または運用準備の修正となる場合がある.例えば,

  • トンネルの通行を許可している車両のカテゴリを変更:トラックの通行禁止 - 危険物積載車両の通行禁止,
  • 交通規制の具体的な手順の設定:常時かまたは渋滞時か
  • 最初に対面交通でトンネルを運用し,一方向交通の運用に切り替えること
  • 管理や介入のための手段の変更

1.3.3. 設計の実施と建設

設計の実施や建設の段階では,補修や更新などの計画を実際に技術的かつ契約的な仕様に言い換え,それを開始する作業を含む.

この段階では特に詳細な分析が必要である:

  • 建設の連続した段階,これらの各段階での内容,作業の論理性と優先順位
  • 各施工段階におけるトンネル内の安全条件.これは緩和措置が必要な場合のその実施と部分的なリスク分析が必要である:交通規則 - 交通規制 - パトロール - 介入手段の強化 - など
  • トンネル内の交通状況と施工中(昼間と夜間,通常の期間と休暇期間の異なる取り決め),変更の可能性,交通全体に対する影響や施工範囲内の安全条件などのさまざまな段階によるその部分的かつ一時的な規制の取り組み
  • 一つには受注者のための契約上の仕様を定義するために,そしてもう一方ではすべての一時的に必要な一時的な措置を実施するために,そして利用者や住民のための情報キャンペーンを始めるための部分的および全体的な施工の契約期限の制限と制約

1.4. "トンネルの一生"における段階

  • 1.4.1. 設計
  • 1.4.2. 施工
  • 1.4.3. 試運転
  • 1.4.4. 運用

トンネルの一生は,以下のような主要な段階に任意に分類することができる.

1.4.1. 設計

設計は新設トンネルの一生において最も重要な段階であり,建設や運用にかかるコスト,安全性,技術的・財政的リスクマネジメントの観点で決定的な段階である.

この段階では,トンネルを構成する「複雑なシステム」の全てのインターフェースを横断的に統合することが必要であるが,

残念ながらそれが行われているケースは希であり,多くの場合,独立していると見なされている各段階を繋げたものがトンネルの設計となっていることは経験的に明らかである.皮肉なことであるが,以下のことに言及することができる:

  • 機能が必ずしも明確に定義されているわけではない.
  • 線形は,トンネルやその制約事項,全体の最適化の可能性を統合することなく設計されている.
  • 土木は,建設コストおよびリスクに結びつく全てのことを,平面・縦断線形によって調整する.
  • 設備や安全性のレベル,運用は,何らかの形で組み込まれるが,必ずしもそれ以前の段階で選択された内容に適したものであるとは限らない.

1.4.2. 施工

土木に関しては,技術的なリスク(特に地質的なもの)や,工費・工期に関する事柄全てをマネジメントすることが,最も重要である.

施工時のリスクマネジメントに関することは,設計段階から考慮する必要がある.これらの検討事項は,詳細に記述し,トンネルの所有者と共有されなければならない.また,リスクに関する決定事項は,文書で明示されなければならない.

ある程度のリスクを負担するという決定は必ずしも間違いではなく,禁止されているものでもない.なぜなら,例えば過密な工程において,全ての不確定要素を取り除くために必要とされる全ての調査を行うことは現実的ではないからである.

しかしながら,リスク負担の決定以下の事項を熟考した上で行わなければならない.

  • 発生し得る結果―遅延,工費,人的・環境的影響,安全,工期等―これらは明確に特定,分析,確認されなければならない.
  • この決断における真の問題点,成功の可能性,その実質金利

リスクを負担することは,様々な当事者における不注意や能力不足の結果であってはならない.

運用施設に関しては,読者の関心は以下のものにある.

  • 設備寿命,信頼性,メンテナンス性の最適化につながる全てのもの,
  • 部品の製造から,組立て,取付け,統合後の部分的・全体的試験に至るまでの,厳密なプロセスの必要性および設備の機能性・性能・品質に関する連続的な制御
  • 工費が若干増加するとしても,機器や受注者の選定に関する品質への追加的な報酬.初期コストの減額による節約は,しばしば維持管理コストの増加や,供用下での介入の困難さ,利用者へのさらなる制約に直ちに繋がる.

1.4.3. 試運転

"トンネルの一生"におけるこの段階は,過小評価されるとともに,遅れて考慮されることが多い.この段階は時間を要するが,そうと認められることはあまりなく,不十分な条件下での試運転となるか,安全面で無防備な条件下での試運転となりがちである.

この段階では,以下のものが含まれる.

  • 運用および維持管理を行う組織
  • 通常のトンネル運用条件および最小運用条件(MOC)における運用,維持管理,介入,安全の全ての手順に関する開発と調整
  • 職員の採用と訓練
  • 機器が完全に揃わない限り実施できない,設備の"予行演習"(軽微な調整介入のみを要する準備をともなう可能性あり)
  • トンネルの試運転を行う前の,全ての介入チームやサービスを巻き込んだ実践,訓練,演習

1.4.4. 運用

主な目的は,以下のことを確実に行うことである.

  • 全ての施設の維持,管理,そして修繕
  • 利用者の安全性と快適性

日常のルーチンワークから距離を置き,状況を客観的に見ることができるようになることも必要である.それは以下のことを行うためである.

  • 経験からのフィードバックを確立し,安全性を確保するために手順・介入条件・演習を適合させる.
  • サービスや安全性のレベルを落とすことなく,運用コストを最適化する.
  • 大規模な補修,改築,更新作業の同定,分析,計画,実施

1.5. 建設,運用,改良に係るコスト – 資金的側面

  • 1.5.1. はじめに
  • 1.5.2. 建設コスト
  • 1.5.3. 運用コスト
  • 1.5.4. 改修とアップグレードに関するコスト
  • 1.5.5. 資金調達に関連する特徴

1.5.1. はじめに

トンネルは,建設・運用の面から,比較的高価な土木構造物である.プロジェクトの初期段階から,技術的・資金的最適化の可能性に注意しなければならない.

設計初期段階から,以下のプロセスを踏むことが推奨される.

  • トンネルの"機能"の詳細な定義
  • "バリューエンジニアリング分析"の反復プロセス.プロジェクトの全ての戦略的段階において行われるもので,リスク分析における様々な段階に組み込まれなければならない.
  • 設計・施工段階における潜在的なリスクの詳細な分析とモニタリング.これらの潜在的なリスクは,以下に関するものである.
    • 特に地山の複雑さに関する技術的不確実性(地質的・地質工学的不確実性)
    • 交通量予測の不確実性.これは,コンセッション方式によって建設や資金調達をした場合の収益に関して,重大なリスクの構成要素となる.
    • 資金調達環境に関する不確実性とリスク.特に金利や資金調達および借り換えの条件の変化.これは,コンセッション方式あるいはPPPによって建設や資金調達を行った場合において,重大なリスクの構成要素となる.

このプロセスにより,プロジェクト(建設・運用コスト)の最適化や,技術的・資金的リスク管理の改善が,工期と同様に可能となる.

1.5.2. 建設コスト

1.5.2.1. キロ当たりのコストの比率

トンネルの建設コストは非常に変わりやすく,キロ当たりのコストの比率について典型的なものを示すのは不可能である.なぜなら,特に以下の項目によって,大きく変動(平均的には1~5倍)するからである.

  • 地質条件
  • アクセス道路やトンネル坑口に関する難しさ
  • トンネルの地理的な位置:都市部か非都市部か
  • トンネルの長さ:特に,長いトンネルでは換気施設や非常用施設がより重要なウェイトを占める.一方,短いトンネルではアクセス道路や坑口に関する作業がより重要な影響を及ぼす.
  • 車線数や換気施設の規模の決め手となる交通量
  • 交通の性質:特に,危険物積載車両が通行するトンネルは,換気や安全性,恐らく火災に関する構造耐力についても,高価な対策が必要となる.一方,軽車両の通行に限られたトンネルは,車線幅や内空高さ,換気施設を縮減できる可能性があるので,大幅にコスト削減ができる場合がある.
  • トンネルの影響を低減させるための高価な保護対策が必要となる可能性のある,トンネル周辺環境
  • 建設リスクの管理や共有のために行われる対策
  • トンネルが建設される国を取り巻く社会経済的環境.その影響はコストの20%に達する場合がある.

せいぜい,普通のトンネルが平均的な地山条件で建設された場合の平均的なコストが明かり部の等価な構造物の10倍程度であることを示せる程度である.(outside of urban areas).

1.5.2.2. 建設コストの内訳

トンネルの建設コストは3つのタイプのコストに分けることができる.

  • 土木構造物としてのコスト
  • 運用施設のコスト.監視センターや,公共ネットワークからのエネルギー供給を含む
  • その他のコスト:特にプロジェクトを推進するための所有者のコスト - プロジェクトマネジメント,設計と現場監理,測量や地質調査,環境調査および軽減策,用地買収,様々な手続き,等

下記の2つの図は,トンネル建設コストの内訳の例を示したものであり,片方は土木工事の条件が複雑ではない場合,もう一方は土木工事の条件が比較的良くない場合である.

図 1.5.1:建設コストの内訳

図 1.5.1:建設コストの内訳

注:これらの図は土木工事のコストの重要性を示したものであり,右図は土木工事費が約2倍となった場合の結果を示したものである.

1.5.3. 運用コスト

トンネルの運営コストは,3つのタイプのコストに分けることができる.

  • 運用コスト:基本的には人員配置やエネルギー,マネジメント,消耗品といったもの.これらは経常経費である.
  • 維持管理にかかる年間コスト
  • 大規模な改修コストおよび寿命や状態に応じた設備の交換コスト.これらのコストは頻繁に発生するものではなく,設備やその品質,維持管理状況によって異なるが,運用開始から10~12年目ぐらいから発生する.

下記の2つの図は,経済状況が一定だと仮定した場合の,建設コスト(土木工事,運用施設,様々なコスト)と全体的な運用コスト(運用開始から30年分の積算値)を示した例である.

図 1.5.2:30年間のコストの内訳

図 1.5.2:30年間のコストの内訳

注:これらの図は,運用と維持管理にかかるコストの重要性と,常時発生する運用および維持管理のコストの最適化を可能にする配慮について,トンネル設計の初期段階から考慮することの必要性について示したものである.

1.5.4. 改修とアップグレードに関するコスト

この章では,新しい基準に準拠した施設のアップグレードに必要な改修やアップグレードに関して記述する.これらの業務は,避難施設,火災に対する構造の耐火性,運用および安全設備,そして新しい安全基準を満足するために必要なすべてのものが対象である.

既設トンネルの多様性,それらの状態,交通量,そして,多かれ少なかれ各国ごとに異なるであろう新安全基準の要求事項の重要性などのために,統計的な価格を提示することは不可能である.

フランスにおいて2000年より観察を行った新基準に準拠するための更新作業のコストは,約1千万ユーロから数十億ユーロの範囲で(20億ユーロを超える予算規模の更新プログラムもいくつか存在していた),予算に大きな変動があることが示されている.

1.5.5. 資金調達に関連する特徴

トンネルは建設時と運用時の両面でコストのかかるインフラ構造物であるが,地域開発,交通の円滑性,快適性,安全性,(山岳部を避けるという)信頼性の高いルートを提供するだけでなく,環境保護の面からもトンネル建設によって得られる経済的効果によって,コストは相殺される.

これらの業務は以下のいずれかによって資金調達がなされている:

  • “伝統的な方式”:公的機関,公共の課税もしくは燃料税などの財源によって実施される資金調達とメンテナンス
  • 民間企業もしくは半公共団体が,定められた契約期間の中でトンネルの建設と運用の役割を担う“コンセッション方式”.この事業体は,建設と運用のコストだけでなく,リスクと金融費用を(しばしば部分的に借款によって)調達する役割を担い,利用者が支払う通行料などによってこれらを相殺する.この種の“コンセッション方式”は,譲渡者の財政的関与もしくは特定の保障(例えば,最低交通量を保障することで,設定最低交通量に達しない時に金銭的補償を行う)を与えられることができる.
  • 以下のものに関連したPPP(官民パートナーシップ)またはその類似方式の"混合方式":
    • 建設のみ,もしくは建設と運用のみ
    • “設計・施工”の場合のような“一括受注契約”方式による建設
    • 部分的または全体の資金調達

現在のマニュアルでは,融資のこれらの各種モードを詳述した,またはそれらのメカニズム,および長所や短所について提示する意図はない.しかしながら,経験に基づいて,初歩的な模式図を与えている,いくつかの主要なガイドラインを提示することは興味深い.

a) 公的機関による資金調達

  • この方式による資金調達は広く採用されている.“コンセッション方式”による資金調達が(通行料徴収から十分な収入が得られないことによって)達成できない,もしくは政治的な理由により通行料の徴収が行われないとき時でも,この方式を用いることで社会基盤計画の開発を進めることが可能となる.
  • しかしながら,この方式では公的機関が資金を確保する財務能力を持っていること,または資金を借りて債務を保持する能力を持っていることが必要となる.財源は基本的に,公共の課税もしくは燃料税,時には部分的に通行料の徴収によって確保している.

b) "コンセッション方式"による資金調達-グローバルな社会基盤の中の一部であるトンネル

“非自立型のトンネル”の資金調達を(譲渡者の財政的関与の有無に関わらず)“コンセッション方式”によって行うことは,通行料を徴収する新規の都市間高速道路の一部であるトンネルの場合では一般的となっている.トンネルにおける(建設および運用の)コストは,トンネルと明かり構造部との間で共有されている.新しい社会基盤が時間短縮や信頼性の向上,快適性そして安全性を確保していれば,単位距離当たりの平均的な通行料が高くても,利用者は受け入れることが経験的に示されている.

c) “コンセッション方式”による資金調達-単独のトンネル 

単独のトンネルでは2つの主要なカテゴリがある.

  • 交通状況の大幅な改善に寄与するトンネル.このケースは,交通量を緩和し,走行時間を低減することを目的とした特定の都市トンネルに該当している.経験的には,次の条件を満たす時にのみ,“コンセッション方式”による資金調達を見込むことができる:
    • 大きな交通量
    • 生活と収入水準の高く,財務バランスを確保するために不可欠な実質的な通行料金の設定が可能な国
    • 比較的高い通行料の見返りとして利用者が受け入れる大幅な時間短縮
    • 少なくとも約50年間のコンセッション期間
  • 大きな自然障害物(山脈や河口)を通過することを目的とする“地域開発型”のトンネル.これら障害物は交易上の重要な障害となっている.初期の交通量は比 較的低い.トンネル建設による新しい接続ルートが交通の発達を可能とする,ただし,こうした発達量を事前に予測することは非常に困難であり,これがコン セッション方式の資金調達の金融リスクにおける本質的なパラメーターとなっている.経験的には,“コンセッション方式”による資金調達が次の条件を満たし たときにのみ現実的なものとなることが示されている:
    • 自然障害物が大きな影響を与え,トンネルが有料であるにも関わらず,既存のすべての交通手段を引き付けるために十分に魅力的であること(時間短縮,サービスレベル,提供されるサービス,接続ルートの信頼性)
    • 財政的支援もしくは建設および工事の一部に対する直接的な関与(例えば,アクセス道路の建設)のどちらかを含むような譲渡者(おそらく出資者)による財政的な関与
    • 最低交通量に達しない時に契約により財政的な支払いを伴う,譲渡者による最低交通量の確保
    • もし,規定された超過制限もしくは条件を契約により規定できれば,主要なリスクを共有するための契約上の取決めにより,リスクに関する財務モデルを設定することができること
    • 非常に長いコンセッション期間の設定:多くの場合70年以上
    • 譲渡者による金融保障,これはコンセッション事業体が金融市場においてより好ましい,金融計画の実行可能性を確保するような,ローン条件によって利益を得ることを可能にする.

d) PPPもしくはその類似方式による資金調達

  • PPP方式が扱う内容は広範囲にわたっているため,ガイドラインを確立することは困難である.
  • この方式による資金調達は,公的機関が長期に渡り出資することを確約する.伝統的な資金調達方式に対して,この方式の資金調達に本当に利点があるかを評価するために詳細な分析が必要になる.実際,開発者が想定するリスクを補償し,(等しい機能と品質を持った)プロジェクトの総括的なコストを増加させるために,この方式による資金調達がかなりの頻度で貢献している.
  • 公的機関は,プロジュクトの進展において重大な誤解および予算超過を招く可能性のある,あらゆるあいまいさを防ぐために,品質,快適性,安全性,サービス水準,耐用年数,利用率,罰則等のトンネルに必要な機能を慎重に決めなければならない.

1.6. 規制-推奨事項

多くのトンネルを持つ国々では設計,建設,運用,保守,安全性そして救助隊のアクセス方法等に関する規制を設け,推奨事項と指針を策定している.

道路トンネルの安全性の条件に関して,EUに属する国々では,欧州横断道路網の一部となる500m以上のトンネルにおいて利用者の安全性を確保するために実施される最低限必要な措置について記述されている Directive 2004/54/CE により規制を受けている.また,欧州諸国の多くの国々では道路による危険物の国際輸送に関する欧州協定 (ADR) およびトンネルに関する具体的な措置を含む国際協定によって規制を受けている.すべての加盟国は,これらの欧州の規制を自国の規制に移行させている.いくつかの加盟国では,欧州規制を移行させたものよりも,さらに要求の高い規制を追加して実施している.

道路トンネルの運用と安全性に関する規制と推奨事項のリストは,PIARCと国際トンネル協会 (ITA - AITES) の地下施設運用安全性に関する委員会 (ITA-COSUF) 間の協力によって設立された.この文章はITA-COSUFのウェブサイトで参照することができる.このリストは完全ではないが,世界27の国々と3つの国際機関の国際委員会のものを示している.

多くの国々では,領土内に道路トンネルを持っていないために,トンネルおよびトンネルの安全性に関する規制を設けていない.これらの国々では,様々な起源をもつ文章を掛け合わせるのではなく,トンネル分野において長い経験を持つ国における既存の規制に関する一括的なすべてを含むパッケージを選択することを推奨する.PIARCの推奨事項は,現在のマニュアルの中に要約されており,同様に European directive 2004/54/CE の中にも,頻繁に適用されている国際参照が記載されている.

 

1.7  複雑な地下道路ネットワーク   

  • 1.7.1 Introduction
  • 1.7.2 Part A “Case Study”
  • 1.7.3 Particular strategic challenges
  • Multimedia Kit

This chapter consists of two main subsections:

  • A summary of the report prepared by the working group 5: “Complex Underground Road Networks”, published during the 2015 congress in Seoul (see §1.7.1 and §1.7.2),
  • An analysis of the particular strategic challenges relating to “Complex Underground Road Networks” (see §1.7.3). 

1.7.1   INTRODUCTION

“Complex Underground Road Networks” has been the subject under consideration by the PIARC Working Group 5 throughout the course of the 2012-2015 cycle. 

The working plan consists of two sections:

  • Part A “Case Study”. This part reflects investigations carried out throughout the course of the 2012-2015 cycle. A report on this is available on the PIARC website: 2016R19EN Road Tunnels: Complex Underground Road Networks. A summary of this report is presented in §1.7.2 below; 
  • Part B “Specific Recommendations”. Studies and specific recommendations will be the focus of the 2016-2019 cycle and will be published in a second report at the end of the cycle. 

The terminology “Complex Underground Road Tunnels” covers the following infrastructure:

  • A sequence of successive tunnels: examples include the analysis done on Prague, The Hague, Oslo and Tromsø;
  • Multimodal tunnels: examples include the analysis done on The Hague and Lyon with shared usage between buses, pedestrians, bicycles and trams;
  • Tunnels giving access to business and commercial centres (for public access and freight delivery): examples include the analysis done on Helsinki and Paris-La-Défense. These structures usually comprised a multitude of interfaces between numerous operators which represents a significant part of their complexity;
  • Tunnels with a dual function as transit and access to underground car parks: examples include the analysis done on Annecy, Brussels and Tromsø;
  • Tunnels with reduced vertical clearance: examples include the analysis done on Duplex A 86 in the Parisian region;
  • Underground infrastructure with numerous entrances and exits, as well as underground interchanges. This category of tunnels network identified as the key example of “complex underground road tunnels” is the most important in the panel of analysis. 

All the structures share several similar characteristics:

  • Their complexity,
  • Their location - essentially in urban and suburban areas,
  • Their numerous interfaces with other infrastructure or neighbouring networks to which they are connected, thus creating as many interactions between the operators of various infrastructure and networks. 

1.7.2  PART A “CASE STUDY”

1.7.2.1 OBJECTIVES AND METHODOLOGY

The objective of the case study was to identify structures of this type around the world, to summarise collected information, to analyse it and to establish a number of preliminary recommendations for owners, designers and operators. 

While this collection of information is not exhaustive and the summaries do not constitute a scientific database, it nevertheless contains pertinent and interesting findings. The collection of information was limited to the countries of origin of the Working Group 5 members, wherein the working group had active correspondents available to them. 

The general methodology has been the following:

  • Drawing up a detailed questionnaire,
  • Surveying through interviews with operators, owners and designers,
  • Analysis of the information gathered during the investigation,
  • Establishment of summaries,
  • Writing up of preliminary recommendations.

At more than 600 pages, a significant volume of information was collected.  Therefore a direct publication of all information has been deemed unsuitable.  The working group decided to:

  • Present an overview of the information,
  • Establish a monographic sheet for each of the analysed structures (see §1.7.2.5).

1.7.2.2 TUNNELS INVESTIGATED

Twenty-seven (27) “tunnel complexes” were analysed. The list is provided in §1.7.2.5 below. Several “complexes” consist of two to four tunnels and the actual analysis reflects a total of 41 individual tunnels. 

The geographic distribution of structures analysed is shown in the graph below :

Fig 1.7.1 : Distribution of tunnel complexes within the case study and detailed distribution in Europe

Fig 1.7.1 : Distribution of tunnel complexes within the case study and detailed distribution in Europe

The European tunnels seem over-represented in the sample analysis. This stems, 

  • from a greater precedence of structural planning of this nature in European territories, from a large necessary investment cost (limiting the number of countries that are able to bear the expense); 
  • from the difficulty of collecting complete information from several countries (outside of Europe) that were initially identified. 

Particularly, investigations in Chile (Santiago), in Australia (Melbourne and Sydney) and a second project in South Korea were unfortunately unable to be completed by the production date of the current report. They will be the subject of future updates throughout the course of the next cycle during which supplemen-tary analysis from Germany, China, Japan, Singapore and the USA will also be considered. 

1.7.2.3 SUMMARY OF KEY INFORMATION

The key information outlined in the analysis focus on the following aspects:

  • The ‘nominal length’: these lengths span from 400m to 16.4km;
  • The overall length of each underground network: these lengths span from 1.1km to 32.8km;
  • The year of commissioning: the oldest tunnel of the sample was opened in 1952; the most recent tunnels were put into service in 2014. Of the tunnels investigated, 73% have been put into operation during the last thirty years;
  • Traffic volume: the three busiest tunnels have a traffic volume between 150 000 and 160 000 vehicles per day;
  • The geographic location of the structures with regard to the number of inhabitants populating the urban area serviced by the tunnel(s);
  • Methods of construction: 44% were constructed by cut and cover, 44% by drill and blast, and 12% by TBM or shielding or immersed tube;
  • Minimum geometrical characteristics including horizontal and vertical alignment;
  • Maximum gradients for ramps on an incline and slopes on a decline;
  • The number of underground interchanges or entry and exit ramps: for example, two tunnel complexes consist of more than 40 entrances and exits;
  • The lane width: these are in the range of 3.0m and 4.5m with two thirds of the structures having a lane width equal to 3.5m;
  • The vertical clearance (free height): these are in the range of 2.0m and 4.8m;
  • The lateral elements: emergency stopping bays, sidewalks;
  • The speed limit, which is limited to 70 km/h in the majority of structures investigated;
  • The nature of traffic: the majority of tunnels investigated prohibit heavy vehicle usage;
  • Breakdown and accident rates;
  • Annual number of fire incidents;
  • The emergency exits and safety equipment;
  • The ventilation system;
  • The organisation of operations and maintenance.

1.7.2.4 PRELIMINARY RECOMMENDATIONS

As the outcome of this analysis, the working group established a number of preliminary recommendations. These recommendations will be the subject of detailed additional developments which will be published in Part B of the report at the end of the 2016-2019 cycle.

These preliminary recommendations, presented in Chapter 11 - Present Situation, Comments and Preliminary Recommendations of the report, deal with the following aspects:

a - Geometry

Underground road networks are located mainly in urban areas, and their design (in particular their alignment) has several constraints.

Geometrical conditions which often contribute to traffic incidents, include: meandering curved alignment, insufficient visibility near the access and exit areas, insufficiently defined characteristics of merging or diverging lanes and, poorly designed exit ramp connections towards the surface road network leading to congestion in the main tunnel, etc. 

It is recommended that in preparing the alignment, the following be considered:

  • Not to be limited by a simple geometric approach, linked only to underground and surface land constraints, 
  • To implement an overall vision, particularly taking into account the land constraints, the initial traffic conditions, the envisaged evolution of traffic conditions, the operation and safety conditions, the geological, geotechnical and environmental context, as well as the construction methodology and all the other parameters that are specific to the project concerned (see § 1.7.3 below).

b - Cross-section

The investigations mentioned above show that 80% of analysed tunnels prohibit the transit of vehicles that weigh over 3.5 tonnes (or 12 tonnes, in some instances). However, the tunnel design does not take into account this restriction, and does not reconsider optimisation of the lane width as well as vertical height clearance. 

Investigations carried out on recent projects show that substantial savings (from 20% to 30% depending on the final design characteristics) can be obtained by choosing a reduced vertical height for tunnels that prohibit heavy vehicle usage. 

It is recommended that at the earliest stage for developing tunnel projects detailed studies be undertaken to consider and analyse the “function” of the tunnel, traffic conditions (volume and nature of vehicles), as well as the financial feasibility and financing methods. This should be done in such a way as to analyse the advantages of a cross-section with reduced geometric characteristics. This may facilitate the financial optimisation of the project without reducing the level of service or affecting the safety conditions.

c - Ventilation

Underground road networks are usually subjected to large traffic volumes. Traffic congestion is frequent, and the probability of a bottleneck developing within the network is high and recurring. As a result, the ventilation system has to be developed with a detailed analysis of the risks and dangers, taking into account the existence of bottlenecks.

A “pure” longitudinal ventilation system is rarely the appropriate sole response to all the safety requirements, especially in the scenario of a fire located upstream of congested traffic. A longitudinal ventilation system will cause smoke de-stratification downstream of the incident location.  This constitutes a danger for any tunnel user blocked or in slow moving downstream traffic. 

The addition of smoke extraction gallery or the choice of a transverse or semi-transverse ventilation system is often vital if no other realistic or feasible safety improvement measures can be put into place, and considered as efficient.

It is also necessary to implement equipment allowing the different network branches to operate inde-pendently of each other.  This will facilitate the control and the management of smoke propagation during a fire incident. 

The risks associated with the traffic of dangerous goods vehicles through a tunnel with a high urban traffic density must be carefully analysed. There are no ventilation systems capable of significantly reducing the effects of a dangerous goods large fire in such traffic conditions.

d - Firefighting

The necessary timeframe for response teams to arrive on site must be subjected to a detailed analysis under normal and peak hour traffic conditions. The objective is to determine whether or not it is necessary to install first line intervention facilities and resources in proximity of the tunnel portals.

The turnover of fire brigade staff is relatively high in urban areas and their interventions in tunnels are rela-tively rare. The high rate of turnover may lead to loss of specialist skills in tunnel intervention. Thus, it is essential to implement tools which allow continuous professional education and training of the teams. A virtual 3D model of the network, associated with simulation software, can provide pertinent, user-friendly and effective tools. 

e - Signage

It is fundamental to ensure clear visibility of the exit ramps and a clear legibility of signage, in order to reduce the risk of accidents where exit ramps diverge from the main carriageway. 

The locations of interchanges, entry and exit ramps, as well as the concept for signage should be analysed from the conceptual of alignment studies. 

f - Environment

In order to reduce atmospheric pollution, communities, stakeholders and residents often demand the installation of filtration devices for in-tunnel air before it is released into the atmosphere. 

This results in a decision to install filtration equipment which is rarely rational or technical, but in ad-hoc response to public pressure. Before any decision-making on this issue, it is, however, essential to:

  • Carry out an analysis to provide an assessment of the expected actual efficiency with regard to air quality, and compare this to the estimation of investment costs and operational costs (especially energy and maintenance costs) in order to establish a rational and balanced projected report of the technical and financial situation;
  • Take into account the progress of the car industry by allowing a reduction in emissions and vehicle pollution and thus limiting the concentration of pollutants. This reduction in pollutant concentration would, over time, lead to the decline in the effectiveness of installed air filtration devices;
  • Analyse international experience and identify the reasons why many existing air treatment installations have been removed from service. 

g – Traffic conditions – Traffic management

The connections between exit ramps and the surface network must be equipped in a way which allows supervision and management of traffic in real time. This arrangement allows traffic congestion to be reduced inside the tunnel, and an improvement of safety should tunnel incidents require quick evacuation of users. 

h - Operation 

The coordination between operators of physically connected infrastructure is in general adequate. However, it is often essential to improve this coordination by clarifying the situation and role of each operator (particularly in the event of traffic congestion and fire incident) by defining common procedures and determining priorities between the different infrastructure parts and their traffic. 

1.7.2.5 MONOGRAPHS

Monographs have been established for each of the structures listed in the table below. They are accessible in the Multimedia Kit at the bottom of the page. The monographs of the structures highlighted in amber are in the process of being updated and will be online shortly. 

TABLE 1.7.2 : LIST OF ANALYZED "TUNNELS COMPLEX"
Continents Countries Cities Names of the tunnels complex Appendices
Asia China (CHN) Changsha Yingpan Tunnel 1-1
Japan (J) Tokyo Chiyoda 1-2
Yamate 1-3
South Korea (ROK) Seoul Shinlim-Bongchun and Shinlim-2 1-4
Europe Austria (A) Vienna Kaisermühlen 2-1
Belgium (B) Brussels Leopold II 2-2
Belliard 2-3
Czech Republic (CZ) Prague Blanka Tunnel complex (3 tunnels) 2-4
Mrazovka and Strahov 2-5
Finland (FIN) Helsinki KEHU - service tunnel 2-6
France (F) Annecy Courier 2-7
Ile-de-France Duplex A 86 2-8
Lyon Croix-Rousse (road tunnel + multimodal tunnel) 2-9
Paris La Défense A14 / A86 motorway interchange 2-10
Voie des Bâtisseurs 2-11
Italy (I) Valsassina Valsassina tunnel 2-12
Monaco (MC) Monaco Sous le rocher tunnel
(2 interconnected tunnels with “Y” form layouts)
2-13
Norway (N) Oslo Opera tunnel (chain of 4 tunnels) 2-14
Tromsø 3 interconnected tunnels with roundabouts
and access to parking lots
2-15
Spain (E) Madrid M30 By-pass 2-16
M30 Rio 2-17
Sweden (S) Stockholm Ring Road – Northern link 2-18
Ring Road – Southern link 2-19
The Netherlands (NL) The Hague Sijtwendetunnel (chain of 3 tunnels) 2-20
North America Canada / Quebec (CDN) / (QC) Montreal Ville-Marie and Viger tunnels 3-1
USA Boston Boston Central Artery 3-2
Oceania Australia (AUS) Brisbane M7 Clem Jones Tunnel (CLEM7) 4-1

1.7.3   PARTICULAR STRATEGIC CHALLENGES

“Underground Road networks” are “complex systems”. All the recommendations presented in Chapters 1.1 to 1.5 above are applicable to them. Nevertheless, certain “subsets” and “parameters” mentioned in Chapter 1.1 present a much more significant potential impact on underground networks. The “interactions between parameters” (see § 1.1.2.2) are generally and much more extended and complex. 

Several major strategic challenges presented in the above chapters, as well as their principal interactions, and the additional parameters below, must be well considered in the process of developing tunnel designs and for the construction and operation of tunnels.

1.7.3.1 GEOMETRY

This term is applicable to tunnel cross-section, vertical alignment, implementation of interchanges, access and exit ramps. In addition to the recommendations from § 1.2.1 the following elements should be considered for:

a – Land occupation

Land occupation deals with the surface occupation in open air (roads, buildings and various structures, parks and protected areas, etc.) and the volumetric occupation of the underground space (underground infrastructures such as metro, car parks, various networks, building foundations, etc.)

The interfaces between the underground and surface spaces are numerous: ventilation stacks, access and exit ramps, evacuation corridors and intermediate emergency access.

The underground and surface land occupation constraints are not always compatible with a given location and it is often necessary to decouple surface structures from those underground. This relationship can be implemented through inclined shafts or underground corridors that link any vertical shafts that are located away from the tunnel alignment. 

b - Geology, geotechnical, hydrogeology

The geological, geotechnical and hydrogeological conditions have a significant impact on the horizontal and vertical alignment especially with regard to the risk of settlement, the possibility of construction underneath existing structures and any required maintained distances to existing surface or underground struc-tures, in relationship with the construction methodology considered.

These conditions can also influence the position of underground interchanges. For example, in the case of loose soil below groundwater level a localised widening of the cross section to build ramp merge and diverge areas could require construction works starting from the surface (large shafts, treatment and land consolidation works). These works require setting up temporary occupation on the surface. Under such conditions the location of underground interchanges should then also consider the type of land occupation on the surface. 

c - Functionality for traffic

The functionality of the alignment mainly deals with areas where connection to the road network at the surface (or possibly with other underground structures) has to be built. The position and the design of the main tunnel portals, the access and exit ramps, as well as the location of interchanges depend on these functionalities. 

The location of all these connections is also linked to the volume of traffic in the underground network, as well as its multiple entrances and exits. The connections must take into account the absorption capacity of traffic in the surface road network, adjustments to connections design in order to avoid underground traffic congestion and thus reduce accidents and significant tunnel fire incident risks.

d - Safety – rRsks of accidents

The analysis of existing networks demonstrates a concentration of accidents around areas with curved geometry, overly steep slopes and insufficient visibility around the merge and diverge areas of ramps. 

All these elements must be carefully taken into account from the early stage of the design of the horizontal and vertical alignments of a new network.  

e - Methods of construction – Time period

The construction methodology has a direct impact on the horizontal and vertical alignments (and vice-versa). They are also strongly guided by the geological, geotechnical and hydrogeological conditions.

The methods of construction can have an important impact on the location of the tunnel portals. In particu-lar, the use of a shield (slurry shield or earth pressure balanced) requires significant site area not only for the assembly of a tunnel-boring machine but also throughout the duration of the works (particularly for the treatment of slurry and provisional storage). A conventionally bored tunnel (when soil conditions permit it) requires fewer facilities close to the portal, and can be accommodated in a smaller site area. 

The analysis for the shortening of construction timeframes can have an impact on the horizontal and vertical alignments, for example in order to make possible intermediate construction access sites. 

f – Environmental conditions 

During operation period of the network, the main concerns are air quality and noise impacts.  These concerns have repercussions on the positioning of tunnel portals and ventilation shafts. These issues must be analysed carefully, in particular the ventilation plants as well as the additional equipment likely to reduce the environmental impact. 

The position of portals, and the associated temporary work site plants, must also be analysed from an environmental aspect in terms of construction methods and timeframes. For example, a conventional method of construction will have a more significant noise impact as opposed to a TBM construction method. If the tunnel portal is situated in a noise sensitive area, works will have to be suspended during quieter night periods, leading to a prolonged construction period and consequent inflation of costs. A modification of the portal location or changes to the alignment can reduce these impacts. 

1.7.3.2 CROSS-SECTION

In addition to the recommendations from § 1.2.2 the following elements should be considered for:

a – Nature of traffic - Function

As mentioned in § 1.7.2.4.b above, the nature of traffic is a factor that must be carefully analysed regarding their initial conditions as well as its evolution over time. Many urban underground networks prohibit heavy vehicles (more than 3.5 t or 12 t depending on different conditions), even though they were designed with standard vertical height clearance and lane width characteristics (defined for the allowance of all types of vehicles).

Analysis of the “function” of the underground network and the evolution of that function is essential. It allows the cross-section to be optimised by choice of geometrical characteristics (vertical height clearance and lane width) to ensure adequacy for the present and future traffic that will use the network. 

Savings made regarding construction costs are significant (from 20% to 30% depending on the chosen characteristics). Where applicable, these savings may allow a project to be financed, and thus feasible, where it may not have been with standard vertical clearances and lane width. 

b - Volume of traffic 

The volume of traffic is the determining factor in defining the number of lanes of the main tunnel, as well as interchange or access and exit ramps. 

The volume of traffic should be taken into account when defining the length of merging and diverging lanes for entrances and exits. The risk of congestion, at the connection of exit ramps to the surface network, must also be considered, as well as the consequences that this has on the main tunnel (bottleneck queue) to determine whether or not it is necessary to design and lengthen a parallel lane upstream from the divergence point of the exit ramp from the main road.  

c - Ventilation 

The ventilation galleries to be installed inside the structure contribute considerably to the spatial requirement. Therefore, it is necessary to proceed to a preliminary “analysis of hazards and risks”, and an initial sizing of ventilation installations before definitively setting the characteristics of the functional cross-section. This approach is often iterative. 

d – Geology - Geotechnics - Hydrogeology - Methods of construction

The geological, hydrogeological and geotechnical conditions, as well as methods of construction (which are often interlinked) have a vital impact on the shape and surface area of the cross-section. The following example illustrates this interaction. 

In loose soil below groundwater level, the use of a shield will be required for the construction of the main tunnel.  The main tunnel will be circular in shape. However, the cross-section will also depend on other functions: 

  • For a tunnel consisting of two tubes, the emergency exits are usually provided by connecting passages between both tubes. The construction of such passageways in these ground conditions is extremely costly since it requires significant ground consolidation works (grouting or freezing). Studies have shown that it is more economical to integrate the emergency galleries inside the excavated section (usually underneath the roadway) and to connect the escape gallery to vertical linkages along the carriageway.
  • A carriageway diverge for exit ramps or merge of on-ramps requires widening of the section over several hundred metres. These works are extremely costly to build in these ground conditions. It is usually more economical to develop a cross-section with a supplementary lane that will be used as an exit or merging lane towards the ramps, and as an emergency stopping lane in the main tunnel. The area requiring costly widening works is thus limited to a few dozen metres. It can be constructed inside a temporary shaft that can also be sized to allow the construction of technical rooms or a ventilation station. 

1.7.3.3  SAFETY AND OPERATION

Recommendations in section 1.2.3 are integrally applicable to “underground road networks”. The analysis approach must, nevertheless, take into account the complexity of underground networks and the aggravating influence of certain factors, in particular:

a - Traffic 

The volume of traffic is generally more significant and in high traffic volume conditions traffic congestion is much more frequent. It follows that the number of persons in tunnel is much higher and in the event of an incident, the number of users to evacuate will be more significant. 

Ramps merge and diverge areas are important locations in terms of risk of accidents. 

The assumption, which is sometimes prevalent from the start of projects, that there will never be a traffic blockage must be analysed with much circumspection. It is indeed possible to regulate the volume of traffic entering into an underground network in order to eliminate all risk of bottlenecks. Nevertheless, this leads to a significant decrease in the capacity of the infrastructure (in terms of traffic volume) which often goes against the reasoning that justifies its construction. Over time, measures of reducing entering traffic must be relaxed, or even abandoned because of the need to increase traffic capacity.  The probability and recurrence of bottlenecks increase, disregarding the initial assumption upon which the network was based (particularly in terms of safety and ventilation during incidents). 

b - Emergency evacuation – emergency access

The analysis must take into account:

  • The potentially higher volume of road users needing to evacuate, and the consequent necessity of providing adequate information, communication and evacuation methods, 
  • The complexity linked to the “network” and its numerous branches, the eventual multiplicity of operators and the resulting interfaces, the precise location of incidents and users to secure and evacuate,
  • The delays in response times, taking into account the traffic and possible congestion of the surface network, a correct identification of the incident locations, and adequate definition of access points and incident engagement methods,
  • The necessity of response teams to have a good knowledge of the network, leading to a reinforce-ment of training and practical sessions (see § 1.7.3.4. above).

c - Ventilation

The concept and design of ventilation systems must take into account:

  • The volume and classification of traffic, as well as its evolution over time,
  • The traffic congestion risks, generally making the construction of a smoke extraction system essential, 
  • Environmental constraints especially discharge points for polluted air, release methods and their acceptability. This would require, if should be the case:
    • The construction of discharge points that are remote from the main alignment and the construction of ventilation galleries independent of the tunnel for connecting the tunnel to the shafts, 
    • The implementation of in-tunnel air filtration systems before release into the atmosphere,
  • The multitude of network branches and the necessity of making them operationally independent of each other to prevent the spread of fumes throughout the network should there be a fire.

d – Communication with users

Communication with tunnel users must be reinforced and adapted throughout the multitude of branches within the network. Communication must be able to be differentiated between the different branches according to operational needs, especially in the case of fires. 

Users must be able to identify their position inside the network, which would require, for example, the installation of specific signs, colour codes, etc. 

Directional signs and prior information signs at interchanges or ramps must be subjected to careful consideration, particularly the visibility distances with regards to signals and the clear legibility of the signage.

e – Operational needs

Specific operational needs (cf. § 1.2.3.6) must be adapted to the complexity of a network, to the volume of traffic and to the resulting increased difficulties of achieving interventions under traffic conditions. 

1.7.3.4 OPERATIONAL AND SAFETY EQUIPMENT

Recommendations in section 1.2.4 are also applicable to “underground road networks”. Nevertheless, anal-yses must take into account the complexities of underground road networks and the supplementary needs or conditions mentioned in Chapter 1.7.3.

The interfaces between operators of associated or related network must be subjected to a specific analysis, particularly for all aspects concerning, on the one hand, traffic management and, on the other hand, safety (especially fire incidents), including evacuation of users and intervention of emergency response agencies in response to fire incidents.

Control centres must take account of the interfaces within the network and between diverse operators. They must allow the transmission of common information which is essential to each operator, and facilitate the possible temporary hierarchy of one control centre over another. The architectural design of the network of control centres, and of their performance and methods, must be subjected to an overall analysis of organisa-tions, responsibilities, challenges and risks.  This analysis should reflect a range of operational conditions such as during normal and emergency scenarios, and should review the interaction between the different subsections of the network and the respective responsibilities of each control centre.   

MULTIMEDIA KIT

2. 安全性

世界中で建設中もしくは計画中のトンネルが増え、また、既設トンネルの交通量が増加するに従い、トンネルの安全性の重要性は高くなってきている。トンネル内事故数は明り部に比べて少なく、トンネルはある意味では利用者にとって安全で予測しやすい走行環境かもしれない。しかしながら、大惨事が起きる可能性は非常に大きく、ひとたび災害が発生した際にはその注目度は非常に高い。

近代道路トンネルの安全性は包括的な各種対策によって確保されている。リスクアセスメント、安全性確認や災害対応手順などの十分に検討された一連の手段は、計画段階や設計段階、ひいては運用やトンネル改良時において利用可能であり、安全性確立に寄与するものである。

明り部に匹敵するトンネルの適切な安全性の確保は、大災害を未然に防ぐことに焦点をあてたトンネルの設計や運用,事故発生時の初期段階における自己救助やその後の緊急隊の効果的な活動を支援し,容易にすることによる被災の軽減を目指した構造的,総合的アプローチにより実現可能である。

対面通行の道路トンネルで事故(ビデオ)

対面通行の道路トンネルで事故(ビデオ)

過去のトンネル事故より重要な教訓が得られており、その詳細は過去のトンネル事故からの経験で述べられている。 これらトンネル事故は世界的にトンネル安全性に関する関心を高めており、後述のモンブラントンネル火災の調査報告により、多くの国が自国のトンネル安全基準やガイドラインを再点検するとともに基準等の更新を図っている。

国連欧州経済委員会(UNECE)はトンネル安全性に関するPIARC代表者を含む専門家グループを配置し、2001年にトンネルのあらゆる安全性を網羅した勧告を作成した。これら勧告は、トンネル安全性に関する国際基準の改善に貢献した。欧州では、欧州委員会が2004年にヨーロッパ道路網に位置するトンネル安全の最低要求指令を整備した。

欧州外の地域でも様々な取組がお行われている。米国では、トンネル安全基準(NFPA502)が過去のトンネル事故や研究に基づき更新されている。

欧州指令で定められたトンネル安全に関わる最低基準は欧州道路ネットワーク網に適用したものである。欧州諸国にとってトンネル安全に対する基準や要求は欧州指令より重いものかもしれない。そのような基準は、欧州指令の適用外と考えられる例えば都市部の特別なトンネル等、各国固有の状況により派生したものである。

道路トンネル運用に関するPIARC技術委員会は、各ワーキンググループにてとりまとめた各種レポートの発行等を通じトンネルの安全性向上に取り組んでいる。これら独自の活動や法整備に加えて、主に欧州における数多くのリサーチプロジェクトやテーマ別部会によりトンネルの安全原則に対する知識や理解に貢献するとともに、道路トンネルの安全には包括的なアプローチが必要であることをトンネル関係者に認識させている。これらの一般原則はマニュアルの一般原則で取り扱われ、包括的アプローチは安全性の要素と統合的なアプローチに記述されている。

トンネル安全をより理解させ改善するために行われている国際的な協働取組の詳細は以下の文献で取り扱われている。

  • Route/Roads 324特別号(2004年10月)(8,65 MB)"トンネルの火災安全"
  • レポート2007R07の第2章"道路トンネルの安全性に関する最近の取り組み"の中の道路トンネルの安全性に関する2000年以降の取り組み
  • レポート2007R07の付録A "国際的なプロジェクトとネットワーク"

これらの活動に加えて、PIARCは地下空間施設の安全運用に関する協会(ITA-COSUF)や地下空間協会(ITA)と国際的に協力して各々の経験や安全推進策について交流を行っている。

道路トンネルの安全への包括的アプローチの鍵は、安全基準を定め安全性の分析及び評価を、許容可能な安全性確立に係る費用と得られる投資効果を見比べて実施することにある。この評価の基本は,トンネルの安全管理に不可欠な手段であるリスクアセスメントであり、リスク評価に記述されている。

トンネルの安全性分析評価において特に重要で特視すべきはトンネル火災であり、火災安全のための基本原則と手段に記述されており、危険物車両輸送については危険物で取り扱われている。

トンネル安全管理の有効性を最大限高めるために、対策や決定的事象の取り扱い方、安全に関する一定かつ一貫性のある考え方を具備するために一定の手法が必要である。トンネル管理に重要な3つの主要手法は、安全に関するドキュメント、事故等に関するデータ収集・分析ならびに安全性の検証結果である。これらはいくつかの詳細を含めて安全手順に記載されている。

安全に関わる新しい要求や交通量の増加は、既存トンネルをアップグレードすることをに繋がっており、これにより既存のトンネルの安全性の評価と改善で吟味されている特定の問題を提起している。

貢献者

この章は以下のC4委員会(2008-2011間)のワーキンググループ2のメンバーにより編集された。

  • Didier Lacroix (France), 委員会の元委員長は、この章の執筆を監督し、フランス語版の校閲を実施。
  • Gary Clark (UK), 英語版を校閲し、安全性の章、一般原則および安全性の要素と統合的なアプローチを執筆
  • Alejandro Sánchez Cubel (Spain), 過去のトンネル事故からの経験および安全手順を執筆。
  • Blaž Luin (Slovenia) and Bernhard Kohl (Austria), リスク評価と危険物を執筆。
  • Ignacio del Rey (Spain) と Fathi Tarada (UK) , WG4メンバーは、火災安全のための基本原則と手順を共同執筆。
  • Jérome N´Kaoua (France) は、既存のトンネルの安全性の評価と改善を執筆。

日本語版は,市川敦史(東日本高速道路(株))が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した.

2.1. 一般原則

道路トンネルの安全管理は、トンネル内に危険物車両が顕著に多く、一連の事故事象が予測困難な人の行動に大きく左右される場合、非常に難題となる。(トンネル安全に係る人為的な要因参照) トンネルという体系を構成する全ての要素(インフラ、運用、緊急隊、道路利用者、車)を考慮した包括的なアプローチが必要となる。

要件評価の最初のステップは、安全目標を定義することにある。これらは通常、リスク分析・評価を通して定義されたリスクやトンネル固有特性を左右する安全条項について、国の法律や基準国家レベルで設定されるものである。リスク分析・評価における許容リスクについては本マニュアルのリスク評価で述べられている。

従うべき基本原則は、トンネル非常時に、道路利用者は自己避難することです。この非常時における自己避難段階の後に、消防隊および救助隊により,消火活動や自己避難できずトンネル内に残された利用者の救助が行われます。

安全目標は、様々な定義がありますが、PIARC、UNECEや欧州連合の活動において、以下のような広義な定義で合意されています。

  • 重大事象を防止すること
  • 事象による影響は軽減すること

図 2.1-1:安全サークル

図 2.1-1:安全サークル

トンネルの包括的安全性(安全性の要素と統合的なアプローチ)は、次に述べる2つの目的に留意することが必要です。このようなアプローチは、図2.1-1に示すような緩和措置、介入から評価に至る防災の安全サイクルとして表わされる。安全目標と一般原則について、詳しくはレポート2007R07の第3章の一般原則に記載されている。安全性確立やリスク低減を実現するために必要な行動は次に述べるカテゴリーに分類される。

  • 道路利用者の行動(トンネル安全に係る人為的な要因)
  • 運用及びマネジメント措置(運用と維持管理)
  • トンネルの形状(幾何構造)
  • トンネルの構造と設備(運用および安全性に関連する施設)
  • トンネルの機器(機器およびシステム)

これらのトピックスに関する情報は、本マニュアルの関連する章に記載されている。トンネル安全対策の選択に関する一般的な情報は以下の資料に記載されている。

  • レポート05.16.Bの第2章"トンネル火災に対する安全の概念"
  • 技術レポート05.13.B"道路トンネルの運用と維持管理のための模範事例"
  • レポート2007R07の第4章"安全の実践"
  • 技術レポート2008R15"都市道路トンネル-設計、管理、運用、維持管理のための道路管理者・運用組織への提言"
  • レポート2008R17の第5章"道路トンネル交通条件の悪化を防ぐために推奨される追加措置"

安全の計画とその実行には、最適な安全レベルの提供と合理的な建設及び管理コストの最適なバランスをとる必要がある。これには、安全性の要素と統合的なアプローチで取り扱われる包括的なアプローチが手助けになるかもしれない。

2.2. 安全性の要素と統合的なアプローチ

安全はすべての安全策を単に導入することではなく、予想されるリスク要因と安全策の調和により結果として確保されるものである。

国際的な基準、推奨やガイドラインの改善や制定伴い、トンネルの安全に関するあらゆる局面が考慮されたフレームワークが必要である。例えば、このようなフレームワークは以下のような主な要素を含んでいる。

  • 安全レベルの基準(規制&提言)
  • インフラと運用方法
  • 社会経済的および費用対効果の基準
  • 安全性評価手法(安全性分析と評価)
  • 道路トンネルの使用
  • トンネル計画~管理段階(企画、設計、建設、試験調整、運用、改良、アップグレード)
  • 管理経験
  • トンネルのシステム条件

これらの安全に関する要素はレポート2007R07の第5章“統合的アプローチを構成する要素”で説明されている。

 図 2.2.1:統合的アプローチ

図 2.2.1:統合的アプローチ

統合的なアプローチは、新設トンネルの計画、設計、建設、管理段階や既設トンネルの改良段階のそれぞれの断面で、要求される安全水準を満たすためのフレームワークである。これは、右の安全手順に従った安全計画により実行されるべきである。

反対側の図は、新設もしくは既設トンネルの安全のための上記にリスト化した要素(レポート2007R07の第6章“結論”の図)からなる統合的アプローチの概略図を示している。

2.3. 過去のトンネル事故からの経験

トンネル内事故に関する情報と過去の教訓はPIARC委員会の様々な報告書に述べられてきている。初期の報告書では、選択されたトンネルにおける故障、事故及び火災の統計調査、並びにこれら事象に対するトンネルの構造設計、設備設計や管理のガイドラインに関する教訓が取り扱われている。すなわち、トンネル設計における意思決定者及び技術者にとって非常に重要な集約データを示している。

  • 技術レポート05.04B“トンネルの安全”
  • 技術レポート05.05Bの第2章"火災リスクと火災想定規模"
  • 道路トンネル内危険物車両走行に関するOECD/PIARCレポート第2章 “過去の大規模トンネル火災に関する情報”
  • レポート05.16Bの付録12.1"ノルウェーの事故統計"

モンブラントンネル、タウエルントンネル及びゴットハルトトンネルの事故(1999年と2001年)は、トンネル内事故の影響の大きさを世に知らしめるものであった。トンネル内事故が大事象となる可能性は低いが、ひとたび発生すれば犠牲者やトンネル損傷ひいては輸送経済に深刻な影響を与えることになる。

表 2.3-1: 1950年以降5人以上死亡者(火災もしくは火災前の事故により)を生じた道路トンネルの火災
年 トンネル名 長さ チューブ数 死傷者
1978 フェルセン(オランダ) 770 m 2 5人死亡、5人負傷
1979 日本坂(日本) 2 km 2 7人死亡、2人負傷
1982 カルデコット(米国) 1,1 km 3 7人死亡、2人負傷
1983 ピコリエ(ジェノバ付近、イタリア) 660 m 2 9人死亡、22人負傷
1988 境(日本) 460 m 2 5人死亡、5人負傷
1996 イゾラデッレフェミン(イタリア) 148 m 2 5人死亡、20人負傷
1999 モンブラン(フランス-イタリア) 11,6 km 1 39人死亡
1999 タウエルン(オーストリア) 6,4 km 1 12人死亡、40人負傷
2001 グレイナム(オーストリア) 8,3 km 1 5人死亡、4人負傷
2001 ゴットハルト(スイス) 16,9 km 1 11人死亡
2006 ビアマラトンネル(スイス) 750 m 1 9人死亡、6人負傷

より詳細な表は レポート05.16.B.の表2.1"道路トンネルにおける深刻な火災事故"に記載されている。

これら惨事は、トンネル事故を予防、防止するとともに最小限とする必要性を示している。これは、新設トンネルへの安全設計基準の適用だけでなく、より良い情報提供やトンネル利用者との情報提供収集による既設トンネルへの効果的管理やトンネル改良により達成される。 モンブラントンネル火災後の調査結果から導かれた結論は、この致命的な結果が次の要素で大幅に軽減されたかもしれないというものである。

  • より効果的な運用組織と緊急隊(調整されたより安全かつ効率的な非常時の手順、特に国境間の運用)
  • より管理能力の高い人材
  • より効果的な安全システム
  • 非常時にいかに対応すべきかについて、道路利用者(乗用車やトラックの運転手)がよく理解している

モンブラントンネル、タウエルントンネル及びゴットハルトトンネルに関するトンネル諸元や事故の時系列、火災の進行やオペレーター、緊急隊及び道路利用者の行動を含む事故詳細は事故の教訓とともに、レポート05.16Bの第3章“最近の火災からの教訓”に記述されている。この教訓については本紙の表3.5にも要約されている。また、同様な情報はRoute /Roads 324“モンブラントンネル、タウエルントンネル及びゴットハルトトンネル火災の比較分析”(2004年10月)P24に記載されている。

1999年3月24日の事故後、モンブラントンネルはトンネル再供用に向けて大幅な改修が必要となった。換気システム見直しは大幅な復旧設計、規模見直し、自動運転化さらには実大規模の火災実験からなり、それらは、レポート5.16Bの付録12.2“モンブラントンネル改修”で参照できる。

高速道路トンネルの交通安全性と一般道トンネルとの安全比較および対面通行トンネルと一方通行トンネルの安全性比較にはレポート2009年R08の付録8 “2005年オ―ストリア統計的研究:トンネル安全性の比較分析 1999~2003年”を参照。

2.4. リスク評価

以前は、多くの国において道路トンネルの安全設計は規範的基準やガイドライにかなりの割合で依存していた。また、適切なガイドラインや基準が適用されていればトンネルは安全であるとみなされていた。

しかし、この規範的アプローチは、いくつかの欠点がある。

  • たとえ、トンネルが基準要件を満たしていたとしても、潜在しているリスクや今まで明白にされておらず取り扱われなかったリスクが存在する。
  • 規範的アプローチは、トンネル設備等に一定の水準を与えるが、個々のトンネル特性に応じた特定条件を満たすのに適していない。さらに大事故の状況は平常時の運用状況と完全に異なり、また平常時の運用経験をはるかに超えた全く異次元の状況となる可能性がある。

したがって、規範的アプローチに加え、リスクを基本としたアプローチ「リスクアセスメント」が特定のトンネルシステム(車、道路利用者、運用、緊急隊やトンネル構造を含む)とそれらの安全性への影響に対処するために使用できる。

特定のグループに属する人々へのみ有害となるリスク(社会的リスク)や特定の個人にとって有害となるリスク(個人リスク)、資産の損失、環境への影響、精神的価値など様々な種類のリスクが、リスクに基づくアプローチでは取り扱われる。一般的に、道路トンネルのリスク分析は、トンネル利用者の社会的リスク、つまりトンネル事故における年間あたりの死亡者数またはFN図に示される死亡者の頻度と結果の関係を表す曲線に焦点を当てて行われる。

リスク分析は、潜在的な事故の連鎖や相互関係を分析する系統的アプローチであり、脆弱点を特定し対処可能な改善策を認識するものです。 リスク分析のプロセスは以下の3つのステップから構成される。

  • リスク分析: リスク分析は以下の基本的質問に関連を持つ。「何かが起こるとその発生確率は、その結果は?」 これは、危険因子の特定やその確率と結果の予測を含む。リスク分析は定量的よび定性的は手法もしくは両者の組み合わせにより実施される。二つの種類のアプローチは、道路トンネル安全性分析に適している。
        - シナリオを基本としたアプローチは、一連の定義された適切なシナリオに基づいたものであり、それぞれのケースに対して個別に分析が行われる。
        - システムを基本としたアプローチは、トンネルリスクに影響を与える適切な全てのシナリオを含む統合的プロセスのシステム全体を調査するものであり、システム全体のリスク指標を生み出す。
    システムを基本としたリスク分析には、定量的手法が一般的である。事故の発生確率、異なる損傷指標に対する事故の結果(死亡者、負傷者、物損、サービス提供中止)、並びに結果リスクは、システムの適切な要素と要素相互関係を十分に考慮して定量的に推定される。
  • リスク評価: リスク評価は、安全水準に対する明確な議論と安全をどこまで許容するかという論点に目を向けている。言い換えれば、リスク評価は、「推定されたリスクは許容できるか?」という質問に対して答えを出さなければならない。体系的リスク評価では、安全水準は、想定されたリスクレベルは許容できるか否かに基づき決定れる。許容水準は、適用されるリスク分析の種類により選定されなければならない。例えば、シナリオ関連の水準は、シナリオを基本としたリスク分析の結果を評価することにより設定される。一方、この水準は、体系的リスク分析に適用される個々のリスク(例えば、リスクに曝された特定の人が年間死亡する確率)、または、社会的リスク(例えばFN図における参考とすべき線)で表わされる。リスク評価にはいつくかの異なる手法があり、相互比較や費用対効果または絶対リスク水準の採用により実行される。しかしながら、実際は異なる手法の組み合わせがしばしば用いられる。
  • 安全対策の立案: 推定リスクが許容できない場合、追加安全対策を提案する必要がある。追加対策の有効性(費用対効果も同様)は、異なるシナリオに基づくその結果や発生頻度をリスク分析することにより検証できる。安全計画とは、「どの安全対策が安全(費用対効果も同様)を得る上で最も適しているか?」という問いに答えることである。

図2.4-1の簡略化したフローチャートは、リスク評価の主な手順を示している。

図 2.4-1:リスクアセスメントにおける手順の流れ

図 2.4-1:リスクアセスメントにおける手順の流れ

道路トンネルのリスク評価は、関連する影響因子とその相互作用を考慮した特定のトンネルに対する体系的で調和のとれた透明性のある評価を可能とする。リスク評価モデルは、単に経験に基づき達成されると想定できる考えよりもより明確な理解をもたらす。さらに、リスク評価は、リスク軽減に関する最良の追加安全対策を比較評価することができる。したがって、トンネル安全管理におけるリスク評価手法は、規範的な基準及びガイドライン要求の充足を適切に補足することができる。実際には、異なる種々の問題に対して異なる手法が存在する。

リスクモデルはできる限り現実に近づけ、また現実のデータに基づき実行されるように試みられるが、モデルは実際の出来事を完全に予測することは不可能であり、またいくらかの不確定要素やあいまいさが結果に含まれていることを考慮しなければならい。不確定要素を考慮すると、定量的リスク分析の結果は、規模のオーダーとしては正しいレベルであること、感度分析としては支持されるレベルであるというものである。相対比較(例えば現状のトンネル状態と参考とするトンネルの状態比較)によるリスク評価は、得られた結果の堅牢性を高めるかもしれないが、あくまでも参考としているトンネルに対する上での話であることを考慮すべきである。

リスク分析手法の基本原理と重要要素は次のレポートに記載されている。技術レポート2008R02「道路トンネルのリスク分析」

このレポートは実践手法とケーススタディ集の調査結果を含んでいる。

リスク評価のさまざまなアプローチが新しいレポートでは紹介、議論されている。“道路トンネルのリスク評価の最新の実習”。このレポートは最新のリスク分析を含んでおり現在完成している。

 

2.5. 火災安全のための基本原則と手段

道路トンネルにおいて想定されるリスクが多くある中で、自動車火災は稀ではなく、適切な対処がなされないと明かり部の火災と比べトンネル内火災がもたらす影響は多大であることから、特に注目されるものである。このような理由から、いくつかのPIARC報告書は道路トンネル火災の安全の問題を取り扱っている。

トンネル特性の詳細に関連するこれらレポートに含まれる情報の一部は、このマニュアルの関連する章に記載されている。

  • 火災と煙検出はコミュニケーションと警報システム
  • 煙制御のための換気は換気 
  • 道路利用者及び緊急隊のための消火設備は道路利用者と緊急チームのための消火設備
  • 定位置消火システム固定消火システム
  • 火災とトンネルシステムの対応はトンネルの火災対応

しかしながら、火災安全対策が一般原則に基づいて定義される前に、トンネル火災の基本情報と研究手法は利用可能である必要がある。これらは、この節で取り扱われている。

上記一般原則で記載された道路トンネルの安全目標に基づき、火災と煙制御に次のさらに明確な目的が提案されている。

  • 道路利用者の自己避難により人命を救うことを可能とすること
  • 救助や消火活動を可能とすること
  • 爆発を防ぐこと
  • トンネル本体及び設備、また周辺の関連建物への損傷を限定すること

これらの目的は、レポート05.05BのⅠ節“火災と煙制御の目的”で説明されており、火災状況下における制御継続性の基準に関する詳細な議論も含まれている。また、補足的な手引きについては、レポート05.16Bの2節“トンネル火災の安全概念”に含まれている。

リスク評価し基本設計に必要なデータを提供することを手助けするために、火災の頻度に関する情報と火災想定シナリオがレポート05.05BのⅡ節“火災リスクと火災想定”で提供されている。人命安全を考慮した火災想定は一般に一定若しくは時間とともに変化する自動車タイプ(例えば1台または複数の乗用車もしくは大型貨物トラック)により想定される放熱率や積載荷物量により定義される。火災想定の選択の手引きはPIARCレポート“道路トンネル火災想定の特性”で入手可能である。

トンネル火災時の煙の挙動を理解することは、トンネル設計時および運用の段階においても重要である。この理解により、換気設備の方式や規模、非常時の換気運転並びに火災時におけるオペレーターや緊急隊の安全な対応を構築につながる対応手順を左右することになる。このトピックスに関する詳細な議論は、レポート05.05BのⅢ節“煙の挙動”と火災進行時における異なるパラメーター(交通、火災規模、換気条件、トンネル形状)の影響に関する詳細分析レポート05.16Bの1節“火災初期段階における煙と放熱進行の基本原理”で行われている。

科学者、設計者を支援する、トンネル火災安全研究に利用可能な基本(実物および小規模模型実験結果)及び高度(コンピュータシミュレーション)技術に関する包括的記述はレポート05.05BのⅣ節“研究手法”で確認できる。

2.6. 危険物

  • 2.6.1. トンネル危険物輸送に関する規制
  • 2.6.2. トンネル規制に最適な規制の選択
  • 2.6.3. リスク低減対策

危険物は、工業生産だけでなく日常生活にとって重要であり、輸送は不可避である。しかしながら、これら危険物はひとたび事故にて流出されると、それが明り部であろうとトンネル内であろうと甚大な危険をもたらす可能性があることは認識されている。危険物を巻き込んだ事故の発生はまれであるが、沢山の犠牲者や物損さらには環境被害をもたらすだろう。安全な輸送を確保するためには特別の対策が不可欠である。これらを背景に、危険物の輸送はほとんどの国で厳しく規制されている。

トンネル内事故は、閉鎖環境がゆえに深刻な結果をもたらす可能性があり、危険物輸送は特有の課題を生じさせる。よって、次の質問は検討対処されるべきである。

  • いくつかのトンネルにおいては危険物輸送を制限させるべきであるか、またその制限は何に基づいて決定されるべきか?
  • トンネルの危険物輸送制限にはどのようなタイプの規制が適用されるべきか?
  • 危険物輸送が許可されている場合、どのようなリスク軽減策が実行され、その有効性は何であるか?

1996年から2001年にかけて、経済協力開発機構(OECD)お呼びPIARCは、上記質問に対する合理的な回答を導き出すための重要な共同研究プロジェクトを実施した。OECD2001年出版パリ ISBN92-64-19651-X “道路トンネル危険物輸送、トンネルの安全性”。次のパラグラフはこのプロジェクトのアウトプットと今後の課題を要約している。

2.6.1. トンネル危険物輸送に関する規制

OECD/PIARC共同研究プロジェクトの最初のステップは、トンネルを含む危険物道路輸送に関する国際的な調査である。

全ての調査対象国は、危険物の道路輸送に一貫した規制を保有しており、これら規制は世界の大部分において標準化されていることが調査より分かっている。例えば、 ADR (道路危険物の国際輸送に関する欧州協定)は、欧州とロシア連邦のアジアに属する地域で使用されている。アメリカとカナダのほとんどの州では、国連モデル規制に準拠した規則に従っている。オーストラリアや日本は独自の規制を持ち、オーストラリア規制は国連方針と整合している。

対照的に、調査はトンネル危険物輸送に関する規則の多様性も浮き彫りにしている。トンネルに適用される規制は、国により異なるばかりか同じ国内でもトンネルにより異なっている。この規制のバラつきは、危険物輸送を司る組織にとって問題であり、規制を侵す危険物車両を多く生じさせることになる。

共同プロジェクトの一環として、OECDとPIARCは、規制の和合化について提案を行った。この提案は、さらに国連欧州経済委員会(UNECE)により進展され、2007年に欧州で実行に移され、さらなる改訂が ADR により行われた。

この和合化は、トンネル内で多数の犠牲者やトンネル構造に甚大な損傷を与える危険事象は大別すると3種類あるという前提に基づいており、それら危険の影響を軽減させ、軽減措置の有効性を高めるために次のようにランク付けできる。(a)爆発、(b)有毒ガスまたは揮発性有毒液の流出、(c)火災。また、トンネル内危険物輸送制限は、A~Eで表わされる5つのカテゴリーに該当するように割り当てられている。

表 2.6-1: ADR 5カテゴリーの一覧
カテゴリ ー A 危険物の輸送のための制限なし
カテゴリ ー B 非常に大規模な爆発につながる可能性のある危険物輸送の制限
カテゴリ ー C 非常に大規模な爆発、大爆発や大規模な毒性物質の流出につながる可能性のある危険物輸送の制限
カテゴリ ー D 非常に大規模な爆発、大爆発、大規模な毒性物質の放出または大規模な火災につながる可能性のある危険物輸送の制限
カテゴリ ー E すべての危険物の制限(非常に限られた危険性を持つ5つの物質を除く)

このトピックに関する詳細は以下のウェブサイトで入手できる。

  • 国連ADR 2009年ドキュメントウェブサイト
  • オーストラリアADG規則ウェブサイト
  • カナダTDG規制

2.6.2. トンネル規制に最適な規制の選択

トンネル内の危険物通行を禁止することがリスクを排除するものでなく、また全体リスクが高くなくかもしれない迂回(例えば人口密集した都市部に迂回)により事態を悪化させる。これにより、OECD/PIARCの研究プロジェクトは、トンネル危険物輸送の許可/制限の判断は、様々な代替案との比較に基づき行われるとともに、トンネルルートのみならず明り部のルートも考慮して決定されるべきであることを推奨している。

合理的な意思決定のプロセスは、以下の図に示される構造として提案された。最初のステップは、定量的リスク分析(QRA)に基づく目標リスク指標を生成することである。最終ステップは、経済性やその他データ並びに意思決定者の政治的選択(例えばリスク回避)を考慮することである。これらの最終ステップは、意思決定支援モデル(DSM)に基づき行われることができる。

図 2.6-2:合理的意思決定のプロセス

図 2.6-2:合理的意思決定のプロセス

OECD/PIARCプロジェクトは、QRAモデルやDSMを開発している。QRAモデルは、現在多くの国で使用されている。QRAモデルはリスク分析モデル(定義については2.4章参照)に基づいており、また、そのモデルは社会リスク(トンネル利用者とトンネル近隣住民人口のF-N曲線)だけでなく、個別リスク(トンネル近隣住民のため)、さらにはトンネル本体および環境への影響の指標を表わす。また、モデルは明り部の道路のみならずトンネルにも適用可能で、さまざまな迂回ルートとの比較も実施可能である。このモデルは5つのトンネルカテゴリ(カテゴリDとEは類似なリスクを生じさせるので区別されない)を対象とした13の事故シナリオに基づいている。このモデルはPIARCより購入可能であり、詳しくはウェブサイトで説明されている。

追加情報およびアプリケーションの適用事例は、次のPIARC参考文献で確認することができる。

  • Routes/Roads 329 (2006) “道路トンネル危険物輸送に関する定量的リスク評価モデル“
  • レポート2008R02の4.6節および付録3.7“OECD/PIARC危険物QRAモデル”

2.6.3. リスク低減対策

OECD/PIARC共同研究プロジェクトには、危険物輸送を許可しているトンネルにおける危険物関連事故の結果や確率を減少させる対策の調査検討も含まれている。

初めに先端技術が確証され、適用可能なすべての手法が識別および叙述される。手法のほとんどはマニュアルPart2の6-9章に記述されている。次に難題ではあるが、危険物に応じた対応手法に関して投資効果を評価する試みがなされる。コストは、特定のトンネルプロジェクト毎に異なることから詳細に吟味されることはなく、個々のプロジェクトで個別に検討される。評価の焦点は、手法の有効性にある。

(上記に示す)プロジェクトに対して開発されたQRAモデルにおいては、いくつかのリスク低減手法が考慮されている。これらは“先天的”手法と呼ばれている。これら手法個々または組み合わせの有効性は、対策の有無でモデルを実行されることでその結果を比較し調査することができる。数多くの試験が実施されたが、対策の有効性は個々の事故ケースに依存するため、一般的に有効な対策は導かれていない。したがって、対策の有効性は、各プロジェクトに依存する。

他の“非先天性”手法の有効性評価はさらに困難であり、沢山の手法を考慮した手法が提案されている。詳細については、第7章のOECDプロジェクトレポート(リスク低減策)で確認できる。

2.7. 安全手順

  • 2.7.1. 道路トンネルの安全書
  • 2.7.2. 道路トンネル事故に関するデータの収集と分析
  • 2.7.3. 道路トンネルの安全点検

道路トンネルの安全性を確保するために必要な構造的、技術的および組織的な対策は、事故を可能な限り防止し、またその影響を最小限にとどめるようなものに位置付ける必要がある。 トンネルの安全レベルは、4つの主要(道路利用者、インフラ、車および運用)のグループにまとめることができる多種多様な要因とその程度により影響を受ける。

安全性を担保する対策のほとんどは、上記の影響要素に関連しており、不適切な道路利用者の行動や、不適切な設備の設置や運用、自動車故障等により生じる危険を防止または軽減することを目的としている。 レポート2009R08の第1章“トンネル安全管理にはなぜ手段が必要か?”を参照。

上記のすべての安全対策は、効果的なトンネル安全管理に基づき組み合わせられるべきである。トンネル安全管理の効果を最大限発揮するため、すべの安全問題に対する戦略を支援し、重要な意思決定を行い、また一定かつ追従性のある特定の手段が必要である。トンネル安全管理の3つの重要な手段を以下に説明する。

2.7.1. 道路トンネルの安全書

安全書は、安全管理に重要であり、トンネルに応じて編集されるべきである。この書類に対する要求は、トンネルのライフサイクル断面(計画設計段階、試験調整段階、運用段階)により異なる。設計段階においては、安全書はトンネル構造、交通量予測に関し言及し、運用段階においては危険物輸送に対する非常時の対応計画や対策が重要としている。取り扱う情報の深さは、プロジェクトの進捗に伴い増える。安全書は、トンネル構造の変更、交通量や運用面の経験からの発見等(例えば大惨事の分析や安全訓練等)を含めて継続的に見直されまた改善されるべきである。 詳細については、レポート2009R08の第2章“道路トンネル安全書”で参照可能である。

2.7.2. 道路トンネル事故に関するデータの収集と分析

事故データの収集および分析に関する詳細はレポート2009R08の第3章“道路トンネル事故に関するデータ収集および分析”で取り扱われており、トンネル安全対策の向上のためのリスク評価に不可欠なものである。これらは、2重のプロセスから成り、特定のトンネルを対象としたリスク分析のための入力データからはじまり、法的義務を満たすよう国または世界レベルの分析レベルへの展開に至る。特定の事故の評価は、操作手順や安全システムの反応を最適化することと同程度にトンネルの特定危険を見出すことにも役立つ。実際の事故の分析と同様に安全訓練から得られたデータの分析も、実際の状況下における事故のマネジメントの経験を得ることに役立つ。

2.7.3. 道路トンネルの安全点検

技術レポート2009R08の第4章“道路トンネルの安全点検”で説明されている安全点検は、現状のトンネル安全性を法に照らし合わせて(例えば欧州指令)、もしくは許容リスクレベルを犯しているかを評価するための手段である。PIARCは、欧州指令2004/54/ECを基本とした安全点検に関する安全責任の連鎖とそれに携わる関係者の責任に明確化を説明する組織的事業計画を確立した。また、安全点検(トンネル本体、システム、安全書及び現行の手順、トンネ管理組織、訓練や品質保証)の内容と各必要な行動ステップや点検のための必要な準備を含んだ包括的ロードマップを提案している。

2.8. 既存のトンネルの安全性の評価と改善

  • 2.8.1. なぜ既存のトンネルを改善するのか
  • 2.8.2. 既存のトンネルの評価、改善のために提案された方法論

2.8.1. なぜ既存のトンネルを改善するのか

道路トンネル(モンブラントンネル火災1999年、タウエルントンネル火災1999年、ゴットハルトトンネル火災2001年)における大惨事の結果、既設トンネルの安全基準に対する特別な関心が高まった。既設トンネルは、安全性向上のための改修の必要性を評価決定するために、特定のアプローチや手段が必要である。実質的な調査研究は、これらトンネル大火災事例を追究し、多くの既設トンネルが道路利用者に対して安全環境を確実に提供するためには追加の特定対策が必要であることを論証した。過去に改良がおこなわれた場合においても、安全基準自体の見直しも既設トンネルは最新の安全基準を満たすとは限らない。

これら事故とその後の研究は、設計者やオペレーター、管理責任者にいたる関係者までトンネルの危険性を認識させた。安全性向上はトンネル本体や設備を単に改良することではなく、安全管理体制を明確にし安全手続きを適合させることが必要である。

既設トンネルの安全性評価では、トンネル環境(交通量、危険物輸送、周辺地域の建設工事等でこれらがトンネル改良を誘発する要素)を変えることについて特別な注意が必要である。

2.8.2. 既存のトンネルの評価、改善のために提案された方法論

評価し改修計画を準備するための体系的アプローチは、主に次の2つのタスクとして提案されている。

  • 最初のタスクは、現在のトンネルの安全性の状況を評価することを目的としている。初めに、一般的に規制の枠組みから導きだされる参照すべき安全レベルが定義される。次に現在のトンネルの機能と設備状況が分析されなければならない。これに基づき、既存トンネルが適正な安全設計条件を満たしているかを分析しなければならない。さらに、特定のリスクは、運用を行っているトンネルの現在の安全レベルを評価する適切な手段であるリスク分析により評価される。これら初期の分析から、必要な措置が決定され優先順位が設定される。
  • 2番目のタスクは、定義された許容可能な安全レベルに適合する改修後にあるべきトンネルの将来像を決定することにある。これは、改修プログラムを進め、改修後のトンネルや見直し対策の安全レベルを再評価することにより行われる。再度、適切な安全性検証と費用対効果を含めた改修した各種対策の評価のためリスク分析が適用される。改修プログラムは、各トンネル固有の状況や制約条件に左右される。リスク分析の反復プロセスは、プロジェクトのすべの利害関係者に許容可能な安全レベルに達するまで行われる。

運用を行っているトンネルに適した改修プログラムを準備する多段階プロセスは以下のフローチャートにとりまとめられている。このチャートは、様々なステップとそれぞれのアウトプット間の関係を示している。

図 2.8-1 :多段階プロセスのフローチャート

図 2.8-1 :多段階プロセスのフローチャート

詳細に述べると、各ステップの内容は、個々のトンネルの固有条件、環境もちろん特定の慣例に適合されるものである。

トンネル状況に応じて、分析により既に求められる安全レベルに達することが証明されれば参照照合すべき状態との簡単な比較により、手続きはステップ3の後に終了する。既に改修を終えたトンネルについては、ステップ3が手続きの最終である。改修されていな場合は、ステップ3は、トンネル閉鎖バリア、信号機または交通誘導手法のような本質的でない措置により安全性を早急に改善する緊急緩和措置の必要性を示すことになるかもしれない。 いくつかのケースでは、そのような対策は要求される安全レベルを得るのに十分かもしれない。

より実質的な作業が必要な場合は、一時的な運用管理条件の変更が、一時的なトンネル安全性を高める手段として有効かもしれない。

運用を行っているトンネルの改修準備は、技術課題、安全手法、実行コスト並びに工事段階の制約条件の組合せを調整する反復プロセスである。したがって、ステップ4及び5が方針決定に影響を与える全ての適切な要素を考慮した改修計画を得るために、何度も繰り返される理由である。設計についてはステップ5の後に行われる。

新しいレポート“既設道路トンネルの安全性評価と改善”は、この多段階手続きの各ステップについてのガイドラインから改善プログラムの定義にまで言及している。

既設トンネルの典型的な弱点(安全性の欠陥)が示されている。さらに、欧州の既設トンネルのケーススタディは、改修工事や改善対策として採用された戦略について説明している。

3. トンネル安全に係る人為的な要因

道路トンネルの運用に関するPIARC技術委員会は、トンネルにおいて平常時および非常時に人がどのように行動するかについて理解すること、およびこの理解を踏まえてトンネルの設計や運用に関する勧告を提言することが必要であることを認識している。

下記について適切な措置を施すためには、人の行動を理解することが極めて重要である:

  • 道路利用者自身および道路施設(特に、情報の取得・提供のための設備の最適化、自主的な避難を支援するための安全施設の設計)
  • トンネル管理組織および緊急隊(両者は、事故の処理を最適に行えるよう、常に協調できるようにしておかなければならない)

道路トンネルにおいて人為的な要因に関する十分な知見を得ることは、道路利用者やトンネルの設計に対して、また、さらに広く、組織(トンネル管理組織や緊急隊)に対して働きかけることによって、安全の最適化に資することになる。

トンネルをマネジメントする組織を含むトンネルのシステム全体が、トンネルの安全に重要な役割を果たしている。トンネルのシステムは、平常時および非常時においてトンネル利用者が何を見て、どのような対応をすべきかを決定づけるものである。交通規制の内容、規制に対する運転手の遵法性とその強制力の程度は、トンネルの安全性のレベルに大きい影響を与える。トンネルを利用する車両の特性および車両が運ぶ貨物の特性もまた、安全に重要な役割を果たす。

トンネルの安全の観点から人為的な要因と人の行動に注目した場合、(EU指令に示される最小限の要求事項に対して)さらに追加の対策を考慮しなければならない場合がありうる。これに関して、本章では、トンネルシステムとトンネル利用者の間の相互作用に焦点を当てている。また、トンネルスタッフと緊急隊との相互作用に関する情報についても追加、提供している。

「トンネル利用者」に関係する主要な結論は以下のとおりである(詳細は、道路利用者を参照)。

  • トンネルの設計およびそれらの運用においては、人為的な要因を考慮すべきである。
  • 運転者は、トンネル内でどのように行動すべきかについて、もっと認識すべきである。
  • トンネル坑口手前のアプローチ(可能であれば、150~200m区間)では、標識や信号を多数設置すべきでない。トンネルに進入しようとする区間の標識や信号は必要最小限のものとすべきである。
  • トンネルの安全施設は、平常時の交通状況下においても容易に認識できるものとすべきである。
  • 警報装置は、その伝達手段に多様性を持たせるべきである。

「トンネルオペレーターおよび緊急隊」に関係する結論は以下のとおりである。オペレーター(詳細はオペレーターを参照)および緊急隊(詳細は緊急隊を参照)にとって極めて重要な結論である。

  • トンネルの設計段階から、協議および協力の体制を整えること。
  • トンネル利用者の保護および消火活動のために、予め不測の事態への対処計画を策定し、かつその計画を常に最新のものとしておくこと。
  • トンネルに親近感を抱くためのトンネル見学会や、運用試験のための訓練を行うこと。
  • 緊急隊が現場に到達するための所要時間を最少化するのに必要な手段を確立しておくこと。
  • 重大でない事故も含めて、事故分析を組織的に行うこと。

人をうまく活用することを設計に盛り込むためには、人の能力や限界を評価しなければならない。人の能力と限界は、人間の物理的、認知的、心理的なプロセス(知覚、情報処理、動機づけ、意思決定および行動を処理するプロセス)に関連している。そして、人の相互作用を考慮した結果、策定されたシステムやプロセスは、先に評価した人間の能力や限界と整合が取れていることを確認しておかなければならない。

一般的な勧告を、一般的な勧告に示している。

貢献者

図3.0-1:非常口

図3.0-1:非常口

本章は、C4委員会の準委員であり、ワーキンググループ-3 「道路利用者の挙動が及ぼす影響」の主査である Marc Tesson(フランス)が執筆した。

本ワーキンググループの前主査である Evert Worm(オランダ)は、英語版の作成を担当した。

本委員会の前委員長 Didier Lacroix(フランス)は、フランス語版の校閲を担当した。

日本語版は,水谷敏則((一財)先端建設技術センター)が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した.

3.1. 道路利用者

図3.1-1 :トンネルに接近しつつある道路利用者

図3.1-1 :トンネルに接近しつつある道路利用者

レポート2008R17”道路利用者に関する人為的な要因と道路トンネルの安全”では、以下のことを強調している。

  • 人が意志決定するプロセスを説明するモデル。これらのモデルは、トンネル専門家に対して人の挙動に関する洞察力を与えるための簡潔な理論的背景を提供しようとするものである。:  レポート2008R17の第1章”人の行動に関する一般概念”
  • 平常時および非常時の両者におけるトンネル利用者の行動を観察すること、およびこの行動に影響を与える人為的要因について一般論として議論すること :  レポート2008R17の第2章”平常時の道路トンネル内での人の行動”、およびレポート2008R17の第3章”非常時の道路トンネル内での人の行動”
  • EU指令が要求している最小限の対策の記述に従った安全施設の目的 : これらの対策を最終的な追加の措置とするためには、心理学な研究や他の事例に照らして検証する。レポート2008R17の第4章”平常時の道路トンネルの安全を改善するために勧告される追加措置”およびレポート2008R17の第5章”道路トンネルで危機的な交通状況となるのを防ぐために勧告される追加措置”
  • 人が意志決定をするプロセスを説明するモデル : これはトンネルとトンネル利用者の間の相互作用として興味がある課題である : レポート2008R17の第6章”ITSとトンネル安全についての将来の開発”

これらの調査を行なうに当たって、調査を担当したワーキンググループのメンバーは、しばしば次の質問:

「トンネルが道路利用者に順応するべきか、それとも、道路利用者がトンネルに順応するべきか?」

に答えなければならなかった。明らかに両者ともに考慮すべきものであり、既存の勧告を全体として適切なものとするために、ワーキンググループは、運転者の教育と運転者に対する情報提供の課題について調査することを決定した。

予定している報告書「道路トンネルの運転者の教育および情報提供に関する勧告」の中では、次の視点が強調されることになる。この報告書のゴールは、教育と情報に関連して行動すべきあらゆる担当者(国の組織・機関、道路所有者、オペレーターおよび通信の分野のコンサルタント)に対する勧告を作成することである。本報告書の第1章では、トンネルについての知識をほとんど持っていないと考えられる読者を対象とした一般的な情報を提供する。第2章では、あらゆる読者にとって有効な勧告および/または指示を取り扱う。第3章と第4章では、組織・機関および特定の道路保有者への注意のための勧告を提案する。

3.2. オペレーター

図3.2-1:道路トンネル管制所

図3.2-1:道路トンネル管制所

用語「オペレーター」とは、トンネルを所有する代表組織であり、トンネルの管理に責任がある組織をいう。トンネルの安全に関する中核的な立場にある「オペレーター」は、関連する諸団体(所有者、公共団体、緊急隊、下請業者、その他の管理者、道路利用者など)と密接な連携のもとで機能を果たすものである。「オペレーター」の主たる役割は、道路交通、土木施設およびトンネル設備をうまく運用管理することであり、以って、課せられた使命のもとで危機や行政事務をマネジメントすることである。「オペレーター」は、トンネル安全のマネジメントシステムを最適に実施することについて、重大な役割を担っている。

安全マネジメントシステムは、設計時の検討に取り込まれていること(リスク分析を含む)、運用の原則を明確にしていること、トンネルの運用(事故のマネジメント、安全訓練の実施、経験のフィードバック、運用マニュアルの更新、担当職員の訓練、関連する他機関との協働、等)を日監視することを忘れないことによって実証される。

「オペレーター」に関しては、既刊のレポート2008R03”道路トンネルにおけるオペレーターと緊急隊との協働に関するマネジメント“の中で、以下の点について強調している。

  • 最近の数十年間に発生した極めて重大なトンネル火災事故から学んだ教訓:レポート2008R03の第1章”経験から学んだ教訓”
  • 最善の処方箋(ベストプラクティス)のための情報および勧告。これらは経験と事故から学んだ教訓に基づいている:レポート2008R03の第2章”勧告の詳細”

一般論として言えば、経験や実際の事故から学んだ教訓によると、トンネルの運用に係わっているすべての関係者の行動が、事故に遭遇した人々の安全確保に対して支配的な要因となっていることを示している。

この点に関する主要な課題の1つは、トンネルの監視、管制を担当している管理職員が適切に対応することである。彼らは、道路トンネルの危機管理に対して真っ先に取り組むべき立場にあり、それ故に、日々のトンネルのマネジメントにおいて、「オペレーター」を代行して相当の責任を負っている。彼らの務めが大変困難であるのは、発生確率が極めて少ない場合であっても、可能性が少しでもありうる極めて重大な事故に対して常に対応できるようにしておくことが要求されていることである。適切な方法で対応するために、トンネルの「オぺレータ-」は、時にはストレスマネジメントを思わせるような複雑な状況を理解し、管理しなければならない。このため、特殊で適切な訓練が不可欠である。ヨーロッパの規則では、トンネルの管理に携わる職員には、「適切な初期訓練および継続的な訓練」を受けることを要求している(欧州指令2004/54/CE 附則1の§3.1”管理運用方法”)。

3.3. 緊急隊

図3.3-1: 消防隊と合同のトンネル安全訓練

図3.3-1: 消防隊と合同のトンネル安全訓練

道路トンネルへの立ち入りが要請されている救助隊は、一般論として、あらゆる種類の施設において人を救助し、消火活動をするための訓練を受けている。しかし、トンネルは閉鎖空間であるため、危機あるいは火災によって救助活動の環境条件がより複雑なものに急変することがある。したがって、消防士には、自らの技量を更に向上させるために、この種の課題に対応できるようにするための訓練が必要である。この訓練は、彼らが行動するためのノウ・ハウを開発するものであり、彼らがトンネル内で直面しうる複雑な状況に対して適切に対処できるようにするものでなければならない。このノウ・ハウは、監督職員にとって特に重要である。監督職員は、あらゆる環境のもとで、必要によっては、当初から想定されうるいくつかの運用方法を採択することができる技量を有していなければならない。この使命を完了するためには、トンネルスタッフとの共同作業が不可欠であり、作業計画、安全演習および経験に基づいた訓練について細心の準備、追及および実施が要求されている。

国境にあるトンネルの場合には、非常時に両国の救急隊員が完璧な共同作業を行えるよう、両国間で協働体制を構築しておくことが必要である。

図3.3-2: 避難所における道路利用者の支援

図3.3-2: 避難所における道路利用者の支援

救助隊に関しては、レポート2008R03の”道路トンネルにおけるオペレーターと緊急隊との協働に関するマネジメント”の中で以下のように強調されている:

  • 最近の数十年間における重大なトンネル火災事故から学んだ教訓: レポート2008R03の第1章”過去に学んだ教訓”
  • 経験や過去に学んだ教訓に基づく、最善の処方箋(ベストプラクティス)のための情報および勧告: レポート2008R03の第2章”勧告の詳細”

 

3.4. 一般的な勧告

本節では、トンネルを新設する場合あるいは既設トンネルを改修する場合において、人為的な要因に特別の注意を払おうとする者に対する一般的な勧告を示している。本節の目的は、安全性を考慮する際、人為的な要因をどのように考えるかに関するPIARC報告書の基本的な技術的勧告を総括することではない。つまり、ここでは、人為的な要因に関して特別の注意を払おうとする場合に実施すべき方法論としての勧告をまとめたものである。

このような観点から、以下の3点に焦点が当てられている:

  1. 調査の段階において、できるだけ上流側で介入することが必要であること
  2. 安全について、人的な要因および組織的な要因を統合する分野における検討の結果を考慮に入れることが重要であること
  3. 実施に値する革新的な解決策を確認するための試験が有用であること

第1の点は、特に、新設トンネルの設計に関係するものである。調査の段階のできるだけ上流側で介在することは、新設トンネルでは基本的なことである。このことにより、道路トンネルにおいて道路利用者の挙動を支配する主な要因を考慮に入れることを可能にする。これらの要因の中でも、下記の点について特記する:

  • 現地の状況、例えば、道路交通および道路利用者(地元人、職業運転手、出資者など)に関するデータ
  • 計画中のトンネルの前後に接続する構造物に関する諸元(路線の連続性)
  • 路線上にある他のトンネル、あるいは隣接するトンネル
  • 国境に位置するトンネル。ここでは、道路利用者との間の手続きのために特別の配慮が必要である

第2の点は、安全について、人的な要因および組織的な要因を統合する分野において検討された成果を考慮に入れることである。特に、一般的な道路の安全の分野において、これまでに蓄積された知識、特に非常時の避難について活用することに注目することである。これには2つやり方がある: 1つは、この分野(例えば、PIARCの勧告)の作業で得られた過去から学んだ一般的な教訓を参考とすることである。あと1つは、そのプロジェクトに人文科学の専門家(心理学者、専門家)を巻き込むことである。人文科学の専門家を巻き込むことの妥当性は、新設トンネルの設計および既設トンネルの改修の両者ともに考慮されて然るべきである。明らかに、これは、特別の課題(国境のトンネル、超長大トンネル、狭小なトンネルなど)を抱えた重要なプロジェクトに限って適用することになる。

この種の分野において、また、明りの構造物でもそうであるように、一見満足できるかに見える技術的解決策であっても、実行する前に常に謙虚な姿勢で取り組む必要がある。実際の事故事例あるいはトンネルで実施された数多くの演習から学んだ教訓は、確かに、トンネルの設備や安全の専門技術者による技術的な選択肢が必ずしも道路利用者の挙動の観点からみて最適のものとなっていないことを示している。

人文科学の専門家による検討作業とは別に、いろんな場面で関係があるすべての関係者から幅広く意見を聞くことはとても重要である。特に、介入する機関(消防、警察など)は、安全設備の設計に緊密に関与しなければならない(道路利用者の自己避難のための施設については、特別な配慮が必要である)。

第3番目の勧告は、革新的な対策方法が望ましいと思われる場合には、それが有効に働くことを確認するための試験、試行が必要であることを述べている。多くのものは、トンネルにおける人の挙動を配慮するという観点で既に検討済みのものとなっている。トンネルのすべての安全対策を決定する際、これらの要因に対して配慮されているかどうかを検討するために設計担当者が招聘される。革新的な対策を導入する必要がある場合には、予備テスト(例えば、室内試験)や現場での試行を省いてはならない。これらの試行は、人文科学の専門家の支援のもとで効果的に実施されることになる。試行の目的は、トンネルで配備する前に、提案された革新的な手段の有効性を確認することである。

結論としてまた一般論として、私たちは、この分野において現実主義的なことと謙虚であることをさし示す必要がある。基本原則は、可能であれば、拘束されない状況下で常時使われている方法に沿った形で、単純かつ直観的な解決策をよしとすることである。このようなアプローチの方法をとることにより、実行する対策は理解しやすく、かつ道路利用者にとっても適用しやすいものになる。

4. 運用と維持管理

数年前に「道路トンネル運用」のための委員会と名称を変更したPIARC委員会にとって、運用と維持管理は明らかに重要な問題である。

運用と維持管理は主に3つの流れに分けて考えることができる。

  1. 毎日のマネジメント: この流れには、交通の監視、通常運用時や緊急時に全ての設備を効率的に機能させること、また、全設備と全電気機器の正常動作を保証することが含まれる。
  2. スタッフのトレーニング: 道路トンネルの運用と維持管理は、オペレーターのみならず、道路トンネルにおいて許容レベルの安全性を提供するために協力する警察、消防、その他の緊急事態の対応組織を考慮して、通常は複数組織によって行われる。これには、スタッフの基本教育や訓練などが含まれる。
  3. 安全性の継続的向上: 安全性の継続的向上を目的とした研究や計画の全活動(緊急時の計画、過去の事故事例のフィードバック、トンネル内設備の交換等)が含まれる。

トンネルと緊急事態のマネジメントに携わる異なった利害関係者間における効率的な運用および協調的な環境は、明らかに通常運用時・緊急時の、両場面における利用者とオペレーターの安全性や快適性を支えている。

ヨーロッパの事情を考慮すると、「欧州横断道路ネットワーク上にあるトンネルのための最低安全基準」に関する「指令2004/54/CE」は、安全性は設備や構造だけによるものではないと明確に述べている。実際、この指令は運用と維持管理に関連した行動の特別な役割を特定している。

道路トンネルをうまく、効率的に運用、管理するためには、必要とされる全業務が矛盾なく安全な方法で行われていることが保証されるように、運用業務とそれを実施する責任主体を確立する必要がある(運用業務)。トンネル利用者の安全性は、トンネル自体の固有の特徴に依存していることはもちろん、運用手順とそのトンネルの担当スタッフに強く依存するものである。

担当スタッフ達は必ずしも同じ組織に所属する必要はない(実行者と役割は大きく異なる)。例えば、交通警察は通常、交通の業務担当であるが、その業務はしばしば道路管理者によって行われる。また私設の企業やオペレーターに委託されるケースもある。さらに、ある一つの業務(例えば交通マネジメント)がいくつかの異なる組織(運用スタッフ、警察、下請け業者)によって執り行われることもありえるので、その業務に関連した役割と責任は、トンネル運用にかかわるスタッフの行動とスタッフ間の協力レベルを向上させるための勧告と同様に、明確にしなければならない(トンネル運用の担当者とその協力者)。

何れの場合も、全ての異なる組織間との運用および連携を行う組織は、全関係者に明確に理解され、緊急時の重圧にも耐えられるように、率直かつ簡素に明文化された手順、規約により、定義されなければならない

運用組織は、それぞれのトンネルで異なり、結果として全体における共通の枠組みを定義付けることは難しい。しかしながら、それぞれのトンネルあるいはトンネル群に対して通常の運用時および緊急事態時の両場面において採用されるべき最適な運営組織を評価することができれば都合がよい(運用組織)。

加えて、標準的な運用手順、最低運用条件、緊急事態の計画を確立することは必要不可欠である。これは実際には、様々なタイプの事故に対する適切かつ具体的な対応が必要となる、起こりうるトンネル内の緊急事態に対応する運用方法を計画する上で重要なステップである(運用指示書、最低運用条件、緊急時計画)。

トンネルのマネジメント、日々の運用には、維持管理と同様に高い運用コストと資金需要を伴う。実際、トンネルというのは運用されている道路ネットワークの中でも、エネルギーの必要性、人員、監視等の面から、最もお金のかかる部分である。トンネルにおける様々な費用要素の定義や最適化方法とそれらを削減するための適切な推奨は、PIARCトンネル委員会によって分析されている。効率的なエネルギーの使用とエネルギー消費の斬新的な削減は、道路ネットワークの持続的な運用を実行する観点から考慮されるべきである(運用コスト)。

最終的な目標は、明らかに利用者に対して適切なサービスと質を確保することである。この目標達成は、施設と設備の特性と全体的な能力に依存することは明白である。設備の能力は、どのようにトンネルスタッフによってその設備が、適時性と適切性という点から運用されているかによる。そのため、トンネルの運用業務を命じられるスタッフは採用時に適切に選ばれるべきであり、業務に従事する前および職員として働いている間は継続的に訓練を受けなければならない(スタッフの採用、訓練と練習)。

トンネル内における安全レベルや交通容量は道路ネットワークおよび交通そのものの進展を特徴づける変化に影響される。トンネルオペレーターは、このような変化に対応するために、時折システムあるいはマネジメント基準に大小の改良を加える必要がある。それゆえ、継続的かつ計画的にトンネル運用方法を改善していくために、情報とフィードバックを用いて変化や事故を監視する必要がある。

オペレーターは改善方法を選択するために、過去の運用経験からフィードバックを得る必要がある(運用や事故からのフィードバック)。

トンネルの構造要素や技術的設備は定期的な維持管理が必要であり、その目的は定められた安全基準にトンネルを保つことで利用者に安全な走行状態を保証することにある(機器のメンテナンス)。トンネル内の維持管理のための一般的な推奨は、具体的な特徴および設備と同様に定義付けられている。

トンネル設備がオペレーターのニーズ、法で定める基準を満たしてない場合、または交通の特性あるいはレベルが変わった場合、トンネルを改良、改装することが必要となる場合がある。既設のトンネルの改良のために、交通ネットワークの管理方法、設備の信頼性と耐久性、全行程のコスト等を向上させるための手段に関連する推奨事項が規定される(維持管理と改修作業中の運用)。

現在の第4章は、外部からの緊急介入が迅速にできる場所にあり、交通量が中から大、延長が中から長距離のトンネルに重点を置いている。これらのトンネルは、同一の道路ネットワークにある一つもしくは一群のトンネルを管理している特定の組織によって運営されている。

短いトンネル、または交通量の少ないトンネルでは延長の短いトンネル、交通量の少ないトンネル、小人口地区に点在するトンネルに関する特定条件について解説する。

貢献者

この章はC4委員会(2008年~2011年)のワーキンググループ1によって記述された:

  • Roberto ARDITI (Italy) 4.0節の著者、作業調整。
  • Jean-Claude MARTIN (France) 4.1節から4.10節までの著者。
  • Fathi TARADA (UK) 全章の校閲。

日本語版は,佐藤克寿(首都高速道路(株))が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した. 

4.1 運用業務

一般的にトンネルは適切、またはハイレベルな安全性を確保することができる道路ネットワークの一部として考えられている。しかし、特定事象(故障、事故、火災)による潜在的結果は、明かり部に比べてトンネル内の方がより深刻である。さらにトンネルはしばしば通らざるを得ない箇所を横断すること、道路ネットワーク上のボトルネックになり得ることから、トンネル全体、または部分的な通行止めは交通の大障害になり、利用者に長距離の迂回を強いることになる。

これらの理由から、オペレーターと道路管理者はトンネルの運用の継続性と安全性を保証しなければならない。したがって、オペレーターと道路管理者は、トンネルを通過する利用者に対して、効力のある規定された要求に厳密に適合した一定レベルのサービスの質と安全性を保証しなければならない。

国の規定によると、トンネルのオペレーターと交通警察はトンネル内(またはトンネルがあるルート上)の交通の管理をしなくてはいけない。具体的には、トンネル利用者と中で働く人々(オペレーティングスタッフ、下請業者、etc.)の安全性を確保する必要がある。いくつかの国々では、交通警察は交通マネジメントと交通パトロール、オペレーターはトンネルの維持管理、設備の運用、交通の監視、交通のアシスタント等の運用業務に携わる。

一般的にオペレーターの典型的な業務とは、

  • 交通監視とトンネル内設備の運用
    主要なトンネル(トンネルの長さ、交通密度、複雑さの点で)は通常、交通管理センターによって管理される。多くの場合、交通管理センターは遠隔監視システム(監視カメラ、自動交通事象検知システム)が設置されており、換気、信号、トンネルの封鎖等は遠隔操作で行うことができる。
  • 技術的パトロール
    いくつかの場合、オペレーターはトンネル内を巡回することにより利用者を直接監視できるパトロールを派遣することができる。このようなパトロールは緊急時には速やかに介入することができる。
  • 土木構造物のマネジメント
    これは定期的な調査や点検を行うことにより、トンネル内の土木構造物の状態を恒久的に監視することを意味する。また、排水設備や側溝、全ての二次的な構造物(トンネル構内、作業部屋、etc)などの施設の定期的な維持管理も意味する。
  • 設備のマネジメント
    主要なトンネルにおいて、オペレーターは運用段階に自身で操作できるいくつかのタイプの設備を配備する。この目的のため、トンネルには、オペレーターが機器の状態を把握できるシステムが備わっている。オペレーターはトンネル内に設置されている設備の維持管理をしなければならない。この業務の実施には、もちろん、オペレーターを補助するコンピューター化されたツールを活用することも可能である。
  • 緊急事態の管理
    事故の種類に関係なく、交通に関連する問題(事故、多重事故、火災など)であろうと設備に関連する問題(電気供給の停止、データ転送ネットワークの故障など)であろうと、介入することあるいは適切なサービス機関/当局に知らせるあるいは出動してもらうことは、監視を担当するオペレーターの基本義務である。
  • 技術的経営的管理
    トンネル運用に直接関係した業務に加えて、オペレーターはインフラや人員の管理を支援する技術的かつ経営的サービスも提供する。オペレーターは機器の改善の設計、業務の指示、トンネルが適切に機能するための投資や運用予算にも対応する。最後に、オペレーターはトンネル/ルートに関する運営上の定期的な報告(経済指標、交通指標など)を準備することにより、統計をとり、自らの目的の達成状況を監視することも行う。

技術レポート05.13.B ”道路トンネルの保守管理のためのグッドプラクティス”の パート2と4でこの主題を扱う。

4.2 トンネル運用の担当者とその協力者

道路輸送の進行を管理することはとても複雑な業務である。道路輸送をトンネルの環境の中で考えた場合、それはさらに複雑になる。その複雑にしている部分として、トンネルの管理に求められる技術と能力が異なるサービス間に点在しているという事実にも関連がある。このため、適切な交通、事故管理を行うためには、公正で効果的な協力のための異なる利害関係者の連携は極めて重大な事前の必要条件となる。その調整は、通常、組織間の委員会により承認されるように、プロセスを調整し、計画の結果を最終的に記録する地方あるいは中央当局の傘下で行われる。

この体制の下で協力を必要とする主な利害関係者は

  • トンネルのオペレーター
  • ルート/ネットワークについての通常の交通管理の一部組織として、トンネルの閉鎖あるいは交通制限の場合、その情報を知ってなければならない道路ネットワークの他の部門のオペレーター
  • 規則上、報告書が提出されなければならない国または地方の管理当局
  • 常に情報が提供されなければならないトンネル所有者(トンネルのオペレーターと同一人物でない場合)
  • あらゆる種類の事故への対応に調整された効率的な方法で介入できるように、調整された介入計画が準備されている公共サービス機関(消防、救助、警察、医療機関)
  • 他の下請業者(利用者のための清掃、維持管理、故障サービス、等)

技術レポート2007R04“トンネル運用スタッフの組織、募集、訓練のためのガイド”には、より正確な形で組織の業務について定義されている。

4.3 運用組織

運用業務(運用、維持管理など)は、国によって責任を有する内部組織でさえ異なる、また、様々な業務がオペレーターあるいは他の組織によって遂行されるトンネルという広い領域においては同様と考えられる。

ある時は、必要とする人員を単一組織が満たしていることもある。

またある時は、運用業務がいくつかの公的、私的の組織により分担されることもある。たとえば、トンネルの所有者、または道路管理者は、トンネルの建設および運用の全体あるいは特定の運用業務を、異なる公的あるいは私的組織に委託することがある(例えば維持管理業務は業者に委託)。

計画しておくべき事故時の対応方法は、国の規則および個々のトンネルに対する地域固有の要求によって異なる。それゆえにオペレーター組織や交通警察も地域の状況によって異なってくる。

たとえ状況が国によって大きく異なっていたとしても、一般的に、運用は三つの主要なグループから構成されている。

  • 運用マネジメントと交通支援を担当するオペレーター職員
  • トンネル(土木工事および設備)の建設及び管理を担当する技術職員
  • 行政担当者

幾つかのケースでは緊急救助サービスはオペレータ職員が兼任

技術レポート2007R04の第4章“オペレーター職員:業務と設備”で運用組織についてより詳細に定義している。

4.4 運用指示書、最低運用条件、緊急時計画

全てのトンネルオペレーターは、トンネルあるいは道路に影響を与え、様々な内部のサービス提供者によって実行可能な行動の目的と基準が定義されている手順書(運用指示書と呼ばれることもある)を作成および更新する。日常的な事故、重大な事故、緊急事態を含む、運用において発生するあらゆる種類の事象が、手順書に考慮されていなければならない。運用指示書には、関連した手順および現存する制約とともに実行されなければならない基本的な行動も含まれる。

オペレータースタッフは、また道路上の事故後の介入およびトンネル内の機器の故障の両者に対応できる緊急時の計画も必要とする。この計画は、通常、規則の要求事項を満足するとともに、トンネル内事故あるいは機器の故障時における最低限のトンネルオペレーターおよび介入する人員を盛り込んだ運用手順と指示を含む。緊急時の介入手順は、緊急および救助サービスが適用する手順と調整しておかねばならない。この計画書の詳細内容は各国に固有の国の指示、指令に則って定義付けされ、そのトンネルの技術的、組織的骨組みに適合するように作成される必要がある。

技術レポート2007R04の第4章“オペレータースタッフ:業務と設備”で運用組織についてより詳細に定義している。

4.5 運用コスト

トンネル内の1キロメートルは、トンネル坑外の同じ1キロメートルよりコストがかることが経験によってわかっている。地下構造物の場合、通常の運用条件下における安全な運用の確保、あるいは異常事象、事故や火災といった緊急事態におけるトンネル使用者の保護と避難、救助隊の介入を可能にするために配備された、いくつものシステムや設備が設置されている。これらの手段は、相当な投資コストになるだけではなく、特に運用と維持管理に高いコストがかかる。従って、管理者の役割は、抑制された費用の中で運用の継続性と安全性を保証することにある。

全ての場合において、トンネルの設計と建設の質のレベルが低い場合には、トンネル運用に関する高い基準であっても、運用コストの最適化を許してはいけない。このため、問題は運用段階で明らかになる前に解決法を見つけておく必要があり、運用コストはプロジェクトの様々な段階と施工過程においてもっとも考慮される必要がある。

運用は、想定している設備の寿命が減少しないように、適切なレベルで計画されなければならない。トンネル内の設備の寿命は、トンネル内は腐食性の環境にあるため、通常、他の環境より短い。

技術レポート05.06.Bの“道路トンネル:運用コストの削減”で運用コスト、特に運用コストの削減について述べている。

4.6 スタッフの採用、訓練と練習

運用スタッフに課せられている業務は安全で効率的な運用の観点からとても重要なものである。さらに、一方では技術的問題に比べ運用上の問題の方がより重要になってきており、一方では運用システムがより複雑になってきていることから、状況は変化している。

このため、運用に関わるスタッフが満たさなければならない要求事項は以下の通りである

  • 運用スタッフは採用過程において十分に審査されて選ばれるべきである。
  • 運用スタッフは任務に就く前に訓練されるべきである。
  • 運用スタッフはキャリアを積む過程で再教育を受ける必要がある。
  • 運用スタッフは可能であれば外部サービスと協力して行われる訓練に参加すべきである。

採用段階で、将来のオペレーターとして必要な資格を運用業務の性質に応じて取り決めておくべきである。忘れてはいけないのは、たとえ業務がすべての国において同様のものであっても、それらの実行に責任を有する者は、各国においては同じ種類の組織に所属する必要はないということである。それでも、要求される技術と適性は同じになるべきである。

スタッフの訓練(初回、永続的)を計画する際には、下記2点についても取り組むべきである。

  • どのような訓練を運用スタッフに提供すべきか?(あるいは、必須の訓練は何か?)
  • 訓練の質や結果を評価するために、運用マネージャーによりどのような基準が適用されるか?

訓練内容に、国で決めた規則がない場合、オペレーターは訓練プログラムをトンネル固有の特徴と要求に合うようにしなければならない。

技術レポート2007R04“道路トンネル運用スタッフの組織、採用、訓練のためのガイド”の第7章“運用スタッフの採用”と第8章“運用スタッフの訓練”には職員の採用、訓練の方法がより詳細に記述されている。

オペレーターは定期的に職員の効率性と自らが定めた手順をチェックする必要がある。従って、オペレーターは職員がトンネル内に設置された様々な設備に精通しているか確認する必要があり、そうすることで特定の業務遂行の際に起こりえる欠陥を見つけることができる。

内部で行われる訓練に加えて、オペレーターと緊急対応サービスは、交通警察、オペレーター、医療関係者、消防、救助隊が参加する合同救助訓練を企画する必要がある。各訓練結果は分析されなければならない。もし訓練から導かれる教訓に欠陥があったなら、介入戦略をもう一度見直すべきである。

新しい技術レポート「道路トンネル緊急事訓練の良い実施」は、まもなくPIARC仮想図書館で入手可能になる。

4.7 運用や事故からのフィードバック

異常事象、事故に関してのデータ収集や分析は、運用基準の評価とトンネル内のリスク評価において必要不可欠である。データ収集と分析は、トンネル内の安全性を継続的に向上させる点からもとても重要である。収集されたデータは、特に事象が発生するためのきっかけの頻度の評価を可能とする。また、収集されたデータを用いて、事象の結末、安全対策および設備の効果をフィードバックさせることが可能となる。さらに収集されたデータによってトンネル利用者の実際の行動に関する追加情報を得ることができる。

異常事象や事故に関するデータ収集や分析により、下記の二つの目的の達成を可能にする。

  • 地方レベル(すなわち、個々の単独のトンネルのレベル)において、データはトンネル所有者が向上策の定義や評価を決めるための重要な基盤を形成する。また、データは特定の道路ネットワークにおける安全性を全体的に向上させるための意思決定を助ける。
  • 国内または国際レベルにおいては、データは当局がトンネルの安全性に関連した一般的な政策を作成し、改良することを可能にするような参照フレームワークに対して鍵となる基盤を形成する。特に、データは利用者の生命を危険にさらす致命的な事故の規模(頻度と深刻さに関して)を定量化することを可能とする。また、データは安全装置の有効性を評価することや、ある場合には、あるトンネルの安全性のレベルを国内、または国際的な安全性のデータと比較することを可能とする。

最後に、データは計画段階または適切なデータベースがまだない運用中のトンネルに関係するリスク分析に役立つ情報(トンネルの種類に応じた国内統計)を提供する。

運用、特に異常事象や事故発生時、から得られた教訓は分析されなければならない。実際、もし分析結果から、欠陥が明らかになった場合、戦略あるいは運用の指示を改善することにより介入できる機会が得られる。

技術レポート2009R08「トンネルの安全な管理のための道具」では、第3章“トンネル内事故に関するデータの収集と分析”の中で事象や事故から得たデータを分析するための条件について詳しく定義している。

4.8 機器のメンテナンス

トンネルがその役目を終えるまで、オペレーターは土木構造物とトンネル設備両者の維持管理を実施しなければならない。土木構造物の維持管理についてはこの項では記述されていない。

設備の維持管理作業は2つのグループに分類される。

  • 設備の良好な運用状態を保つことを目的として、定期的に実施される予防保全対策。予防保全は、予測不可能な欠陥を出来るだけ未然に防ぐことができるという利点があり、事前にその計画を立てることは容易である。しかし、予防保全は頻繁に行うとコストが高くなってしまうため、適切に最適化する必要がある。
  • システムまたはその一部が故障したり壊れたりした場合に実施される修繕措置。修繕措置は、システムの寿命を最大限に引き延ばして使用することができるという利点がある。しかし反対に修繕措置は計画的に行うことができず、緊急時の修繕作業は通常は非常に大きなコストがかかる。

可能であれば、また、代替機能がなく安全と関連するシステムに対しては、予防保全を適用することを推奨する。予防保全は、トンネルを完全通行止めにする場合、様々な維持管理作業をまとめて計画することを可能にする。さらに、設備の良好な運用状態を保つことを可能にする。しかし、予防保全がうまく実施されたとしても、管理者は、修繕措置が必要となる場合があることを認識しておく必要がある。

通常、オペレーターのスタッフは、全ての維持管理作業は行わない。通常、オペレーターは業務を委託するので、結果として幾つかの選択肢を持つこととなる。

  • 特定の技術レベルに関係する維持管理業務のみ委託することが可能である。このように、オペレーターは技術的に複雑なことを必要としない業務(清掃、洗浄など)や、反対にとても複雑な業務(システムの監督、ラジオ再放送設備など)を委託することが可能である。
  • 一つないし複数の設備グループ(全換気システム、全遠隔操作型監視システムなど)の全業務を委託することが可能である。

技術レポート05.06.Bの第7章“維持管理のコスト”、技術レポート05.13.Bの第4章“維持管理と運用”、技術レポート2007R04の第6章“運用スタッフの編成”には、維持管理に関しての更に詳細な情報が記述されている。

4.9 維持管理と改修作業中の運用

同じ設備に対する維持管理作業はトンネルによる違いはさほどない。しかし、トンネルによっては全面または部分通行止めをすることが難しくなるような特徴(交通量が多く止めることができない、迂回路の距離が長いなど)を有するトンネルもある。この場合、オペレーターは維持管理作業が行われる間、一定の運用レベルを保たなければならない。これは、トンネル利用者の安全のみならず、維持管理作業スタッフの安全も考慮した特別な方策を採用することにのみ可能となる。

技術レポート2008R15第2章“既設の都市トンネルの運用”では、トンネルが供用されている時の維持管理の実施条件について定義している。

上記で述べたような同様の困難は、容易に閉鎖できないトンネル内の設備を改修する際にも起こる。 維持管理作業に関して、このような作業の完了には、何週間、もしくは何カ月間の期間が必要となる。その結果、念入りな方策(しばしばコスト高となる)を計画しなければならない。

技術レポート05.13.B第6章“トンネルの改装工事”では、改修の特徴について述べている。

4.10. 短いトンネル、または交通量の少ないトンネル

4.1~4.9節で述べられた勧告は、距離の短いトンネルや交通量の少ないトンネル、または小人口地区に点在するトンネルにおいては、必ずしも関連性があるとは限らない(または実行すること自体が難しい)。

このような特別なトンネルにおいては、それぞれのトンネル(または、同じ道路ネットワーク上のいくつかのトンネルのグループ)に対して下記条件を考慮した詳細で特別な分析を行うことを勧める。

  • 地理と気候条件
  • その地域で利用可能な地元、地域の要員:当局、オペレーター、緊急サービス、等
  • 経済状況
  • リスクの存在とそのレベル

この分析が、それぞれのトンネルにおける特別な条件に応じて、最も適切な運用システムの構築と実施を可能にする。

5. 運用に関連する環境問題

道路トンネルは、インフラの景観への影響や騒音公害のなど環境影響項目のいくつかを低減することが可能であるため、道路設計者は代替案としてトンネルをますます選択する。だが、解決できない環境影響やトンネルを選択することにより環境影響が増加する項目もある。政策努力により、交通を制御し、さらに削減を試みているものの、先の10年間の交通量は増加すると予想される。したがって、道路交通に関係する環境問題を考慮する必要がある。

PIARCのトンネル委員会は、下記を踏まえて、徹底的にかつ明確に大気汚染現象を調べた。

  1. 道路トンネルの換気システムの規模に関する技術的基礎としてトンネル内の汚染
  2. 委員会内の技術情報の直接的な発展としてのトンネル外部の汚染

実際には、大気汚染を考える際、換気システムのタイプに関する選択は、排気場所と排気風量を設計するための基礎を決定する。つまり、換気制御用の運用体制や空気の品質の閾値は、所用の現地の対象汚染物質を排気することにおいて、複雑な換気システムを選定するよりも、大抵の場合より効果的になり得る。

道路交通と(結果的に)車両の排出ガスは、特にトンネルのような狭い場所での深刻な環境問題を引き起こす。これらの排出ガスは、様々な汚染物質の存在により特徴付けられ、高濃度で、副作用および深刻な影響をもたらす可能性がある。PIARCのトンネル委員会は伝統的にトンネル内の車両誘発排出物と空気の品質を評価している。この目的のために、一般的なモデル化理論が見直され、関連する大気環境基準が定義され、既存の条件を特性化している。評価されモデル化された汚染物質濃度は、大気環境基準と比較される。最終的に、トンネル内部の適切な空気品質管理を保証するための緩和策が提案される(換気)。

車両から放出される熱が問題となる長大トンネルや,トンネル外の気温が高い熱帯地域においては,トンネル内の気温は重大な環境問題となる場合があり,二輪車やエアコンの付いていない車両にとって,トンネル内の温度は許容しがたいものとなる可能性がある。そのような場合の解決策としては,機械式の換気や,トンネル内での水噴霧(気化熱を利用したトンネル内の大気の冷却)が考えられる。

トンネルの排出物は、排出物が分散される地点から相対的に短い距離内の空気の品質に影響を与えるが、隣接する道路ネットワークは、より広範な領域で環境に影響を与える。それゆえにトンネルの空気の品質への影響は、そのトンネルを一部として含む外部の道路ネットワークとの関連で検討されるべきである(外気の品質に関するトンネルの影響)。

他の重要な環境問題は、騒音と振動である。環境災害の引き起こす騒音公害は、高ノイズレベルが頻繁に発生するため、工事段階で発生する可能性がある。さらに、通常交通運用における高い交通量は、許容レベルを超える可能性がある大規模なノイズレベルを、生成する可能性がある。ますます、騒音公害が高交通量道路に密接した問題になる傾向である。

騒音低減のための戦略は、計画と施工手順において、長年に渡って確立された標準手順に従う。大きな進歩としては発生源で騒音を減少させられる。つまり、特別な吸音舗装の使用は、複合機能の使用と同様に、遮音・防音バリアがますます効率的になり、騒音を減らすことができ、さらに、改良された建設機械の配備は、騒音と振動の生成を最小限に抑えることができる(騒音と振動)。

トンネルのようなインフラのライフサイクルの期間中の、水の影響は分析されなければいけないもう一つの側面である。表面や地下水理学の詳細な調査は、建設前と建設中に行われるべきである。水理学パターンや過程への最小限の遮断および変更となるように、最もダメージの少ないルートや構造要素が選択されるべきである。インフラを築き挙げる方法によって引き起こされる枯渇は、ますます重要になっているテーマである。トンネル周辺領域の水理学に関するインフラの影響についての洞察やこれらの影響の緩和方法に貢献するそれぞれの研究を実施することができる。工事現場中の建設資材の漏出物によって引き起こされる水質汚染は、漏出物を取り除くために設計された廃棄物容器を用いて低減することができる。(水への影響)

トンネル設計者と管理者の最終目的は、安全性の妥当なレベルを実現させることと環境へのあらゆる悪影響をできる限り減少させるために、機能的で環境的観点の両方から持続可能な運用を達成することである。トンネルの運用持続可能性を改善するためのさまざまな要因が考慮され分析されている。(持続可能なトンネルの運用)

貢献者

この章は、C4委員会(2008〜2011)のワーキンググループ4ににより編集された。

  • Roberto Arditi (Italy) は、5.0節を執筆し、そしてこの著作物を調整
  • Antoine Mos (France) と Hans Huijben (The Netherlands) は、"5.1外部の空気の品質に関するトンネルの影響"節を執筆した
  • Antoine Mos (France) は、"5.2騒音と振動"節を執筆した
  • Manuel Romana (Spain) は、"5.3水への影響"節を執筆した
  • Fathi Tarada (UK) は、すべての章を校閲した

日本語版は,味原和広(阪神高速道路(株))が翻訳,真下英人(国土技術政策総合研究所)が校閲,日下敦((国研)土木研究所)が変換作業を担当した. 

5.1. 外気の品質に関するトンネルの影響

道路トンネルの分野では、空気品質はトンネル内の自動車排出ガスの濃度のレベルに関して従来から考えられている。しかしながら、トンネル外の汚染物質の濃度は人々へ有害または悩ませる可能性がある。そのような汚染物濃度は、速度や風向、近隣の地形のような複雑なメカニズムに従って坑口または排気立坑から周辺環境へ急速に減少する。それゆえに、交通密度が増加した場合や都市の環境下に建設される場合には、トンネル坑口近傍またはその他の排気ポイントの空気品質に関心を払うと認識されている。

トンネル上方において、空気品質は、同じ場所にオープンエアー道路区間(明かり部)が位置づけられた場合よりも、良くなると予想される。しかしながら坑口と立坑では、交通のピストン作用と換気システムの両方または一方によって縦流または横流の気流が送りだされる際、汚染空気が放出される。バックグランド濃度やトンネル坑口または立坑に近接して位置するその他の発生源によっては、汚染物の濃度レベルは機関によって設定された最大レベルを超える可能性がある。その場合、トンネル近傍の空気品質を改善するための対策を取らなければならない。対策は、土木工事または機械工事、トンネル周辺で使用される土地計画などが挙げられる。換気指針の変更のような運用方法に基づく汚染濃度の減少は多くの場合で可能と思われる。

PIARCは、トンネルに関連した外気の空気品質に着目した技術レポート2008 R04"道路トンネル:環境に影響を与える大気質の最適化へのガイド"を発行したが、乗用車からの排出物を変更することおよびトンネル周囲の空間内におけるそれらの空間的分布を変えることによって、都市環境へ拡張するためのガイドでもある。トンネルの最適なロケーションの選定から、勾配、換気方式、排気管理、交通管理、トンネル維持管理さらには汚染物質除去技術(もし、さらに有益であれば)まで、ガイドは外気へのトンネルの影響を緩和するための幅広い範囲の設計や運用上有利な条件を考慮している。

5.2. 騒音と振動

都市部でかなり影響する可能性がある騒音は、一般に、人間に知覚される主要な不快なもののひとつとして見なされている。したがって、特に坑口や立坑の直近の音響受信の高い集中がある都市トンネルに関して、トンネルの設計時に考慮されるべきである。

交通で発生する騒音はトンネルに特有のものではない。一般に、地下インフラは音響環境に関して良い影響を持っていると見なされるが、構造によっては坑口付近に特有の問題もある。ほとんどの先進国で、騒音影響研究が新規インフラプロジェクト(または大幅な改修)毎に実施され、もちろんトンネルの存在がその段階で考慮される。

トンネルの周囲環境に影響を与える騒音の主要な発生源は交通である。トンネル内を走行する車両からの騒音の一部が、トンネル覆工によって反響し、それ自身が騒音の発生源となり坑口に到達する。一定の条件下でトンネル坑口近傍の騒音レベルは、(トンネルに)つながる明り部の騒音レベルよりも高くなり得る。しかしながら、この種の影響はトンネル坑口直近にある音響受信のみに重大となる。つまり、トンネルに由来する騒音は明り部区間の車両によって発せられた騒音の支配的な効果によって減衰させられるため、坑口から離れると騒音レベルは急激に減少する。

トンネル設備に関連する騒音発生源もある。主要な騒音発生源の1つは換気システムである。横流換気の場合、または排気立坑を有する縦流換気では、流入や流出を通してファンや気流が大きな騒音を発生する可能性があり、騒音環境基準が低目標に設定される夜間でも機能しなければならない場合もある。1つの解決策がコントロールの最適化によって換気システムの使用を減らすことかもしれないが、これは限られた程度で達成するだけである。

最も効果的な解決策は設計段階でこれらの問題を考慮に入れることである。最も際立った騒音効果が地理的に制限されると見なされる場合、空気の流入/流出を隣接するビルからできるだけ遠ざける設置をすることかもしれないが、これは費用のかなりの増加となる可能性がある。騒音発生を減少させるために、開口部のサイズを十分に大きくすることで、気流の流入/流出速度を相対的に低い値に保つべきである。さらに、ファンによって発生した騒音の換気所からの「漏洩」を防ぐために、消音器がたいてい必要である。

縦流換気の場合では、一方ではジェットファンは最高効率のために坑口のあまり近くに設置すべきでなく(結果として、ファンの騒音は交通騒音の中で「希釈される」)、そして他方ではトンネル内の許容騒音レベルを維持するために、通常は消音器がジェットファンに取り付けられるため、環境に対するファンからの騒音影響は、大抵抑えられる。しかしながら、とりわけ精度が高い機器構成のためには、詳細設計または運用方法を選択する必要がある。

交通で発生する振動は、道路トンネルの運用段階で重要な問題となることはまれである(列車は道路車両よりもより振動が発生するため、鉄道トンネルとは異なる)。そのような問題が起こるなら、最大型車両のアクセスを禁止することは別として、一般に対策はほとんどない。振動の別の発生源はファンである。これらは、過度の振動を避けるために注意深くバランスを取る必要がある。しかしながら、一般にファン振動は、環境への知覚ではなく、主として機械自身に影響を与え、そして寿命を落とす可能性がある。例えば、ジェットファンが部品を失う可能性があり、また、過度の振動のためトンネル天井から落下することさえあるため、安全上の問題でもある。振動監視はジェットファンの信頼性と安全性に極めて重要である。

建設段階の間、特に爆薬が使用されている際に、振動ははるかに問題が多い。トンネル工事と関連する環境対策は道路トンネル運用のPIARC委員会の範囲外であり、具体的な提言は ITA によって発行されている。

5.3. 水への影響

水質への道路施設の影響は、通常運用(炭化水素生成物、タイヤの摩耗などの漏洩)と事故状態(汚染物質の大量の流出)の両方で非常に重要となりうる。

トンネルの存在が問題を大きく変えることはない。すべての道路でそうだが、環境にリリースする前に水処理(貯水槽へ収集、汚染物質の除去)が必要である。しかしながら、水管理システムを設計する際、いくつかのトンネル特有の事実が考慮されるべきである。第一に、重交通量の都市トンネルでは毎月の頻度でトンネルは定期的に清掃される必要がある。これは洗浄剤を含む大量の排水を発生させる。第二に、危険物輸送が許可されるトンネルは、一般に、舗道上に可燃性液体のまん延を制限するために特定の排水路が備え付けられる。もし事故による流出が起こるなら、これらの排水路における液体汚染物の流量は、通常の路面で直面する流量よりも多いかもしれなく、水管理システムはこれらの流量に耐えることができるようにすべきである。

水に関連する非常に困難な問題は、例えば建設現場排水の濁りに関してなど、建設段階の間に影響を受ける環境問題に直面するかもしれない。したがって適切な措置が取られるべきである。いくつかの場合、それらはかなりの制約や建設工事費を意味する。トンネル工事と関連する問題は、道路トンネル運用に専念するPIARC委員会の範囲外である。したがって、読者は、さらなる詳細に関して ITA 提言を参照することが推奨される。

図5.3.1:セグメントで構築されたトンネル内の水の浸入

図5.3.1:セグメントで構築されたトンネル内の水の浸入

水の影響は、インフラのライフサイクルの期間中に、トンネルとして分析されなければいけないもう一つの側面である。

水に関するトンネルの影響(そしてトンネルに関する水の影響)の大部分は建設期間に発生するが、影響のいくつかは長期間に残り、そしてトンネル運用や維持管理への障害物となり得る。不都合やコストがかかることへの影響を避けるために、計画や設計段階の間、これらの推移に細心の注意を払わなければならない。表面と地下水理学の詳細調査を事前と工事中に実施するべきである。最小の遮断と最小の水理学的パターンと過程の変更となるように、最もダメージが小さいルート(そして構造要素)が選択されるべきである。

理論的には、トンネルは、不浸水性(水の浸入を許容せず、ライニング上に全水圧を発生させる)と透水性または半透水性(水のある程度の侵入を許容し、ライニング上に全水圧の発生を避ける)である。実際には、ほとんどのトンネルが工事中に透水性であり、運用時には半透水性である。図5.3.1は、セグメントで建設され不透水性となるように設計されたトンネルの水の侵入を示す。

図5.3.2:透水性の玄武岩層を流れる水

図5.3.2:透水性の玄武岩層を流れる水

裏打ちされていない(非ライニング)トンネル(または透水性のライニングを有する)では、水の侵入が重要になる。図5.3.2は、カナダの透水性玄武岩層を通して流れる水を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インフラ整備の方法によって引き起こされる地下水位の枯渇は、ますます重要になっているテーマである。その影響はたいていトンネル運用時も続き、給水井戸へ不可逆の影響を与え、地下水の元の水位はほとんどの場合で下がる。

図5.3.3:流出する排水とコンクリートライニングトンネルに沈澱している水酸化カルシウム(左)                 図5.3.4:施工継目における同様の影響(右)

図5.3.3:流出する排水とコンクリートライニングトンネルに沈澱している水酸化カルシウム(左)      図5.3.4:施工継目における同様の影響(右)

トンネルに流入する水は、コンクリートライニングの遊離水酸化石灰を溶かすことができ、よりアルカリ性になって、排水システムに固体析出物を放出する。この影響は、旧式の排水システムを有する古いトンネルで頻度がより高い。図5.3.3は、流出する排水とコンクリートライニングトンネルに沈澱している水酸化カルシウムを示す。図5.3.4は、施工継目における同様の影響を示す。

5.4. 持続可能なトンネルの運用

現在の国際的な傾向は、エネルギーの効率的な使用を促進すべきことと、公道の建設と運用に関する持続可能な方法を導入することを、道路オペレータと道路当局から求めることである。

PIARCの歴史を通じて、トンネル運用の効率を改善すること、運用コストの低減、そして環境影響の緩和を目的としているいくつかのレポートが発行されている。

「持続可能なトンネル運用」全般は、次のサイクル(2012-2015)の間にPIARCによって扱われる基本テーマである。


Source URL: https://tunnels.piarc.org/ja/transverse-aspects